第131話 調査
遠くに見えるのは壁に囲まれた巨大な街。だが、人の出入りはおろか、気配はない。そんな不気味な街、元王都、現在はデスレイとなったそれを見ながら様々な者たちを束ねている調査隊のリーダーのレイニーは1人呟く。
「異常だな……」
目に止まるのは大きく崩れた壁。そして、線を引くようにして全員が全員死んでるであろう魔物の姿である。ここに来るまで魔物の姿は見当たらなかったが、まさかこんな形で出会うとは思わなかった。
「隊長!」
そこに部下であるイケメンのヘンスが近づいてくる。
「どうした?」
「おそらくこの地点は街から2km程なのでもう少し近づけますが、どうしますか?」
そう、俺達に出された指示はデスヘルに居るとされる終焉種の力を見極めること。その際、1kmは離れるようにということである。
「そうだな、少しぐらいなら大丈夫だろう」
「では、進軍の指示を出してきます」
ヘンスはそう言うと、駆けていく。それにしても本当に色々な人がいる。剣士、弓士、斧士、槍士に魔導士まで本当に様々である。だが、職業が違う者たちにも唯一の共通点があった。それは冒険者ということである。ただし、レイニーとヘンスを除くが。
「はぁ、どうして俺がこんなに危険なことをしなければならないんだ……。 確かに実力も下の方だけどさ……」
レイニーは水城に仕える魔導士部隊の一員である。だが、最近は魔法のレベルが上がったからか、置いてきぼりにされている。そこにアクマリがゼフから賠償をより多く得るための策略が含まれていることを考えることはない。
「ていうか終焉種ってなんだよ……。 俺はもっと上に行くはずの男だったんだよ…… どこで間違ったんだ……」
そんな思いが届く筈もなく、ヘンスが伝え終わったのか200程度からなる調査隊は前へ進み始めるのだった。
✳︎✳︎✳︎
極限までデスヘルに近づいた調査隊は前衛職を前に、魔導士を含む後衛職を後ろに配置する。正直なところこれに意味はない。だが、雰囲気というものは大事であり、いわゆるそれである。魔導士の数は全員で20名、詠唱を開始する。
(ここからじゃ見えないな…… まあ、問題ないが)
レイニーはそう考えると、魔力の消費が少なく、長距離にも使えるフラグボールという光と火属性の混合魔法を撃つ。この魔法は生物を捕捉すると、追尾して当たるまで追いかける。欠点としては魔物にしか効かないことと、威力がそこまで高くないことである。
「…… どうだ?」
特に叫び声のようなものは聞こえない。いや、もしかしたら効いてないかもしれない。そもそも敵が視認できないのに攻撃するなど無謀にも等しい。ただし、それは向こう側もこちらを視認できないので反撃されにくいとも考えれる。
(はぁ…… どう報告するかな……)
次々と放たれる魔法、他の冒険者は飽きてきたのか欠伸をするものすら現れ始めた。
(ここまでだな、そもそも射程が1km以上ある魔法なんか撃てるかよ!)
そんな愚痴を心の中で呟いていると、冒険者の剣士である男の1人が近づいてくる。
「なあ、隊長」
「なんだ」
「なんだじゃねぇよ! このままじゃ何もできないまま帰ることになるじゃないか!」
「そうだな、それも仕方ないだろう」
「仕方ないじゃねぇよ! それじゃあ何の成果も上げられるねぇじゃねぇか!」
どうやらこの男は失敗しても払われる多額の報酬よりも、デスレイに存在する未知の魔物の存在を明らかにしたいらしい。確かにその方がランクもすぐ上がるだろう。だが、危険だ。
「依頼とはそういうものだ。 お前は内容を聞いてなかったのか?」
「聞いていたさ、未知の魔物と戦えるって」
(なるほど、戦闘狂か)
ため息を吐きながらもレイニーは口を開く。
「知るか、戦いたきゃ1人で戦え」
その言葉でしばらくの間、沈黙が訪れる。言い過ぎたかと思ったその時、剣士の男がゆっくりと口を開く。
「ああ、そうかよ。 それじゃあ、俺1人でやらせてもらうわ」
剣士の男はそう言うと、レイニーに背中を向け、陣形を守らずにデスレイに近づいていく。
「おい! 何してるんだ!」
レイニーがそう叫ぶが、無視してどんどん進む。そして、自らの発言を後悔する。
(まさかあそこまで馬鹿だとは思わなかった。 あの行動を見る限り、1km以内が危険ってことも信じてないな)
だが、レイニーは事情を知っている冒険者に助けを求め、叫ぶだけだ。危険なのは分かりきっているので動けない。それは協力を求めた冒険者も同じらしくその場から動かない。
(クソが! なんであんな奴がここにいるんだよ!)
そんなことを心の中で思っても届くことはない。暫く叫び続けると、剣士の男の足が止まる。やっと耳を傾けてくれたと思った矢先、男の体が前方へゆっくりと倒れる。
「…… え?」
全く理解できない状況に困惑するが、線のように並んでいる魔物にゆっくりと顔を向ける。そして、理解する。
「まさか…… 1km以内に入ったら死ぬのか……。 そんなこと教えてもらってないぞ……」
未知の恐怖に怯えるレイニーだが、そんな余裕はもうない。何故なら1kmよりも外にいる筈の冒険者の1人が剣士の男と同じように倒れたからである。
「だ、大丈夫か!」
レイニーは駆け寄り、脈を測るが全く動いていない。
「嘘だろ……」
そして、バタンと後ろから倒れる音が聞こえる。もう見なくても大体わかっている。あの剣士の男のせいで中にいる終焉種という奴を怒らせたのだと。
「て、撤退だ!」
レイニーのその叫びで冒険者はデスレイから離れるようにして逃げる。だが、1人、また1人と倒れる。
「ヘンス!」
部下のヘンスを呼ぶが、人がごちゃごちゃしていてわからない。
「クソ!」
そう叫ぶが、数秒後だろうか、意識が遠のいていくのを感じるのだった。
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