第138話 水生
ラウルとレンゲルはそれから岩蟲にあらゆる斬撃を放つ。当然、効いてないのだがそんなことは彼らには関係なかった。ただ、船に近づかせまいと必死に耐える。そして、30分経ったくらいだろうか、仲間が500人程の一般市民を引き連れてきた。
「ようやく来たか! 早く乗れ!」
「すまねぇ! 助かる」
仲間はそう言うと、一般市民を乗船させていく。この短時間でここまで、この人数を連れてきたのはのは称賛に値する。だが、それも目の前の魔物が全く攻撃してこないからだろう。
(何故攻撃してこない?)
「レンゲルさん!」
隣のラウルに呼ばれたので見てみると、指で何かを指している。その先に視線をやると、そこには50は超える仲間達がこちらに駆けて来ていた。
「ラウル! レンゲル! よく守ってくれた! 後は俺らに任せろ! そして、すまないが乗船して一般市民の護衛を頼む!」
「おう、わかった」
レンゲルはかなり疲れていたので、非常にありがたく思い、命令通りにレンゲルとラウルは船に乗ると、すぐに出発する。街が離れていくのを見ながら、ため息をつく。
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様です、レンゲルさん」
「なんだよ、レンゲル。 お前、柄にもなく頑張ったのかよ」
そう言いながら、笑顔で近づいてくるのは同期のライトである。
「うるせぇ、俺は俺のことをしただけだよ」
「お前にしちゃ、頑張ったみたいだな」
「そういえば、他のとこはどうだったんだよ」
「一緒だよ、あの変な魔物が降ってきて戦ってるよ。 攻撃してこないのはよく分からんが、まあそのおかげで一般市民の避難がスムーズに行けたんだからな」
「成る程な、魔導士達はどうしてるんだ?」
「何体かはあの魔物を倒してるみたいだけど、殆どは馬車で逃げる貴族様を守ってるらしい」
「ケッ! 貴族様はいいご身分だ」
「ですが、魔法が有効的なのは分かったので、攻撃してこないあの魔物は脅威じゃありませんね」
「だな、そういやこの魔道具おかしいんだよ、見てくれよ」
ライトは懐から水晶玉のようなものを取り出す。中にはメッセージの魔法が組み込まれている。
「何がおかしいんだ?」
「ちょっと連絡したいことがあったから、俺の部下にメッセージ飛ばしたんだけどよ、繋がらないんだよ」
「壊れてるのか?」
「いや、傷はないけどな……」
「では、僕達に1度使ってみてください。 そうしたら、分りますよ」
「すまねぇな」
ライトは謝りながらも、手に持っている水晶玉を使う。そして、見事に繋がったのだ。
「あれ? おかしいな?」
ますます謎が深まる、ライトにラウルは少し考え口を開く。
「ライトさんの部下は今どちらに?」
「馬車の護衛をしてるはずだ。 あっちは危険がなくていいよなー」
そんな呑気なライトに対し、ラウルの表情は険しくなる。
「いえ、そんなことないかもしれませんよ」
「どういうことだ?」
「街に現れた魔物が全く攻撃してこないのはおかしいと思いませんでしたか?」
「まあ、確かにな」
「あれ、こうは考えられませんか? 敢えてそうして、人を街から離れさせていると」
それにレンゲルは険しい表情で問う。
「それになんのメリットがあるんだよ」
「それは……」
ラウルが答えようとした時、ドンと音を立てて船が止まる。
「なんだ!」
レンゲル達は手すりに近寄り、下を覗く。特に異常は今のところ見受けられない。だが、ラウルは自分の予想が当たりそうで怖くなる。
「ライト、ラウル。 何か見えるか?」
「いや、見えないが」
「そうか、いや俺の気のせいかもしれないんだが、船の下に何かいる気配がする」
「なんだと!」
ライトはそう叫び、一般市民を守るため動こうとする。だが、再び大きな音を立てて船が揺れる。そして、甲板の一般市民から叫び声が聞こえる。その方向を見ると、そこには人と同じくらいの大きさの水を身体からポタポタ垂らしている巨大な鎌を持つタガメのような蟲がいた。
「離れろ!!!」
ライトは剣を抜き飛び出す。だが、次の瞬間消えた。何が起こったのか理解できなかった。別に目を離した訳ではない、本当に消えたのだ。そんなことをしている間にも一般市民が目の前の魔物に消される。
「ラウル、大丈夫か?」
「へ?」
どうやら気づかずに震えていたらしい。レンゲルは優しく頭を撫でてくれる。
「安心しろ、俺が終わらす」
レンゲルはそう言うと、ラウルの頭から手を離し剣を抜く。そして、飛び出した。目の前の魔物は背中を向けている。今なら殺れる、そう思ったがレンゲルもライトと同じ末路を辿る。
「レンゲルさん!!!」
自分は無力だ、力はあっても勇気がない。崩れ落ちたラウルの近くに一般市民を消し終えた魔物がやってくる。そして、ラウルも消えた。人がいなくなった船、魔物は海に戻る。数分後、船が凄まじい音を立て瓦解し、ゆっくりと沈むのだった。
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