第124話 壺

あの日の夜から数日が経った。ゼフは実は生きており、再び王としての座に就くことを公表すると、民達は再び恐怖した。ゼル達はあの後城に連れて帰り今は檻の中である。


「覇王か…… できれば聞きたくなかったな……」


ゼフは自室で頭を抱えて悩む。正直な話、この名前が出てこなければすぐにでも水都に向かうつもりだった。しかし、今は更に問題が1つでき、それどころではない。


「何も準備せずに行けば返り討ちだな。 もしかすると嘘の可能性はあるがリスクが大きすぎる……」


覇王とは元の世界にいた最強の代名詞である。数は少なくはなく、意外と多い。そして、何より強い。今のゼフでは全力で戦ったとしても100%勝てない。ただ、そこにいる雑兵の如く殺されるだろう。


「この世界では余裕だと思ったが、これは気を抜いてられないな」


そんな事を呟いていると、扉からノックのする音が聞こえる。


「入れ」


ゼフはそれに答えるように許可を出すと、扉が開かれそこにはアリシアとフォルミルドがいた。


「ゼフ様、他の街に送った使者の1人が返事を持って帰ってきました」


アリシアはそう言うと、ゼフに手紙のようなものを渡す。


「そうか、内容はどうかな……」


ゼフがそれを受け取ると、驚愕する。何故ならそこには町の名前として水都、王の名前としてアクマリと記載されていたからである。


「クククク、先手を打って来たか。 こちらが準備する時間も与えないと」


「どういう内容なのでしょうか?」


「喜べ、水都の女帝のアクマリから街への招待だ」


ゼフはそう言いながらアリシアに手紙の内容を見せる。


「少しいいでしょうか?」


そんな中、アリシアの隣にいたフォルミルドが手紙に近づき読み始める。


「水都ですか…… 私が知る限りでは知らない街ですね。 ということはここ2、300年で造られた街ということになりますね」


「お前の能力の叡智で何かわかるか?」


そう言うと、フォルミルドは額と思われる場所に細長い白い指を接触させる。数秒後、指を離すと口を開く。


「無理なようですね。 完全に相手に妨害されています」


「情報はなしか、最初は使えると思ったが意外と致命的な弱点だな」


「私の能力は42柱の中で真ん中ぐらいに位置していますからね。 そこは仕方ありません」


「そうか、 だが念の為アリシアと一緒に水都に来い」


「わかりました、出発はいつでしょうか?」


「できれば時間を伸ばしたいが、奴らが何をしてくるかわからん。 とりあえず明日に出たいどころだな」


「もう少し遅くても大丈夫ではないのですか?」


「ダメだ、明日に出発する。 いいな?」


「はい、わかりました」


アリシアはいつも傲慢であり、何事にも焦ることがないゼフが今日は少し慌ただしく見えた。



✳︎✳︎✳︎



「何をする! 離せ!」


ゼフは手を縄で縛られた男達の集団を連れて地下にある大きな扉の前に来ていた。


「どうしたゼル? 怖いのか? 安心しろ、すぐに逝ける」


「話が違うだろ! 何故俺の部下がここにいる!」


「そんな話は知らん、それよりもここがどういう場所かわかるか?」


ゼフは子供のように一気に話したい気持ちを抑え、ゆっくりと説明し始める。


「ここは、俺が作っていた壺という場所だ。 どういうことをする場所かわかるか? お前答えろ」


「え、えっと、処刑ですか?」


「惜しい、処刑ではあるがお前達が助かることもできる。 これでお前の部下も助けることができるぞ、ゼル」


「狂人が……」


「さて、話の続きをしようか。 助かる方法だが、この扉の向こうには出口が1つある。 そこから脱出すれば君達の勝ちだ」


「勝ちって…… 俺達が負けたらどうなるんだよ……」


「死ぬだけだ、中にはデスGをはじめ俺でも扱うのに手が焼く蟲達がいる。 せいぜい頑張るんだな」


ゼフがそう言うと、大きな扉がゆっくりと悲鳴のような風の音を鳴らしながら開かれる。ゼル達は先程の説明から恐怖しており、涙を流す者もいる。


「さて、イチ縄を斬ってやれ」


「はいっす」


近くに待機していたイチがゼル達の縄を斬っていく。全て斬り終えるのを確認すると、ゆっくりと口を開く。


「入れ、扉が閉まったらスタートだ。 ありえないが、もしも逃げるような奴がいたら先に死ぬことになる」


暗殺者達はゼルに続いて扉の中に進み始める。おそらく生きて帰れると思っている者はいないだろう。全員が部屋に入ったのを確認するとゆっくりと扉が閉まった。


「生きて帰って来れるんっすかね?」


「無理だろ、イチは壺をどういう意味でつけたかわかるか?」


「申し訳ないっす、わからないっす」


「簡単だ、壺は1つしか穴が空いていないだろう? 入り口と出口は一緒だ」


「つまり、出口はないと……」


「そこは大丈夫だ。 鍵さえ見つけることができたら出ることはできる。 まあ、見つけれたらいいけどな。 ククク……」


イチはその意味を理解し、隣で笑うゼフを見ながら恐怖するのだった。



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