第133話 変な命令

ここは蟲都、名前をデスレイ。ゼフは転がっている沢山の死体に近づき呟く。


「愚かな奴らだ、警告はしたというのに」


そんなことをしていると、一緒に同行していたサンがおそるおそる寄ってくる。


「ゼフ様、この沢山の死体は一体?」


サンは数え切れないほどの死体を見渡す。それは魔物が殆どだが、人間も混じっている。


「デス・レイにやられた者達だ。 かなり腐敗が進んでいるな。 勿体ない、バーナレクに持って帰るとするか」


ゼフはそう言うと、召喚魔法を発動させて大量のアザメロウを召喚する。


「さて、ジザーズ。 アザメロウがデス・レイに殺されないよう高位の阻害魔法と抑制魔法をかけろ」


ゼフがそう言うと、アザメロウ達は体が少し光る。どうやら魔法をかけ終えたらしい。時間にして3秒程である。


「アザメロウ、収納魔法を使い、死体を出来るだけ詰めろ」


「ゼフ様」


そんな淡々と命令をしていると、サンが声をかけてくる。


「なんだ?」


「ゼフ様は前に仰いましたよね。 デスレイは死の街だと、決して近づくなと。 なのに私が生きてるのは先程発動した魔法に関係があるのですか?」


「勿論だ、そもそも能力とは万能ではない。 魔法か能力で防ぐ又は弱体化させることができる。 今回やったのは抑制魔法により、ジ・ザーズの阻害魔法が効くように弱らせ、阻害魔法でアザメロウに干渉する前に死の能力を防いだということだ」


「…… 難しいですね」


「お前には関係ないことだから気にすることない。 それよりも俺が言っていたことはやってるか?」


「あのよく分からない命令ですか?」


サンは蟲都に戻った時にある命令をゼフから受けていた。それはゼフと大体同じ年齢の男性を介護する練習をするということである。


「今は分からなくてもいい。 それは念のためだからな。 今は何も考えずに介護の練習をしとくんだ」


「…… わかりました」


偶にゼフは意味のわからないことを言うが、今回は本当に意味がわからない。きっとそれも何か狙いがあるのだろうが。


「そういえば、サン。 お前は蟲都を出るのか?」


「蟲都を出るですか? そんなことしません。 私はゼフ様の奴隷ですから」


「そうか、ならばイチとニにも伝えろ。 お前達の考えを示せと」


「どういう意味ですか?」


「蟲都を出るのも自由だということだ。 奴隷だからと言って何か咎めたりしない」


「わかりました、そう伝えときます」


サンは素直にそう答える。


「そう言えば、前に俺が暗殺されたことがあったよな?」


「はい」


「その暗殺者だが、どうもアクマリの部下じゃない可能性が出てきた」


「どういうことですか?」


「情報の出所は言えないが、ゼルが嘘をついた可能性があると言うことだ。 いや、あれが真実である可能性もあるか。 とにかく俺とアクマリを争わせて片方がやられるか、共倒れを狙っている奴がいるかもしれないということだ」


「…… それをどうして私に?」


「信頼してるからだ、それ以外に何がある?」


「そ、そうなんですね…… ありがとうございます」


サンは信頼されてると言われ、つい嬉しくて笑みが溢れる。


「場合によっては、最悪の状況になる。 まあ、これが全て俺の妄想で終わることを祈るしかないな」


「はい!」


きっと大丈夫だろう。そう思うが、根本的な問題解決になっておらず、大量のアザメロウ達を連れ、バーナレクへ帰るのだった。



✳︎✳︎✳︎



城の中のとある一室、サンの自室にてゼフに言われたことをイチとニに話す。


「なるほどっすね」


「それで2人はどうするんですか?」


「それが本当なら僕は蟲都を出て行くよ」


「何言ってるっすか! ご主人様の恩を忘れたっすか!」


「イチ、君は何を言ってるんだ? 恨みはあれど、恩なんかあるはずないだろ。 それにこの街の人口はもう目もあてられないじゃないか。 魔物じゃ家を作ったり、農作物を耕したりはできないよ?」


「それは、そうっすけど……」


「それじゃあ、僕はご主人様…… いや、ゼフの言う通り水都に行かせてもらうよ」


ニはそう言うと、部屋を出ていく。それを2人は止めることができなかった。


「だ、大丈夫っす。 俺は出ていかないっすから」


「イチさん、ありがとうございます」


やっぱりあんな奴でも共に過ごした時間は楽しかった。そんなことをイチは思う。


「そういえば、サンはデスレイにご主人様と一緒に行ったっすけど、どんな感じだったっすか?」


「デスレイですか、特に何もない場所でした」


「そうだったんすか…… あはははは」


そんな会話をするが、長くは続かず、イチは気まずくなり部屋を出ていく。


「ゼフ様……」


そして、1人部屋で自らの主人の名前を呟くのだった。

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