第126話 水の都

ゼフ達は数日前、蟲都を出発して水都に向かった。そして、現在その水と街のなんともいえない美しい光景がやっと見えてきた。馬車というのは語弊があるが、現在馬の代わりにコゾクメを引っ張られている。訪れている人数は4人であり、ゼフ、サン、ミリア、アリシアとフォルミルドである。


「わぁ〜 すごい綺麗な街です!」


サンは顔を出し水都を一望する。


「サン、あまり顔を出すな。 いつどこでこちらの様子を伺っているかわからない。 蟲都の王の僕として品性は大事にしろ」


「はい…… ごめんなさいゼフ様」


「品性ですか……」


「なんだアリシア、言いたいことがあるなら言ってみろ」


「この際なので言いますが、その格好は人的に品性がないものだと思われます」


アリシアがそう言いながら、向ける目の先にはいつもの服装に見たことのない蟲達が数十匹張りつき蠢いている。正直、ゼフの感性は少しおかしいと思っていたが、流石のここまでくると助言をしても意味ないのだろうと薄々感じていた。


「それは人から見ればそうかもしれないが、別の種族から見ればかなり美しいものかもしれないぞ?」


「ですが、これから会うのは人ですよね?」


「少し静かにしていろ。 俺は今機嫌が悪い」


この通り、ゼフは蟲に関しては感情を優先するようだ。それは、蟲都ができてから今までで学んだことである。そして、負けず嫌いであり、残虐的な光景を好むことである。


(はあ〜 きっとこれからも私はこの立場なのね…… きっとこれも彼の思惑通りなのだろうけど、今は前よりも殺意を抱かなくなってきている…… 忘れてはいけないのに……)


そんなことを思いつめていると、サンがこちらをじっと見つめてくる。


「な、何かしら? サンさん」


「ずっと思っていたんですけど、アリシア様ってどうして私達の味方でいるのですか?」


「え?」


「私もゼフ様から聞きました。 とても酷いことをしたと。 でも、アリシア様は私達に協力してくれていますよね? どうしてですか?」


「そ、それは……」


正直な所、自分でもわからない。嫌なら裏切ればいい。だけど、今考えつくのは恐怖だからだろう。


「わからないのでしたら、また教えてください」


それを答える前にサンが言葉を放つ。


「わかりました、また一緒にお話ししましょ」


「はい」


サンは笑顔で返事をする。結局、答えることができなかったが、いつか彼女に本当の答えを見つけたら教えようと、そう違うのだった。不気味な程に静かなミリアに気づかずに……。 そうして間も無くしてゼフ達は水都に着いた。



✳︎✳︎✳︎



ゼフ達は降りると、色鮮やかな街が広がる。壁も蟲都とは比べものにならないくらい高い。そして、ここからでも輝く水が見える。興奮からだろうからか、はたまた別のことなのか体が熱い。


「さて、このまま城に向かいたいが、約束の時間まで少しあるな?」


「はい、あと1時間ほど……」


水都に着いたというのに迎えらしい迎えはない。これが、現在ゼフ達の扱いである。


「心配することはない、お前達は俺を信じてついて来ればいい。 そうすれば、いつかいい方向に進む」


「はい」


「さて、特に行きたいとこはないが……」


「ゼ、ゼフ様……」


そんなことを考えていると、サンに袖を摘まれる。


「なんだ?」


「あの…… もし、ご迷惑でなければいいんですが、あれを私は見たいです」


サンがそう言いながら指差すのは木でできており、巨大な帆がある。いわゆる船という奴だろう。サンは今の今まで奴隷だったので、見たことなかったのだろう。特にやることなかったゼフは快く承諾する。


「良いだろう、見に行こう」


「ありがとう御座います! ゼフ様!」


そう言ってサンは頭を下げる。直ぐにゼフ達は船がある場所にまで向かうが、すれ違う人々が嫌悪の表情を浮かべている。ゼフは何故だかわからなかったが、体に張り付いている蟲達であることをアリシアは口に出すことはなかった。そして、到着すると、あまりの大きさにサンが目をキラキラさせている。


「凄いです! 本当にこれが水の上を動くのですね!」


「ああ、そうだ」


サンはニコニコしながら喜びを口にする。実際、彼女は最初と比べて変わった。初めの印象しか持たない者が会えば、お前誰だよと言ってしまうレベルである。だが、それにゼフは口出ししない。元気になることはいいことだし、蟲がいなくなってしまった時、盾として真っ先に動いてくれる。ゼフは笑みを浮かべながら口を開く。


「乗ってみたいか?」


「いえ、大丈夫です。 時間もないでしょうし、今は見るだけで十分です。 ただ、我儘を言うとするなら、いつか時間がある時乗せてください」


「ああ、覚えておこう」


それを言うと、サンは船が出発するまで黙ってそれを見ているだけだった。こうして指定の時間になると、一向は城へ向かい始めた。

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