第122話 新種

ゼフとミリアはその後そこで働いている暗殺者に挨拶をして回ると宿を探した。そして、今はベッドの上でこれからのことを考えている。


(1週間か…… 長いな。 こんなことをしていればこの街からいなくなる可能性が高い。 だが、奴はそう簡単に絶望などしない人種だ。 おそらくパラサイトを寄生させることはできないだろう)


ゼフがそう悩んでいると隣にいるミリアが話しかけてくる。


「悩んでいらっしゃいますが、大丈夫でしょうか?」


「ああ、少し…… いや、かなり悩んでいるな。 そもそも人間をできるだけ殺さないようにというのが無茶な話なんだ。 まあ、ここで愚痴を言っても仕方ないがな」


「ゼフ様が蟲に尾行させた者達はどうでしたか?」


「ああ、あれか。 半分はハズレだったが、半分は当たりだった」


「もし、1週間耐えるのが厳しいようでしたら別のところから情報を得ればいいのではないでしょうか?」


ミリアはゼフの心を読んだかのように言い当て驚くが、落ち着きながら返答をする。


「それも考え、探知蟲を潜入させたが俺達のとこほどではなかったみたいだ。 だが、あそこにいる暗殺者に聞いたところゼルはあの界隈ではあらゆる伝説があるほど凄いらしい」


「では、どうなさるのですか?」


「簡単なことだ。 奴を拷問して情報を吐いてもらう」


「では、明日から行動するのですか?」


「いいや、今からだ」


ゼフはそう言いながら不気味な笑みを浮かべる。そして、行動を移そうとした時1つの簡単な見落としを見つける。


(そういえば、決めつけていたが、もしかするともうこの街にいない可能性だってあるな。 もしそうだとすると皇都があった方に逃げているだろうな。 やはり早く行動しなくてはな)


ゼフは側に置いていた仮面をつけると部屋を後にする。この時ゼフはこの世界に来て1番焦りを感じていた。



✳︎✳︎✳︎



ゼフはあの場所に戻ってくる。その際ミリアは宿屋に置いてきた。すると、ガラパが手にコップを持って笑顔でこちらに近づいてくる。


「どうしたバーナレク、何か忘れ物かぁ!」


「酒を飲んでいるのか。 一体何杯目だ?」


「まだ、たったの5杯目だぜ…… ヒック!」


「まあいい、今は少しボスに話したいことがある。 大人しく酒を飲んでいろ」


ゼフがそう言うとガラパはフラフラしながら元の席に戻っていく。それを見届け、数時間前に通った道を通ろうとすると2人組の暗殺者が目の前に立ちはだかる。


「ここは行き止まりだ。 今から家に帰るなら許してやるぜ後輩」


「どういう意味だ? 俺はただボスに会いに来ただけだ」


「嘘はいけないな…… ガラパには無理だろうが、俺達レベルになると殺気がわかるんだよ。 お前は尋常じゃないレベルの殺気が漏れてるぞ」


ゼフはそんなこともできるのかと感心すると共に自分が焦りすぎたことを反省する。


「やはり知らないとは罪だな。 だが、これで勉強になった。 さて、通してもらおうか」


先輩暗殺者の2人はゼフがそう言うと警戒し、腰につけている短刀に手をかける。周りをチラッと見るとやはりと言うべきかこちらを警戒しているようだった。


「全員して何だ、俺を殺すのか? 別に俺はお前達のボスを殺さない、それにボスが負けると思っているのか?」


確かにボスが負けるわけないと暗殺者達は思っているが、この新人の殺気は本物であり何故かここで消しておかなければならない気がした。


「ボスは慈悲をくれたようだが、俺は最初から納得いかないんだ。 その仮面を外したら少しは信用してやる」


(信頼が必要と言われたが、俺はこんなにも認められていないのか。 もしかすると隣のやつに裏切られても不思議じゃなかったのかもしれないな)


「残念だが交渉は決裂だ。 ――ドーム――」


ゼフがそう魔法を唱えると暗殺者達がいる家は薄い膜のようなものに包まれる。


「何だこれは⁉︎」


「一体何しやがった!」


暗殺者達は見慣れない魔法により叫ぶ。


「どうやらこの魔法はこの世界にないみたいだ。 まあそれも仕方ないだろう。 なんたって俺がいた世界は1日で3つの魔法が誕生し、それと同じぐらい失われてると言われているからな」


ゼフが親切に説明していると暗殺者の1人がゼフの後ろに回り込み、短剣で脊髄を狙ってくる。その動きは一流と呼べる者でゼフ自身避けられなかった。だが、次の瞬間その暗殺者は100を超える肉片と化す。


「なんだ⁉︎」


暗殺者のがそう叫びながらゼフの近くを見るとそこにはこの世のものとは思えない程の化け物が立っていた。蜂のような姿だが、体には茶色のヘドロのようなものが付いており、それが地面にポタポタと垂れている。手は剣状であり、おそらくそれで切り刻んだのだろう。


「ガーパルインよくやった。 できれば殺したくなかったが、お前達からやったのだから仕方ない。 因みにこの茶色いヘドロは常に生成しているし、触れれば猛毒と呪いにかかるから気をつけた方がいい」


その説明を暗殺者達は聞くが、その声は全く入ってこない。今は目の前の切り刻まれた暗殺者の1人の肉片を見ながら恐怖している。


「では、先に進んでいいかな?」


目の前に立ち塞がっていた2人は黙って道を譲る。ゼフはその空いた隙間をゆっくりと進み出した。そして、ガーパルインはその場に留まり不気味な瞳で暗殺者を監視するのだった。




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