第130話 推察

時は2週間程前に遡る。自室で仕事をするアクマリだが、そこにエルミアからあるものを渡される。


「書簡…… 一体どこの街じゃ?」


「蟲都からです、アクマリ様」


「そうか、早速あやつも妾に勝てんと踏んだのかのう。 どれどれ」


アクマリは書簡を綺麗に開くと、そこに書いてある内容をものの数秒で読み上げる。そして、可笑しくも笑ってしまう。


「冗談じゃろ? これは真実かえ、ミリアよ」


部屋の隅で直立不動の姿勢を保っていたミリアがアクマリに近づき、その内容を確認する。


「元王都、現デスレイには近づかないこと。 あそこには終焉種が1体だけ配置されている。 くれぐれも街から1km以上の距離を保つことですか……」


「そうじゃ、お主の神眼なら知っていてもおかしくないのではないか?」


「はっきりとした内容は覚えていないのですが、それでもよろしいでしょうか?」


「かまわん、話せ」


「わかりました、では最初から話させてもらいます。 まずゼフの能力についてですが、私達と変わらない10個程しかありませんでした」


「それはメッセージで聞いておった内容じゃな。 それと合わせて召喚士としての能力も持っておると」


「はい、生物には職業と役割というものが与えられますが、ゼフは職業という欄には召喚士と表示されておりました」


役割―― それは未だ人類、いやこの世界の生物があることは知っているが、どうすればなれるか、どういうものがあるのか等分かっていないことが多くある。あるにはある、そして何かの役割を与えられれば全ての能力値が飛躍的に上昇し、強くなれるのだ。知っているもの言うなら聖都の勇者、そして魔王がこれに当たっていた。


「ゼフは私の神眼で見た限りでは召喚できる種族は25種類、そしてその中で最も強いのが終焉種です。 もう1つ上の種族も召喚できるようですが、私が見た中には含まれておらず、彼自身召喚する気がないようなので省かせてもらいます」


「ふむ、それでその終焉種は強いのかえ?」


「はっきり申し上げますと化け物だと思われます」


「1ついいっちゃ?」


そこにクレアラトルが口を開く。


「はい、大丈夫です」


「その化け物ってどれくらいっちゃ? 山を一瞬で破壊できるほどっちゃ?」


「そこは…… わかりません。 ただ、圧倒的な魔力、強大な多数の能力、そして何事にも対処できる高位の魔法を持っているようです。 また、種族特有の能力も……」


「かぁー、そりゃあ強いっちゃね」


「ミリアさん、よろしいですか?」


今度はミリオンが手をあげる。


「はい、ミリオンさん」


「種族特有の能力ということは、終焉種も持っておられるのですね?」


「はい、終焉種が持っている能力は種類によって異なりますが、絶対に言えることがあります」


ミリアが発する次の言葉にこの部屋の全ての生物が注目する。


「それは終わらせる能力です。 動物も植物も環境をも含む全てです」


「ふむ、そうか。 ではデスレイにどのような終焉種がいるか分かるかのう?」


「はい、街の名前と同じくデス・レイです。 能力は周囲に死を与える能力です」


「死と来たか…… それを抑えることはできるか?」


「残念ながらこの能力自体、私達が無意識に呼吸をするのと変わらないですので抑えることはできません。 もしも、抑えれたとしても支障はないと思われたす」


「なるほどのう、少々厄介じゃな」


「アクマリ様」


「なんじゃ、エルミア」


「調査隊を派遣してみては如何でしょうか?」


「調査隊じゃと? 何故そのようなリスクを冒せねばならん」


「はっきりと申し上げますと、私はミリア様のことを信じておりません」


「裏切ってる可能性があると?」


「はい」


「ホホホ、エルミアも用心深いのう。 じゃが、その点は安心せい。 ミリアは制約の能力により妾を裏切ることができん。 そうじゃな?」


「そうっちゃ」


「もしも、制約の能力を破棄できる何かを蟲王が隠し持っていたら……」


「そんなことはない …… とは言えんのう。 じゃが、妾は今までそれを警戒してきたが、クレアラトルの制約の能力もミリオンの誘惑の能力も解かれたことがない」


「そうですが……」


「じゃが、お主の言いたいこともわかる。 ここはその終焉種というやらの力を見るついでと行こうかの。 ミリアが嘘をついてればこれでわかる。 本当だとしても力を見れたということで儲けじゃ」


「有難うございます。 ところでどうやって力を測るおつもりですか? この書簡には1kmと書かれておりますのでミリアの情報が正しければその範囲内に待っているのは死と推察できます」


「ホホホ、ここは魔導士を連れて行けば良い。 エルミアは蟲都に賠償を要求する準備を整えよ」


「賠償ですか?」


「そうじゃ、例え誰も死ななかったとしても、そちの街で妾の部下が死んだと言えば良い。 いわゆる捏造じゃな」


「応じるでしょうか?」


「制約の能力を忘れたか? あれは絶対じゃ。 もし、断るようなら能力を消す何かがあるということじゃ」


「つまり…… どういうことでしょうか?」


「妾の考えではたとえ制約を無効化できる何かを持っていたとし、それをミリアに使ったとしてもわざわざ嘘を言うように指示はせん。 それは隠し持ってこそ意味があるからのう」


「なるほど、理解しました」


「それでもこの程度のことでバラすことはないじゃろう。 呼び出しても良いが、これから蟲都から流れてきてる者たちで忙しくなるからのう」


「では、いつ頃賠償を請求すれば?」


「そうじゃな、調査隊が帰ってきた頃じゃな。 こうすれば辻褄が合い、水都にやってきた新しい民達の反感は買わないじゃろう」


これにより水都はアクマリの独裁によって成り立っていることを知られることはない。


「それと、ミリオン」


「はい、なんでしょう」


「お主は新しく来たものたちに誘惑の能力を使うんじゃ」


「わかりました」


こうして話し合いは終わり、一度の平穏が訪れるのだった。

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