第127話 女王

ゼフ達は城に着くと、そのまま兵士により謁見の場まで案内される。水都に着いた時から異彩を放っていたこの城は見た目が美しく、色鮮やかだったが、中すらも高級な装飾品が並んでおり、他の街の城より1段美しく思えた。そんな光景に見惚れといると大きな扉の前に到着する。


「蟲王様、こちらが我らが女王陛下がおられる場所で御座います」


「ご苦労、では準備はいいな?」


「ゼフ様1つだけ…… 私、フォルミルドこの中から仲間の反応をビンビン感じております。 中には世界の理すら崩しかねない能力を持つものもいます。 お気をつけください」


フォルミルドはいつにもなく真剣な口調でゼフに語りかける。


「わかった、用心しよう」


そうして力いっぱい力を入れる。しかし、扉は開かない。


「少し重いな…… フォルミルド頼んだ」


「せっかくの雰囲気が台無しですね…… わかりました、42柱叡智のフォルミルドにお任せください」


「早くしろ」


ゼフは場所を譲ると、白色の悪魔が扉に手をかける。今度は開かないということはなく、ゆっくりと重い音を響かせながら開かれる。扉の先にはとても広い部屋に赤い絨毯が敷かれている。そして、兵士達が綺麗に並んでおり、奥には青髪が腰ほどまである美しい女性が偉そうにこちらを見ていた。


(あれがこの街の女王であるアクマリか)


ゼフはゆっくりと4人を引き連れ歩いて行く。その堂々とした歩きは他の兵士からどよめきが起こるほどだ。ある程度の距離まで近づくと、アクマリの隣に控えていた黒髪が肩で伸びた服も黒と黒一色の女性が口を開く。


「止まりなさい! たとえ他の街の王であろうともそれ以上は踏み込んではなりません!」


「そうか、すまなかったな」


その言葉でゼフは足を止め、目の前に座るアクマリを見つめる。


「アクマリ女王陛下、こちら蟲都の王ゼフ様とその僕達でございます」


「ご苦労、妾は水都の王アクマリじゃ」


アクマリがそう言うと、再び隣の女性が口を開く。


「無礼者! 早く頭を垂れ、跪きなさい!」


「なに?」


「ほっほっほ、まさか礼儀も知らんとわの。 妾の機嫌が悪くなる前に言う通りにした方が良いぞ?」


それを聞いていた後ろに控えているアリシアは驚きのあまり目を見開く。他の街の王が特に謝るだとか、取り込まれた街の王とかならわかるが、こちらは何もしておらず、ただ招待されただけである。勿論、これがおかしいことはゼフもわかっているとこの時は信じていた。


「そうか、頭を下げよう」


その言葉がゼフから呟かれた時、ありえないと思うと共に彼が言っていたことを思い出す。


(まさか、元の世界にいた覇王とやらに怯えているの? そんな不確かな存在で跪くというの? どうして……)


王が跪くのだから、抗うこともできずアリシアも頭をゆっくりと床に近づける。


「それで良いのじゃ。 物分かりのいい男は嫌いじゃないぞ。 頭を上げさせよ、エルミア」


「頭を上げることを許す」


ゼフはゆっくりと頭を上げると、そこには先程までいなかった2体の不気味な生物がアクマリを挟むように立っていた。


「紹介しよう、こやつらは妾が契約した悪魔じゃ」


右側に視線を移すと、その姿は人のようだが、牛のような顔を持っており、頭から太い角が生えている。色は藍色であり、巨大な羽を持っている。もう片方は同じく人のような見た目だにヤギのような顔と、巨大な角。肌の色は白色であり、こちらは羽を持っていない。


「3つの街を支配しちゃと聞いた時は、人間にできるとは思っていなちゃったが、実物を見て納得しちゃ。 42柱が1つ制約のクレアラトルとゆう」


牛のような悪魔がそう言うと、もう一方の悪魔が口を開く。


「相変わらずクレアラトルは口が悪いですね。 お初にお目にかかります、42柱が1つ誘惑のミリオンと申します。 久々ですね、フォルミルドさん」


「これはこれは、まさかこんなとこで会えると思いませんでしたよ。 誘惑などという弱い能力を持っていることで有名なミリオンさん」


「おや? おかしいですね。 クレアラトルの制約の能力の前では叡智などという名前だけの能力は役に立たないはずなのによく吠えますね? それにあなたは私より弱いじゃありませんか?」


フォルミルドとミリオンはバチバチと火花を散らしているように見えるほどお互いがお互いを睨みつけている。


「久しぶりの仲間っちゃ。 もっと仲良うできんのっちゃ?」


「無理ですね、私は42柱の中でも創造の次に嫌いです」


「気が合うじゃないですか。 私も貴方は嫌いですよ?」


そんな言い合いをしていると、アクマリが口を開く。


「静かにせい、仲間と仲良くするなら後にするが良い」


「…… わかりました、後にしましょう」


「そういうことじゃ、早速始めようとするかの」


「ああ、勿論だ」


一悶着はあったものの、こうしてアクマリとゼフの話し合いとは名ばかりの一方的な要求が始まるのだった。

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