第128話 一方的
「まずは遥々妾の街まで足を運んでくれたことを感謝する」
「御託はいい。 本題に入れ」
「そうじゃのう、話がわかるようで助かる。 今回お主を呼んだのは簡単じゃ。 契約を結ぼうと思てな」
「契約だと? まるで悪魔みたいだな」
「褒め言葉と受け取っておこう。 それで内容じゃが蟲都は水都の要求を全て飲むこと。 それができなければ妾の能力で覇王を召喚する」
滅茶苦茶だ。アリシアはそう思った。いや、誰だって思うことだろう。
「あまりに一方的じゃないか? それにその内容だと脅迫だが?」
「そもそも妾とお主が対等というのが間違いではないかね」
「なるほど、理解した。 つまり、俺はお前に何も要求できずに受け入れるしかないということか」
「話が早くて助かるの」
だが、それなら1つ問題が発生する。それは何故アクマリは俺が覇王という存在を恐れてるかだ。確かに覇王を召喚できるという能力は強大だ。しかし、その程度のことが俺のような異世界人に効かないことは分かっているはずだ。では一体何故……。
「ては契約に入らせてもらうかの。 クレアラトル準備を始めい」
「わかっちゃ、少し待っておれい」
そんな謎を解いてる間にもアクマリは話を進める。もしかするとブラフの可能性に賭け、ゼフは口を開く。
「何勝手に話を進めてる。 俺は了解した覚えはないぞ」
「なんじゃ、お主程の者なら了解しておくのが吉じゃぞ」
そんなことはわかってる。今は終焉種の数が足りなさすぎる。だから、絶対に戦いたくない相手だ。だが、そうだからと言って不安を残す必要はない。
「吉だと? まさか俺がわかってないとでも思ってるのか?」
「なんじゃと?」
初めてアクマリがうろたえる。
(やり方は俺が考えうる限り3つ。 さて、どれだ?)
ゼフは慎重に考え、最も可能性の高いものを選ぶ。
「裏切り者だな? それしか考えられん」
もう2つは魔法とグリムにより予め色々教えられた可能性である。
「ほう、それが合ってるとしてどうじゃ? お主に誰かわかるかの?」
「誰か…… ククク、俺を侮ってもらっては困る」
そう、できれば考えたくなかった。近くにいて最もアクマリと関わりがありそうな人物。それは……。
「ミリアだろ。 あれ程情報を吐かないよう教育してやったが、意味がなかったということか」
「ほっほっほっ、当たりじゃ。 流石と言うべきじゃな。 ミリア」
「はい、アクマリ様」
ミリアはゼフに悪びれることなく立ち上がりアクマリに近づき、再びひざまづいた。
「ミリア、よくやったぞ。 まさか、ミリアだと思わなかったじゃろう?」
「そうだ、あれ程の事をされて裏切る意味がわからん」
「答えは簡単じゃ。 妾がどんなことにも耐えれるようにしておいたのじゃ」
「ククク、そうか。 既に帝都を手に入れる動きを始めていたということか」
「そうとも言える」
「どういうことだ?」
「簡単な話じゃ。 妾の街は現在その規模に対して人が足らぬ」
「つまり、俺の街から人を寄越せだと?」
「勿論じゃ、じゃが望まぬ者も少なからずいるじゃろう。 そういう者達には無理強いはせん」
「俺が応じるとでも?」
「逆に訊くがこの要求を応じないのかえ?」
ゼフはそう問われ黙ってしまう。人を減らすのは今最も避けたいことの1つである。蟲にはできないことを人がやり、やがて街を発展させる。そういう未来図があるが、アクマリは最悪の手を打ってきた。
(人を増やす方法が有ればいいんだが、ここで断ればリスクが高すぎる。 ここは仕方ないだろう)
「いや、応じよう」
「賢明な判断じゃ。クレアラトル」
「やっとかよ、じゃあ始めるっちょ」
クレアラトルは自分の能力である制約を使い、契約を始める。内容はアクマリの要求を聞き従うこと、敵対行動を取らないという2つである。契約が終わると、アクマリは微笑む。
「蟲都の民にはこう伝えよ。 水都へ移動してくるものはこのアクマリがその費用と手段を負担すると」
「わかった」
「ではまた会おうではないか。 妾の僕のゼフよ」
「そうだな、次会うのが楽しみだな」
ゼフは悔しそうな表情を浮かべその場を後にした。静かになったその場所でエルミアが口を開く。
「アクマリ様、監視はどうなさいますか?」
「別に大丈夫じゃろう。 制約の能力により妾に敵対行動は取れん」
「ですが……」
「ならば、そうじゃな…… 1ヶ月は様子を見て確かめてみると良い」
「ありがとうございます」
そうしてアクマリも気分良くその場を後にするのだった。
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