第134話 見据える先は
水都から帰ってきて1ヶ月程が経った。蟲都は調査隊を殺したことを追及され、かなりの額の賠償を払った。普通ならば警告をしたにもかかわらず、許可を取らずに来たのは向こうにも非がある。だが、ゼフはそれをしなかったせいで、現状はよろしくない。
「このままじゃ本当に……」
自室で1人作業をするアリシアは呟く。彼女の役目は街に関することの全てである。財政、ゼフへの報告、しっかりとした法の整備、民達の要望を聞いたりと、それは普通ではない仕事量である。確かに少しは手伝ってもらっているが、それができるのはアリシアが優秀だからなのだろう。
「昨日は約3000人が蟲都を離れたのね…… 減ってきてはいるけれど……」
現状は最悪中の最悪である。このままでは、本当に街の規模に対して人の数が足らなくなる。今はなんとか、奴隷を使い凌いでいる。
「どうすれば…… ゼフの考えを改めさせれるの……」
現状、アリシアを含む蟲都の人間はゼフかアクマリかという選択を強いられている。
「はぁ……」
「そんな溜息をついて、嫌なことでもありましたか?」
ふいに後ろからかけられた声。振り向くと、そこには顔がない白色の悪魔が立っていた。
「フォルミルド…… あなた居たのね」
「はい、私は貴方と契約をしているのです。 なので、様子を見るのは必然であります」
「そう…… フォルミルド、あなたにこの先どうなるかわかる?」
「この先ですか…… さあ、どうなるのでしょう。 ですが、1つ言えることがあります。 ゼフ様は未だ本気を出されていない。 いや、出せないと言うべきでしょうか」
「どういうこと……?」
アリシアはその言葉に驚き、フォルミルドに質問する。
「簡単な話です。 現在、召喚している中で最強の蟲は終焉種です。 ですが、ゼフ様はそれを超える禁忌種という蟲を召喚できるのです」
「…… それも叡智の力?」
「いえ、これはゼフ様を問いただしたところ話してくれました」
「はあ、何してるのよ。 貴方が死んだら私の身を危ないんだから」
「いえ、それはないですよ。 ゼフ様はああ見えて自分の出来ることと出来ないことをよく理解してらっしゃいます。 なので、私やアリシアを殺したとこでメリットはないのですよ」
「貴方が言うならそうなのね。 でも、どうして彼は何もしないの? 私は自分の街を守るために残るけど、こんなの理解できないわ!」
「それは私には答えられないですね」
「なら――」
「ですが、貴方ならできます。 悪魔の能力は契約した人間が最も効力を発揮します。 なので、今は難しいでしょうけど、いつかゼフ様のお考えが分かりますよ」
「そう、わかったわ。 それじゃあ、いち早く彼の考えがわかるように特訓するわ」
「その言葉を待っていました」
アリシアはやっていることを全て放り投げ、能力の特訓を始めるのだった。
✳︎✳︎✳︎
その日の夜、アリシアを含む城に居る全てのものが玉座の間に集められる。メイドや城在住の兵士、共に内政を行なっている大臣の姿も見受けられた。
「よく集まったな。 楽してくれていい、俺からは何も言わん」
静かな空間にゼフが最初に口を開く。あまりにも優しいその言動に動揺する者が多数いるが、すぐにそれもおさまる。
「さて、今回お前らに集まってもらったのはとあることを伝えたいからだ」
ゼフのそれに全ての者が息を飲む。何が起こるのだと。そして、ゼフは再び口を開く。
「それは、望むなら蟲都を出て水都に行っても良いということだ。 安心しろ、それで俺は殺したりはしない」
アリシア何を言ってるんだと思うが、言葉にすることはない。そんな中、兵士の1人が手を挙げる。
「それは本当なのでしょうか……?」
「信じてないのか? だったらこう言えばいいか、詰みだと」
その言葉で兵士を含めこの場にいる全ての者が理解する。蟲都は、ゼフは負けたのだと。その言葉を境に1人、また1人とその場を去っていく。それは王に対する態度とは思えないほど不敬極まりないが、ゼフはそれを咎めることがない。そして、軽く100を超えていたその人数は1桁となっていた。
「お前達はいいのか? アリシア」
「私はこの街を守ります。 それが私の役目です」
「エリシュロン」
「わしはこの街と共に死にましょう」
それからもゼフは時間をかけて残っている者達の意思を確認する。そして、全ての者に確認が終えた頃、鐘の鳴る音が聞こえる。それは蟲都の終焉を歓迎するようだった。だが、何かがおかしい。この時間に鐘が鳴るなど聞いてないからだ。恐る恐るゼフを見ると笑っていた。
「ククク、詰みだ詰み。 これで安心して攻めることができるな。 さあ、アクマリに俺らの恐ろしさを教えてやろうじゃないか。 俺が見据えてるのはお前じゃないのだと」
こうして悪魔のような人間が再び姿を現したのだった。
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