災厄の蟲使い

第135話 船

「ど、どういうことでしょうか？」

アリシアは急にそんなことを言うゼフに何が起こっているのか分からず問う。

「簡単な話だ、俺は覇王を恐れる演技をしていたということだ」

「それは一体何故ですか？」

「俺は裏切りというのをかなり危険視している。 ミリアがその例だな。 奴のせいで俺の行動はアクマリに筒抜けだった。 だから、裏切りを限りなく0に近づけるためアクマリの要求を呑んだ」

「それで裏切りを少なくする等無理なのでは？ わざわざ民を減らしてまで…… いえ、そういうことなのですね」

「ああ、そうだ。　蟲都が水都より弱い、移動は全て保証してくれると情報を流せば、恐怖に嫌気が差してきた奴、蟲都のことを全くなんとも思ってない奴等が待遇の良い水都に行き、残るのは街に愛着がある者、恐怖に支配された者のみになる」

「つまり、裏切りの可能性は低くなると。 ですが、それはそう要求したからなのでは？ もし、他のことを要求された場合どうなされたのですか？」

「別にどうもしない。 やり方は考えていたからな。 人間を要求したのは完全に嬉しい誤算だ」

「なんとなくですが、ゼフ様の考えがわかりました。 ですが、今の蟲都は人も資金もありません。 この後は攻めるというのですか？」

「そうだ」

「覇王はどうなさるのでしょうか？」

そう、こうは言っても根本的な解決になっていない。覇王という絶対的な対象がいるという状態では攻めることすらままならないのではないかと感じていた。だが、ゼフは笑う。

「問題ない、あいつは覇王を召喚できない」

「それはどこからの情報でしょうか？」

「どこ…… ということはない。 俺が調べた結果の話をしている。 そもそもこの世界に存在する者に俺の知っている覇王を召喚できない。 それには圧倒的に魔力が足りない」

「それが理由でしょうか？ では、ミリアの裏切りも想定範囲内だと」

「痛いとこをついてくる奴だ。 あれは完全に誤算だ。 まさかあれ程までに精神が強い人間がいるとは思えなかった。 まあ、だからと言うわけか神眼の弱点をつくように立ち回ったつもりだ」

「弱点…… それは一体……」

アリシアがそう問おうとした時、この部屋の外から叫び声が聞こえる。

「な、何⁉︎」

「裏切り者を始末しただけだ。 そう焦るな」

その言葉に理解する。先程のやり取りにより出て行った者達が殺られたのだと。

「ククク、俺はやらないとは言ったが、蟲達はどうやらそうはいかなかったようだ」

「そういうことですか」

「アリシア、さっき聞こうとしたことは少しは自分で考えろ。 ヒントは見たものの全てのことを知ることができるということだ」

「…… わかりました」

答えを聞けないのは残念だが、逆らうことはできない。頭を下げ了解の意を示す。

「さて、話すのもこのくらいにして、そろそろ本格的な作戦を話す。 ついて来い」

ゼフはそう言うと、部屋から出ていく。それにここに残った者は続いていくのだった。

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バーナレクから歩くこと数分。サンとイチを加えたゼフは何もない平原で足を止める。

「さて、これから水都を攻める。 来るのはサン、イチ、アリシアだけでいい。 エリシュロン、お前には俺が留守の間、街を守る使命を与える」

「わかりました、お任せください」

「蟲達にもお前の命令を聞くように言っておくが、下手なことはするなよ」

「はい、わかりました」

「それで次はサン」

「はい、ゼフ様」

「お前は確か船に乗りたいと言っていたな？」

「はい、言っておりました」

「今から見せてやる。 ジ・ザーズ、記憶共有の能力を使い、船を3隻召喚しろ」

ゼフがそう命令すると、目の前に3隻の木でできた大きな船が召喚される。いきなり出てきたそれに驚き、尻餅をついてる者もいる。

「チームは3つに分ける。 俺とサン、アリシアとフォルミルド、イチだ」

「ちょ、ちょっと待ってください！ ご主人様！ 1人なんて聞いてないっす」

「安心しろ、お前がやることは簡単なことだ。 今から説明する」

「りょ、了解っす……」

イチは心配になりながらも渋々了承する。

「ゼフ様、船ということは水がある海から攻めるのでしょうか？」

「ククク、まあ普通はそう思うよな。 俺らが攻めるのは空からだ」

「そ、空とは？」

「飛行系の魔法をジ・ザーズに付与してもらう。 まさか空から攻めてくるとは思わないだろう」

「確かにそうですね」

「さて、まずイチだが、お前は囮だ」

「へ？ ど、どういうことでしょうか？」

「お前は俺の指示を聞き、水都の近くに寄るんだ。 その際、ジ・ザーズに水中でも活動できる大量の蟲達と一緒にな。 お前に何かあっては困るからな」

「りょ、了解っす」

「そして、アリシア。 お前は俺達について来い。 何をするかはその時説明する」

「わかりました」

「最後に蟲都から蟲を1体連れて行く。 これも囮兼何かあったときのためにな」

それを聞いたアリシアは嫌な予感がする。ゼフなら蟲を召喚することなど容易いだろう。だが、それをしないということは召喚に時間がかかる蟲。ゼフが考えていることを悟ったかのように口を開く。

「ヘヴン・アルタイルを連れて行く。 守備が手薄になったアルタイルにはデス・レイに魔法で守ってもらおう。 さあ、見せつけてやろうじゃないか。 格の違いを」

こうしてゼフは空飛ぶ船に乗り蟲都を発つ。だが、アリシアとサンは未だに拭えていない内部の裏切り者がいる可能性について不安を抱えるのだった。