第110話 もはや敵ではない

現在、グリムは1秒間に100を超える斬撃を繰り放っているが、ゼフを包む薄く透明な膜のようなものがその攻撃を防いでいる。この魔法は防御魔法で最も使われているとされているウォールである。グリムだと1度の攻撃で最低でも6枚は割ることができる。だが、それよりも早く、そして多く魔法を常にかけつづけることで突破させないのである。


「クソが! どこにこんな魔法を使う力があった!」


「ククク、傲慢だな。 そもそもお前は勘違いしていることがある」


「なんだと! 俺が勘違いだと? ありえないな!」


「だから、こんなにも簡単に嵌めることができた。 お前は俺の召喚できる最も強い蟲を魔種又は魔王種と勝手に決めつけていたのではないか?」


「まさか…… お前……」


グリムはその言葉を聞き、攻撃の手を止める。ありえないのだが考えてしまう。普通は召喚士というのは種族が上に行けば行くほど召喚時間がかかる。だから、余程のバカでもない限りそのようなことはしない。


「ククク、そうだ。 お前は星の中でしか探知を使わなかったが、外にもきちんといる。 因みにこのウォールはそいつの仕業だ」


グリムは慌てて星の外に探知を向ける。そこには何か巨大な何がいるのを理解する。目の前を向くと、ゼフはこちらを見て笑っている。


「お前が探知の魔法を得意としてないのはわかっていた。 1点に集中しないならこの星ぐらいが限度だろうからな」


「あれも演技ということか?」


「いや、あれは演技ではない。 だが、時間稼ぎをしていたのは事実だったからな。 俺の声を聞き取れる蟲は現状1体だった。 だから、危険を伝える為に叫ばしてもらった」


「そうかよ…… クククク、それで勝ったつもりか? 甘いんだよ!」


「お前では今の俺に勝てん。 敗因は前の世界での召喚士としての認識、そしてお前の傲慢さだ」


「お前は分かっていないな。 あれを見てみろ」


ゼフがグリムの指をさす方を見るとそこにはデープに手を後ろに拘束されたシルヴィアとサンの姿があった。


「こいつらはお前のものだろ? いいのか殺しても」


「そんな卑怯な手を使って恥ずかしくないのか? 前の世界のお前なら堂々と向かってきたはずだぞ」


「お前に言われたくねぇ言葉だな。 さて、まずは防御魔法を解け。 それと蟲達を戻せ」


「残念だが断ろう。 シルヴィアやれ」


ゼフがそう言うとシルヴィアは暴れ始める。勇者達はそれを抑えるが、気が狂ったかのように動いており手がつけられない。


「人のやることじゃねぇな…… ――デス―― 対象は蟲だ」


グリムがそう言うとシルヴィアの動きが先程暴れていたとは思えないほど大人しくなる。ゼフの腰のアザメロウも服の隙間から落ちてくる。


「やはりな、あの女死んでるだろ?」


「改めて厄介な能力だと感じるな……」


「俺だってバカじゃねぇ。 お前はこの星を極力壊すことを避けている。 そして、俺の蟲殺しの能力だ。 迂闊に手は出せねぇよな」


「まあ、ここに他の奴がいたら邪魔だよな? アリシア! ここから離れろ!」


「でも! グリム!」


「勇者! 無理矢理でも連れて行け。 そこにある女の死体は放っておいていい。 ここは荒れるぜ」


「わかりました、ご武運を」


勇者達はそう言うとそこから離れるべくサンを連れて移動し始める。アリシアは必死に残ろうと抵抗していたが護衛に連れられ元いた場所から姿を消していた。


「さて、邪魔な野郎はいなくなったぜ?」


「面白い奴だ、そんなに俺との一騎打ちを望むのか?」


「そうだ、だがその前にお前が使ったあの魔道具について話そうか」


「あれか…… よくわからないものだった」


「ああ、だからあれは災厄の1種だと俺は考えている」


「面白い奴だ、あえてその情報を渡すか。 だが、確かにそれなら十分にありえるな。 宇宙の理すら崩しかねない存在。 時に道具として、時に生物として目の前に現れるか……」


「面白いだろ? それであの魔道具は持ってるのか?」


「持っていない、おそらく使い捨てだ」


「へっ、なんだよそれは。 さて、観客も居なくなったことだしそろそろ始めるとするか?」


「そうだな、結果は見えているがな」


グリムは剣を構え、ゼフはその場で堂々として攻撃を誘っている。それは数秒だろうか、数十秒だろうか時間が過ぎていく。


(これで俺も最後かもしれねぇな。 さて、できればやりたくなかったが仕方ねぇ。 おい、いるんだろ! 出てこい!)


――力が欲しいかい?――


(寄こせ、俺は限界を超える必要がある。 あの世界では上に上り詰める為に絶対に習得しなければならねぇ力であり、俺とゼフが長年の厳しい修行で手に入れることができなかった力を寄越しやがれ!)


――君の心意気はわかった、最強の力を授けよう――


それが聞こえるとグリムの体から白く輝く電気がバチバチと音を鳴らし始める。ゼフはすぐにそれに気づき警戒する。


「あの時と一緒か…… リジを手に入れたとこでお前は俺には勝てない」


「ククク、何を言うかと思えば、とんだ戯言だな。 リジがあるのとないのでは天と地の差ほど力の違いがあるのはおめぇもわかっているはずだろ?」


グリムが言ったことは全て正しい。それ程までにリジとは汎用性が高く強力である。しかし、その習得は困難でありゼフは現在も習得していない。


「自身があるならかかってこいよ? お前程度がリジを習得したとしても変わらん」


「言うねぇ、ならその身に受けてみろ!」


グリムがそう言うと巨大なクレーターを作り飛び出す。しかし、次の瞬間何かがグリムの剣を受け止めたのであった。

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