第112話 静かなる街

今日は帝城前に万を優に超える人集りができており、静かに何かを待っている。周りにはインセクト・ドラゴンやアイアンGといった多種多様な蟲達がこちらを睨むようにして見ている。やがて時間が経ったのか城のバルコニーに皇帝を含む数人の男女が姿をあらわす。


「親愛なる民よ、今日は多忙な中集まってくれて感謝する。 皆も知ってると思うが私はもうこの街の王ではない。 今から新しく王になった者が話すがどうか逆らわないようにしてほしい」


元皇帝のエリシュロンはそれだけを言うと後ろに下がる。そして、それと入れ替わるように1人の男が出てくる。服装はこの国の皇帝とは思えないほど質素である。しかし、それに誰も文句は言わない。何故なら逆らえば殺されるのだから。


「さて、エリシュロンに代わってこの街の王になったゼフだ。 俺から提案するのは1つ、今まで通り過ごしてもらいたい。 別に理不尽な理由で殺したりはしないが、犯罪などを犯せばそうなることは承知しといてほしい。 そして、俺に不満を持つならそれも構わない。 だが、お前らはすぐに気付くだろう。 誰に従えばいいのかを」


ゼフがそう言うと周りの蟲達が喜びを示すようはない体で表現を始める。その光景は異様であり、不気味である。


「因みに他の街に逃げ出してもいいだろう。 ただし、聖都、王都の3つをこれから俺の街になる。 名前は蟲都、そして俺のことはそうだな…… どう呼ぼうが勝手だが、シンプルに蟲王でいいだろう。 それではこれから末永く付き合おうじゃないか人間諸君」


それだけ言うとゼフはバルコニーからゆっくりと姿を消していった。



✳︎✳︎✳︎



ゼフはアリシアと蟲達を連れてあるところに来ていた。その場所はかつて新人冒険者を暇という理由で殺し、ミリアに絶望を与えた廃棄地帯である。


「ここに何があるのでしょうか?」


「なんだ畏まって、初めて会った時はあんなにトゲトゲしいかったではないか」


「今や1人の王ですので、私如きが逆らえないです」


「俺からすれば死ぬのが怖くて媚びへつらってるように見えるがな。 まあ、完全に殺しはしないが、死ぬことはあるからな」


ゼフは震えるアリシアを連れてかつてミリアとエムニアが逃げ出していたあの地下通路に向かう。階段を下ると相変わらず暗く不気味である。


「お前はここに何があるかと言ったな? それは俺にはわからない。 今から突き止めに行くからな」


ゼフは蟲達にこの地下通路を調べさせると1カ所だけ厳重な鉄の扉に閉ざされた場所があるのを見つけた。おそらく街に人がいない原因もそこにあるだろう。探知蟲についていきながら長く暗い通路を進んでいく。やがて、その扉の前に辿り着く。


「ここか…… 随分と頑丈な扉だな」


その扉には鎖などによって何重にも閉ざされており、この先にいる何かを外に出さないようにしてるとしか思えなかった。


「アリシア後ろに下がれ」


「はい」


「アイアンG扉をこじ開けろ」


ゼフがそう命令するとアイアンGが行動に移す。鎖を1本ずつ力で粉砕していき、全てを破壊し終えると扉をこじ開け隙間を作る。ゼフとアリシアはその隙間から中に入ると驚愕する。


「そうか、確かにこれは隠さないといけないな。 こんなとこにあるとは思わなかったが、嬉しい誤算だ」


そこには皇都で見たような巨大な封印石が眩い光を放ちながら置いてあった。


「一体なんなの…… 」


「これは封印石だ、中に強大な化け物を閉じ込める役割がある。 解き放つ方法はいくつかあるが…… 今回は魔力を一定以上込めるやり方を使うか」


ゼフはそう言うと封印石に魔力を込め始める。しばらくすると石にヒビが入り中から眩い光が漏れ始める。やがて光は黒くなり、勢いよく割れる。そこには全身白色の所々黒の斑点がある人型ののっぺら坊のような悪魔が姿を見せた。


「ここは…… なるほど人間。 お前が私の封印を解いたのか。 私は42柱が1つ叡智のフォルミルド。 さて、お前は私に何を望む」


それは帝国が抱えていた最終兵器であり、それを使ってゼフが何をするのかはわからない。ただ、1つわかるのは無事にすむはずがないということである。



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