第111話 絶対的強者
グリムは攻撃を受け止められると一旦距離を取るために下がる。彼は自分の攻撃を受け止めた張本人を見つめる。見た目はカマキリのようで紫色の甲殻が不気味さを醸し出している。そして、自分と同じように体からバチバチとリジを放出している。
「ジェノサイド・ダークネスか…… まさか、俺の探知を逃れるとはな」
「お前は勘違いしているようだが、ジェノサイド・ダークネスは探知を逃れたのではない。 そもそもお前の探知の引っかからない」
「どういうことだ? 俺が知る限りそんなことはできないはずだ!」
「少し前にお前は言っただろ? 俺の魔力に限定して探知の魔法を使っていると。 だったら、俺の魔力と他の魔力を混ぜてしまえば引っかかることは思わないか?」
「そんな方法が…… お前は他の奴に召喚石を使わせたってわけか。 だが、そんなの関係ねぇ。 俺の蟲殺しの能力があることは知っているだろ? お前は勝てねぇんだよ」
グリムの言ってることは確かに正しい。蟲殺しは自分と同等以下の蟲の能力を全て使えなくするというものであり、格上の場合は半分にする。しかし、それはグリムが見えてる範囲に限る。
「確かにそうかもな…… だが、お前は俺の能力で極限まで強化された魔王種をリジを手に入れた程度で倒せるのか?」
「それは、やってみないとわからねぇな!」
グリムは再び飛び出しジェノサイド・ダークネスと刃を交える。その剣撃の速度は今まで以上に早く鋭い。1秒間に300を超える音すら軽く超える速度の攻撃は弱体化されたジェノサイド・ダークネスには荷が重いのか傷つきながらゆっくりと押されている。
「どうした! これだと俺が勝っちまうぜ! 所詮は召喚士なんだよ!」
(簡単にはやれないか…… ジ・ザースの魔法も使っていいが、おそらく阻害魔法を使ってるだろうから意味はないな。 仕方ないジ・ザースにはサポートに回ってもらうか)
「ジ・ザース、闘技場に召喚魔法だ」
ゼフがそう言うとグリムの周りに召喚魔法が展開される。そこから現れたのはインセクト・ドラゴンが計8体。隙をつくるには十分な数である。グリムがジェノサイド・ダークネスを吹っ飛ばすとインセクト・ドラゴンに向かう。
「こんなカスじゃ準備運動にもなんねぇぜ! 早く肩代わり対象を殺してお前を殺してやるよ!」
グリムはそう叫びながら1体、2体と次々と両断していく。その速度は凄まじく1秒で2体というレベルである。しかし、ここにしかゼフ自身も勝機がないのも事実である。もちろんウォールで負けることはないだろう。だが、それだけでは勝てないのだ。
(ジェノサイド・ダークネスは奴よりも格上だ。 おそらく能力自体は使える。 これで致命傷を与えなければすぐに対応されるな。 これが人間をより多く残す最善だ。 最悪リミッターを解除するしかない……)
「ジェノサイド・ダークネス行け、奴にデスサイスを食らわせろ。 ジ・サースは援護を頼む」
それを聞いた蟲達は動き始める。グリムを見ると最後の1体を殺そうというところだった。ゼフは背中に汗をかきながら見守る。まず、ジ・ザースがジェノサイド・ダークネスに魔法を発動し能力を底上げする。それに気づいたグリムはこちらに向かってくる。
「何してんだ! 死ねや!」
ジェノサイド・ダークネスに展開された防御魔法のウォールがそれを防ぐ。グリムが更に追撃するが、中々突破できない。
(あの攻撃はまずい…… ジ・ザースは今は完全な状態じゃない上、魔法を扱うのが苦手な部類だ。 おそらく2箇所にウォールを展開してきついはずだ。 急げよ)
グリムの猛攻はやまない。狂気的な笑いを浮かべながら更に速度を上げていく。もはや誰も手がつけられないかと思ったその時、ジェノサイド・ダークネスが鎌に紫色の靄をかけながら振りかぶる。
「十分学ばさしてもらった。 これで終わりだ」
振りかぶった鎌はあらゆる物を超越したスピードでグリムも避けることは敵わず、剣で受け止める。しかし、何故か分からないが持っている剣が瞬く間にボロボロになってき、折れてしまう。直ぐに後ろに避けようとするが、既に鎌はグリムの首を捉えており空高く頭が吹っ飛ぶ。
「デスサイス…… 触れたもの全てに死を与える鎌だ。 ジ・ザース奴はおそらく蘇生魔法をかけている。 生き返る前に阻害魔法をかけて生き返らないようにしておけ」
ゼフはそう言うと闘技場を後にするように歩みを進める。被害を最小限に化け物を出すことができたのはとても喜ばしいが、改めて自分の力の弱さを実感する。
「これではダメだ…… できればやりたくなかったが、召喚するしかないな。 終焉種を」
✳︎✳︎✳︎
「アリシア様急いでください」
「大丈夫かしらグリム……」
「あのお方なら大丈夫です。 帝都の入り口に馬車を用意しておりますのでそちらで早く逃げましょう」
「わかったわ」
アリシアは足早に駆けていく。おそらくグリムはかなり厳しい戦いを強いられると知っていたのだろう。今は信じることしかできない自分を恥ず。そして、5分と経たないうちに馬車が見えてくる。
「どうぞお乗りください」
アリシアは馬車に入るとそこにはデープとゼフが奴隷として買っているサンが先に座っていた。
「デープその子はどうするの?」
「恐らくゼフについて吐いてもらったらまた奴隷だと思われます」
「そう…… 一般人の避難はもう済んだの?」
「いえ、現在他の勇者が呼びかけているところです」
「そう……」
アリシアはサンを見ると先程のことに絶望を感じているのかうつむいたまま何も言わない。その時外から叫び声が聞こえる。デープはそれを聞き慌てて外に出る。アリシアも押し切る形で外に出ると空に無数のドラゴンが飛んでいた。
「ドラゴン…… どういうこと……」
「アリシア様は馬車に隠れてください。 ここは危険です」
「どちらも一緒よ。 それよりも市民の避難を……」
アリシア偶々来た道に視線を移すとそこに見覚えのある人物がこちらに歩いてきていた。それを見た瞬間、本能が恐怖を感じ始め、体が震える。
「アリシア様…… 僕が奴の気を引きます。 ですから……」
デープがそう言おうとするが、アリシアの後ろにアイアンGが既に立っているのに気づく。アリシアを突き飛ばしアイアンGに攻撃を仕掛けるが、弾かれてしまう。そして、次の瞬間頭を掴まれトマトのように潰されてしまった。血が飛び散り恐怖で思考がついていかない。
「派手にやったものだな」
「貴方が勝ったのね……」
「当たり前だ、サンいるなら出てこい」
「ご主人様…… 良かったです!」
サンは勢いよく抱きついてくるように飛んでくる。アイアンGがそれを受け止めサンが不服そうな顔をする。
「アリシア、お前には色々と例になった。 別にお前も市民も殺しはしない。 人間は必要だからな」
「一体何をしようというの?」
「時期にわかる」
ゼフは悪魔のような笑みを浮かべながら答える。この日大量の蟲が帝都に押し寄せ地獄と化した。
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