第121話 組織の長
「おう、ガラパか。 何か用か?」
顔に傷がある男はこちらに笑顔を向けるが、顔が顔なので笑っているように見えない。
「実はボスに会いたいと言ってた奴らがいまして……」
「隣にいるそいつらか?」
「はい……」
ゼフは別に会いたいと言ったわけではなかったが、特に訂正する意味もなかったので何も言わずに1歩前に出る。
「俺はバーナレク、こっちはミリアという」
「ゼルだ、それでお前らは俺に会いたかったらしいが、何の用だ?」
「とある暗殺者を探してる」
「そうか、残念だが帰ってもらおうか。 俺は仲間かもしれねぇ奴を売ることはねぇ」
ゼフは予想通りの対応だったのでさほど驚かない。
「それならお前は損するかもな。 俺の隣にいるミリアはジンという凄腕の暗殺者の妹だ」
「なに?」
ゼルの顔つきが変わるのを確認し、話を続ける。
「もしも情報をくれるというならこの組織に力を貸そう」
「帰れ、俺はお前に情報を渡さない。 お前本当に暗殺者か? あの有名な兄弟は暗殺者じゃねぇ、殺し屋だ」
それを聞いたゼフは驚き、単純なミスを自分がしてしまったことに気づき後悔する。そして、それを訂正しなかったミリアを見つめる。
「ボス1ついいですか?」
「なんだ?」
「その違いって何ですかね……」
「お前は何もわかってねぇな。 いいか、暗殺者は誰にも認知されずに殺す者だ。 逆に殺し屋は対象にバレても最後には殺しきる奴らのことだ」
ゼフはその説明を聞き、そんな違いがあったのかと驚くと共に、まだ道はあることがわかり安堵する。
「そうなんですか…… ありがとうございます」
「別にいいってことよ。 それでバーナレクよ、あんたは常識としてなってねぇんだよ。 あいつらは殺し屋だけど俺らも知っているほどだ。 殺し屋と暗殺者を間違えてる時点で話にならねぇ」
「こいつはどうなんだ?」
「そいつは最近入ってきたから仕方ねぇ。 だけど、あんたは結構人を殺してるだろ?」
「何故そんなことがわかる」
「やっていればわかるんだよ。 それにバーナレクというこの街の名前を使ってる時点で偽名てバレてるんだよ。 暗殺者なら仕方ないから別に言うつもりはないが、あの愚王がつけた街の名前を使うなんて頭のネジが飛んでるとしか思わねぇ」
(頭のネジが飛んでるだと…… それに俺が愚王…… 流石に色々と任せすぎたか。 恐怖で支配する以上こういうことが起きるとは思っていたが、今まで俺の耳に入らなかったのを疑うべきだったな)
ゼフはアリシア達ができるだけ耳に入らないようにしてくれていたのだと考える。
「そうか…… 確かに常識かもな。 俺は1人で活動してきたから初めて知ったよ」
「なんだと? 場所はどこで活躍していた?」
「聖都、今はアルタイルという名前の街で主に個人で活躍していた」
(ありえねぇ話じゃねぇが、どうも嘘くせぇ……)
ゼルはその言葉を聞き、心が揺らぐ。もしもこれが本当なら自分の力に驕っているものか、誰にも相手されないものだろう。もし、後者だった場合少し罪悪感が残ってしまう。それは自分のやり方に反する。
(何迷ってやがる。 今迷うぐらいなら、自分の直感を信じたらいい。 もしもの時は腹をくくればいい)
ゼルはそう考え、口を開く。
「1週間ここで働け。 そこで俺からの信頼を得られたら教えてやる」
「最初に言ってた事とは大違いだな。 何か心境に変化があったか?」
「よく喋るな、いいか? 俺はお前にチャンスをやってるんだ。 誰がこの街で無名の奴に情報を渡す? もう1度聞くぞ、ここで働くか?」
「働かせてもらおう。 俺は情報が欲しいからな」
「いい答えだ、この世界は信頼が鍵を握っている。 本名を明かさずに1週間でどれくらい信頼を得るかが楽しみだ。 それと最後に何故情報を得たいのか教えてもらおうか?」
「感謝のためだ」
「感謝だと?」
「ああ、ミリアはゼフに兄弟を殺された。 だが、蟲王は殺された。 そいつを殺した暗殺者に感謝するための手伝いをしている」
「そこまでする必要はあるのか?」
「人は時として利益よりも感情で動く。つまり、俺がそれだな」
「そうか…… なら、さっさと信頼を得るがいい。 それが最も早くそいつにたどり着く道だ」
「わかった、それと最後に1つ。 お前は俺に情報を渡せるのか?」
「安心しろ、俺はこの街ではかなり有名だ。 少し無茶をすればそれぐらいどうってことない」
「それを聞いて安心した」
ゼフはそれを言うとミリアを連れて部屋から出て行く。これからの行動が楽しみだと、ゼルは密かに思うのだった。
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