第137話 囮
水都の夜、人が寝静まり静かな街にランタンを持った男2人の姿。身軽そうだが、もしものために最低限の鎧を着けているのでこの街の兵士か何かだと推測できる。暫くすると、髭を生やした30後半だろう男が口を開く。
「ラウル、暇だな」
男のそれにやれやれと言わんばかりの態度を取っているのは、10以上年下であろう茶髪のイケメンである。
「レンゲルさん、そんなこと言っちゃダメですよ。 何かあった時のために僕達がいるんですから」
「と言ってもよ、俺達の他にも巡回してるやついるんだから大丈夫だろ」
「ダメです」
「頑固な奴だ、少しぐらい娯楽があってもいいじゃないか。 そうだ、船を見に行くってのはどうだ? これぐらい良いだろ?」
ラウルはその言葉にため息をつく。
「ダメって言ってもごねるでしょ。 まあ、巡回のルートにその場所はあるんで、少しぐらいならいいですよ」
「まじ? 今日は太っぱらだな!」
「巡回ルートにあったんで、偶々ですよ。 次からはないですよ」
「わかってるって」
ラウルとレンゲルはそんな話をしながら、決められた巡回ルートを回り、海に着く。大きな船を見上げながらレンゲルは呟く。
「やっぱ、でけぇな」
「当たり前でしょ、大量の物資を運ぶんですから」
「そういや、どこから運んで来てるんだろうな」
「そんなの知るわけないじゃないですか」
「そりゃそうだ」
潮の音が心地よく、2人は時間を忘れてしまいそうだ。いつも見ている風景、聞いてる音なのに、それが今日はなんだか違うところに来たみたいだ。
「そういや、蟲都って知ってるか」
「そりゃあ知ってますよ。 アクマリ女王陛下に恐れをなして水都の傘下に入ったていう情けない王がいるって」
「そうそう、最近人が増えてきたのもそこから来てる奴が殆どらしいぞ。 どうやら蟲都は恐怖により支配してるらしい」
「うわぁ…… それは嫌だなぁ。 そんなことすれば、どうなるか目に見えてるのに……」
「そうだよな、俺には難しいことはわからんが、どうなるかぐらい分かるもんだと思うけどな」
「さあ、僕にはわかりませんよ。 さて、そろそろ時間ですよ」
「もうかよ! あーあ、もっと楽な仕事ないかなー」
「バカ言ってないで行きますよ」
そう言って行こうとする2人だが、次の瞬間何かがドカンと音を立てて降ってくる。何事かとそれを凝視する2人だが、砂煙で見えない。
「なんだ…… これ」
「て、敵なんですかね…… でも空からって……」
攻められるとするなら海か陸、その2つだと思っている2人には敵が攻めてきたとは考えることはできない。やがて砂煙が晴れると、そこには巨大な岩が地面にめり込むようにして埋まっていた。
「岩って…… 一応知らせた方がいいよな?」
「そうですね、知らせましょ……」
ラウルがそう答えようとした時、先程とは離れた位置に岩が大きな音を立てて降ってくる。ふと、空を見上げるレンゲルは目を見開く。そこには目視だけでも50は超える岩が降ってきているからだ。
「なんだ! これはあああぁぁぁ!!!」
訳の分からない状況に敵襲を知らせる鐘が鳴る。考えられないが、おそらく敵は空から来たのだろう。そう思った矢先、岩が動き始める。
「な、なんだ⁉︎」
岩蟲は唸りながらも鋭い目で2人を睨みつける。それに戸惑う2人だが、腰の剣を抜き構える。その間にも辺りで岩蟲が凄まじい音を立てながら降ってくる。
「よく分からんが、魔物みたいだな!」
「そのようですね、ここは慎重に……」
だが、ラウルのその言葉を言う前にレンゲルは飛び出す。そして、上段からの1撃を加えるが、弾かれてしまう。
「なんちゅう固さだよ!」
「レンゲルさん、下がって!」
レンゲルは指示通り下がると、ラウルは剣で岩蟲を突く。刀身は青く光っており、どこか神秘的だ。ラウルはそれだけをすると、後ろに引く。そして、静かに呟く。
「――剣技・ナルータルショット――」
ラウルがそう言うと、凄まじい振動が身体を駆け巡る。普通の生物ならかなりのダメージを食らうだろう。だが、技が終わってもピンピンとしている岩蟲の姿があった。
「おいおい、まじかよ。 あれ食らってなんともないのかよ」
「もしかすると、魔法で防いだだけかもしれません。 どんどん攻撃しましょう」
2人はタイミングを計り、同時に飛び出す。2人は変なフェイントなどを入れずに、力と技術を使い岩蟲を斬り裂く。とてつもない数の斬撃を叩きこまれる岩蟲だが、全くびくともしない。それを理解した2人は一旦後ろに下がる。
「はぁ、はぁ…… マジで言ってんのかよ」
「どうやら、僕達の攻撃は無駄のようですね。 おそらく物理攻撃が効かないのでしょう。 それに全くと言っていい程攻撃してきません。 おそらく囮です」
「マジかよ…… 連絡は?」
「無いです、レンゲルさんが気を引いてくれるなら僕が魔道具で連絡します」
「よし、頼んだ」
レンゲルはそう言うと、再び剣を振るう。無数の斬撃に岩蟲は効いてないだろうが、その圧により徐々にその場から後ろに下がっている。徐々に悲鳴の数が増え、焦りが増す。
(くそ、やっぱり俺には無理だ…… まだなのかよ)
「レンゲルさん!」
ラウルは連絡を終えたのか、声をかけてきたのでレンゲルは警戒しつつも近づく。
「どうだ?」
「向こうも苦戦してるようです。 取り敢えずは、一般市民を船から逃せと言われました。 同僚が引き連れてこちらに向かってるようです」
「そうか、それなら頑張らないとな」
「はい、任せてください」
そうして、2人は船に近づけさせないよう岩蟲に飛び出すのだった。
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