第123話 伝説

ゼフは暗殺者達のボスの部屋にノックせずに入ると、そこにはゼルがどっしりと座り、こちらを見ていた。


「何か用か? そんなに殺気を漏らしてタダごとじゃないのだろうな」


「随分と余裕そうだな。 それもそうか、お前はこの界隈じゃ伝説を成し遂げた男なんだからな」


「用件をさっさと言え。 まさか俺を殺しにきたんじゃないだろう」


「用件は1つだ。 ゼフを殺した暗殺者の情報を今渡せ」


「血迷ったな。 俺は少しは信頼していたんだぞ。 何をそんなに急いでいる? まあ、これでお前もこの世界に居られなくなるから意味ないか……」


ゼルはバーナレクと名乗る目の前の男に酷く失望する。それと同時に今起こっていることを冷静に判断する。


「俺の部下達はどうした?」


「殺したと言ったら?」


「奴らがお前如きに殺されるはずないだろ」


「だが、俺が来たというのにその報告すらないじゃないか。 それともお前は組織のボスとしてはその程度なのか?」


ゼルは確かにそうだと思いつつも決して慌てはしない。恐らく目の前の男は正面で戦えば、自分よりも格上なのは間違いない。だから、ゆっくりと隙を伺う。


「さて、話を戻そうか。 この街の王であるゼフを殺した暗殺者を誰か教えてもらおうか。 もし、嫌だというならわかってるだろ?」


「ここまでして悪いが、俺は何も知らん。 当てが外れたな。 まあ、俺が知らないのだからこの街で知っている暗殺者はいないだろうな」


「2度はない、今なら隠していることを言えば部下にしてやる」


「お前に教えることはない。 殺るなら殺れ、俺も覚悟はできている」


「そうか…… 残念だ」


ゼフはそう言いながらつけている仮面を取る。それを見たゼルは驚きの表情を浮かべている。


「お前は…… 愚王ゼフ。 あいつに――」


ゼルはそう言いかけると、すぐに両手で口を抑える。


「蘇生魔法のことは知らなかったか。 あれを知っているのは城にいる奴らだけだからな。 まあ、その確認の為に仮面を取ったんだが、いいことを聞いた」


ゼフはそう言いながら、ゆっくりと近づいて行く。その顔には不気味な笑みを浮かべている。


「さて、喋ってもらおうか。 お前の知っている事全てを」


「何を言っている? 俺は何も知らん」


ゼルはそうは言うものの額には大粒の汗が流れている。


「安心しろ、別に強要はしない。 喋りたくなったら喋ればいい」


「どういうことだ……」


その瞬間、扉が勢いよく開かれる。そこにはゼルの部下の1人がアイアンGに抱えられ連れてこられていた。アイアンGは部屋に入ると部下を勢いよく床に放り投げる。


「お前…… 大丈夫か……」


「すまねぇ…… ボス。 俺は…… 何もできなかった。 すまねぇ、すまねぇ……」


ゼルの部下は酷く怯えて体を震わせており、両手を頭に乗せ涙を浮かべている。


「愚王…… お前一体何をした」


「俺は何もしてないが、俺の可愛い蟲達はおそらく何かしたんだろうな」


「てめぇ! 俺の部下に手を出してみろ! 絶対に許さねぇぞ!」


「ああ、それで構わない。 やれアイアンG」


ゼフがそう言うと、アイアンGがその太い腕をゼルの部下に向けて伸ばす。


「やめろ!」


ゼルは椅子から立ち上がりアイアンGを殺すべく、腰に携えている短剣を抜く。そして、その短剣をアイアンGに勢いよく突き立てるが、あまりの硬さからか刃が折れてしまう。


「なっ……!」


ゼルが驚いているのも束の間、アイアンGは部下の頭を掴むとリンゴのようにグシャリと音をたてて潰す。あたりに血が飛散し部下の頭の無くなった死体がぐったりと倒れる。


「残念だったな、お前も所詮はその程度という事だ」


「こんな事をしていれば、こういう日が来るのはこいつもわかっていた。 だが、お前の目的は俺の情報だろ? 何処へでも連れて行け」


それを聞いたゼフはあまりの事に笑ってしまう。


「何がおかしい!」


「さっき言っただろ。 喋りたくなったら喋れと。 次を連れて来いアイアンG」


アイアンGは軽く頷くと部屋から出て行く。それを見たゼルは理解する。こいつは情報を手に入れるついでにこの状況を楽しんでいると。


「話す! 話すからもうやめろ!」


「お前はもしかして馬鹿か? それとも部下が全員死ぬまでそうしてるつもりか?」


「ぐっ…… お前を殺した暗殺者はもうこの街にはいない」


「ほう、そうか。 それじゃあ今はどこにいる?」


「この街がある場所とはかなり離れている場所にある。 名前は水都。 魔族の領域だった所を超えた人間の領域にある街だ」


「そこにいるのだな?」


「ああ、そうだ」


「ということは、そいつはそこの暗殺者か?」


「そうだ、俺は匿うように依頼されただけだ」


(魔族が滅んだのはつい最近のことだ。 なのにこっちの街に暗殺者を送ってくるのが早すぎる。 確か馬なら休まずに5日はかかるぞ。 ということは滅ぶ前から送っていたということか?)


謎がゼフの頭を混乱させるが、とりあえず話の続きをすることにする。


「一体誰にだ?」


「水都の女帝アクマリにだ」


「1番上の者が頼んだんだな…… そうかそうか理解したよ」


「俺が知っているのはこの他にその女帝が異世界からの覇王を召喚する能力を持っているということだけだ」


「異世界の覇王だと⁉︎」


「そうだ、それ以外は知らん。 さあ、話したんだ。 俺の部下を解放しろ」


「そうだな…… それが真実なら今は楽しむ余裕はない。 お前達は壺の実験台にさせてもらおう。 とりあえずアザメロウ、奴を眠らせろ」


「何を…… うっ……」


ゼルは魔法によりそのまま倒れてしまう。今までで1番大きな課題ができてしまった。焦りを覚えつつもゼフはその場を後にした。


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