第125話 圧倒的な恐怖

ゼル達は灯りが全くない部屋に入れられると、巨大な扉が大きな音を立てながら閉まる。部下達はその未知なる場所での恐怖からか呼吸が荒い。


「落ち着けお前ら。 まずは、絶対に離れるなよ。 もうじき目が慣れてくるはずだ」


「はい、ボス」


部下の1人が代表して答える。そして、時間にして5分経たないくらいだろうか、辺りの構造がどういうものなのかが分かってくる。それは古い遺跡のような構造であった。煉瓦にヒビがはいっており、進めば迷うこと間違いなしだと思われた。


「お前ら目慣れたか?」


ゼルのそれに部下達は頷く。


「それじゃあ、今からやることを言うぞ。 まず、大前提としてこの場所からの脱出だ。 奴が言うことが本当であれば出口があるはずだ。 だが、問題は奴が召喚する蟲だ」


部下達の唾を飲む音が響く。


「おそらく今も近くでこちらの様子を伺っているだろう。 だが、取り乱すな。 心を落ち着かせて全員で出るぞ」


ゼルは部下達の了解という頷きを確認すると口を開く。


「では、行くぞ」


「ま、待ってくれよボス」


そんな時、部下の1人が口を開く。


「なんだ?」


「そっちはダメだ…… 行きたくない……」


「どういうことだ?」


ゼルは辺りを見渡すが、特にこれといったものは見つけられない。だが、その怯えは何かに対する物であるのは明白である。


「いやだ…… 来ないでくれ! 死にたくない!」


「おい! どうした!」


「無理だボス! 俺にはもう無理だぁぁぁ!!!」


部下はそう叫ぶと一目散に暗闇に駆けて行った。ゼルは何かがここにいるのを理解し警戒するのも束の間、部下達が次々と叫び始める。


「お前ら! 何だ! 一体なにがいる!」


「化け物がぁぁぁぁぁ!!!」


そんな中、部下の1人がそう叫びながら何もないところに殴りかかる。しかし、次の瞬間彼は縦に真っ二つに分かれてしまった。ゆっくりと死体が地面に転がり血溜まりができる。


「なんだよ…… 何なんだよ!!!」


「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!! 死にたくないぃぃぃぃ!!!」


その暗闇には恐怖に包まれた叫び声が響き渡る。ゼルが止めようとするも抑えきれず、敵を探そうにも見つけることができない。


「どういうことだ……」


ゼルは諦めたのか膝をつく。すると、前からこちらに向かってくる音が聞こえる。顔を上げると体長は軽く10mは超えているだろう黒い甲殻に赤の斑点が無数に入っているムカデのような蟲が、鋭い牙をチラつかせ目を光らせこちらを見ている。


「そうだよな…… これだけ叫べば他の蟲も来るよな…… クソが……」


ゼルはそれだけ言うと体を鋭い牙で貫かれ、ゆっくりと捕食されて行ったのだった。



✳︎✳︎✳︎



ゼフはゼル達を壺に入れるとある所に向かった。その場所はつい先日完成し、犯罪者を収容する場所でもあった。今はそこの責任者として任命したレオと話している。


「兄貴お疲れ様です!」


「どうだレオ? 俺が考えた人間牧場は」


「はい、最高です」


内心はそんなこと微塵も思っていないが、そんなことを言えば何を言われるかわからない。今は最高の笑顔を作りながらゼフの機嫌を損なわないようにする。


「確認だが、今はどれくらい人間がいる?」


「200人ぐらいだと思います」


「そうか、少し中を見たい。 案内してくれ」


「わかりました」


レオは言われるがままに案内を始める。まず、レオなどの管理する立場の人間が休憩などをとる2階建ての施設。次に横長の1つ1つ牢屋のように仕切られた管理される立場の人間の住む施設。そして、大きな壁に囲まれている広大な草原である。


「俺が言ったとおりにできてるな。 これなら蟲達の食糧に困ることも時期に無くなるだろうな」


「今はどうやって蟲達の空腹を満たしているのですか?」


ふと浮かんだ疑問をレオは問いかけてみる。


「正直なところ、蟲達は俺の魔力を喰って空腹を満たしているからいらん。 今言ったことは訂正だ。 蟲達の殺戮衝動を抑えるための生贄だな」


「生贄ですか……」


「そうだ、だからこそここから出ること以外は自由にしてある。 奪うのもよし、殺すのもよしだ。 まあ、人間は繁殖するのに時間がかかるから、そこは気長に待とう」


レオはそのことに喉を鳴らす。おそらくこれほど犯罪の抑止力になるものは無いだろうと思っていた。だが、人の権限がここでは、失われてはないだろうかと思い始めていた。


「さて、俺は明日からやることがある。 警備は蟲達がやってくれるだろうから、事務的なことや管理はお前がやれ。 勿論、明日には計20人ほどの人間がお前の部下になる。 足りなければ言え」


「わかりました兄貴」


「それじゃあ、次に会う時を楽しみにしている」


そんな意味深な言葉を残し、ゼフはその場を後にするのだった。

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