第129話 敗北

ゼフ達は実質的な敗北を叩きつけられた。だからか、行きのような雰囲気はなく、全員が黙り込んでいる。そんな中、アリシアは今の重い空気を変えるために口を開く。


「ゼフ様、本当に良かったのですか?」


「何がだ?」


「あのクレアラトルという悪魔の制約という能力についてです」


「別にあれぐらいどうということない」


「ですが……」


「お前だって能力を持ってるだろ?」


「はい、6つ程所持してます。 そんなのは当たり前の話です」


「そうだ、能力はどんな奴だろうと最低でも1つ持っている。 あのクレアラトルという悪魔が使うのもそれに過ぎん」


「なら、どうして何もせずに制約の能力を使わせたのですか?」


「簡単な話だ、対抗策があるからだ。 この世界…… いや、どこの世界だろうと何事にも対抗策は存在する。 もし、無ければ作ればいい。 そうやって順応していく者だけがこの先生き残れるんだ」


ゼフは聞いてもないことをペラペラと喋るが、アリシアが聞きたいのはそういうことではない。力でねじふせることもできたはずなのにどうしてそうしなかった理由を聞きたいのだ。大体の理由は見当がついてはいるけれど。


「そのような面倒なことをせずでも良かったのでは? 私としましてはあのような条件を受ける意味が分かりません」


「お前にはわからない狙いがある。 気にするな」


「覇王ですか?」


アリシアがそれを口にするとゼフの表情が明らかに険しくなるのがわかる。


「覇王か…… まあ、それも要因の1つだな」


「あれは水都の女王の嘘である可能性が高いと思われます。 私も召喚魔法の知識は少しですがあるのでわかります。 覇王なるものの存在を召喚するのに必要な魔力は到底不可能なことを」


「だが、可能性は0じゃない」


「それはそうですが……」


今まで見てきたあの強情なゼフとは思えない弱気な態度である。いや、きっとこれも演技なのかもしれない。だけど、今演技するメリットがわからない。そんなことを考えていると、ゼフは話し出す。


「俺は覇王という存在がどれだけ恐ろしい存在か知っている。 あれは化け物の中の化け物だ。 絶対に勝てない」


「そんな存在が少しでもあるなら水都の実質的な従都になっても良いと?」


「ああ、それが最善だからな」


アリシアはもうこれ以上追求しても意味がないことを知ると、頭を下げ蟲都に着くまで何も話さないのであった。



✳︎✳︎✳︎



蟲都に着いたゼフは早速アクマリに言われた通り、民達にこの蟲都から水都に移っても良いということをゼフ自らデスレイ、バーナレク、アルタイルを周り民達に説明をした。それを聞いた民は最初こそ疑っていたが、次々とその姿を消していった。


「ゼフ様」


アリシアは豪華な椅子に座っているゼフを呼ぶと、眠そうにこちらに顔を向ける。現在、アクマリと出会ってから10日程経っている。民の数は5割減と目を覆い隠したい現状である。


「なんだアリシア」


「このままでは蟲都は滅びます。 ここは無理矢理にでも蟲都から出るものに罰則を与えれば良かったのでは?」


「そんなことすれば、アクマリの指示に逆らうことになる。 そうなれば覇王を呼ばれかねん」


「ですが…… この状況は……」


「安心しろ、今耐えればこの状況も脱することができる」


「本当ですか……?」


涙目なアリシアにゼフはいつものように不適な笑みを浮かべ頷く。彼のことをもう少し信じよう、そう思ったのだった。だが、それから更に10日が経っても状況が良くなることはなかった。寧ろ民の数が更に減り状況は悪くなっていた。

そんな所に追い討ちをかけるように水都から書簡が届く。それをゼフに渡し、内容を確認すると表情が険しくなる。


「ククク、アリシア」


「はい、どうかなさいましたか?」


「どうやらアクマリは愚かにも近づいたらしいぞ」


「近づいたとは…… 一体どこに……」


そんなのは聞かなくてもわかってる。近づくだけで書簡が届くレベルの問題になる場所。それは……。


「デスレイだ、どうやら調査隊を送ったようだ。 あいつらには近づかないように言ったんだよな?」


「はい、蟲都に戻ってすぐに書簡を出しました」


「ククク、そうか。 それなら仕方ないだろう。 だが、あいつもこれで下手に動けないだろう。 書簡に堂々と調査隊を送ったと書いてるあたり舐められてるな」


ゼフは持っていた手紙を握りつぶすと、怒りを露わにするように睨みを利かせる。


「ては、どうなさいますか?」


「あいつは賠償を請求してるようだ。 今は払ってやろう。 だが、今だけだ」


そう息巻くゼフだったが、いつもの面影は彼にはもうない。アリシアは自分がなんとかしなければ、そう思うのだった。





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