第103話 知らないふり

次の日、ゼフはイチとニを冒険者組合にいるレオに預けると、サンと一緒に買い物に出かけに行った。久しぶりの買い物ということもありゼフは楽しんでいた。


「こういうことをするのも久しぶりだな」


「そうなのですか?」


「ああ、最近は暇ということがなかったからな。 だが、今日は特に何もない。 だったらたまにはこういうこともいいだろ?」


「私にはご主人様がどんな道を渡ってきたのかはわかりません。 ですが、私はご主人様の意に従います」


「俺がどんな奴でもか?」


「我儘かもしれませんが、私にとってご主人様は呪いを解いてくださったお方です。 嫌いになるのは難しいと思います」


「そうか」


ゼフはサンが裏切ることはないことを再確認すると、歩くスピードを上げる。現在アザメロウはゼフの体にしがみつくように命令しており、街に放った探知蟲からの異変を知らされたらしがみつく力を強くするように言っていた。先程サンが話し始めたぐらいにそれが行われ、敵が来たことを知り喜ぶ。


(さて、敵はどういう奴だろうな。 探知蟲がわかったということはかなり目立つとこにいる筈だ。 おそらくどこか建物の上だろうな)


ゼフはそう思いながらも人通りを避ける道へと進む。もし、敵がゼフを狙っているならおそらくそれを望んでいるだろうと予想しながら。


(狙いが俺ではなかったとしても別に俺にデメリットはないからな。 そこは問題ないだろう)


そんなことを考えていると、隣にべったりとへばりついているサンが裾をつまむ。


「ご主人様、おそらくこちらの道には店はないかと思われますが……」


「大丈夫だ、少し用ができただけだ。 すぐに終わるから安心しろ。 それと危険だから俺から離れるなよ」


「はい、わかりました」


そう言って進んでいくと、目の前に立ちふさがるように1人の男が立っていた。その男はこちらをニヤリと睨みつけゆっくりと口を開いた。


「あんたがゼフか?」


「そうだ」


「それでそちらのお嬢さんは?」


「え…… えっと、奴隷のサンです」


「ふむふむ、奴隷にしてはいい身なりをしてるな。 ゼフさんよ、なんで俺がここにいるかわかるか?」


「クライエルに雇われたか?」


「ははは、勘がいいね。 でも、半分正解で半分間違いだ。 俺が雇われたのはクライエルに雇われたジンという男だ。 そして、俺の役目はもう終わっている」


男はそう言うと、不意に後ろから気配を感じる。そこにはジンとサインズが立っていた。


「良くやったっしょ。 後は俺らに任せるっしょ」


「ああ、そうさせてもらうぜ。 なんたって俺の専門は暗殺だからな」


そう言うと男は走ってその場から去っていく。


「さて、こっからは俺達が相手しよう」


「あいつは一体何をした?」


「答える義理はない。 だが、1つだけ教えるとするならばお前にある能力を使った。 発動条件は名前を聞き出すことだ」


ゼフはそれを聞き深く考える。前の世界にもそのような能力はいくつかあった。それでいてこの状況に適したものを探っていく。


「まずは俺がやるっしょ」


「ああ、無理はするなよ」


(これで奴から護衛を引き剥がせばこちらに勝機がある)


ジンがそんなことを思っているとゼフはゆっくり笑いながら口を開く。


「そうか、お前ら神眼持ちがいるのか。 まさか、そんなレアな能力を持つ奴がいるとはな。 俺の蟲達でも神眼持ちはいなかった筈だ。 欲しいな」


(なぜわかった⁉︎ くそ、どうする? いや、奴はミリアの能力を言い当てただけだ。 いや、違う…… 奴はもしかして封殺の能力がわかったから言い当てることができたんじゃないか?)


徐々にジンの額に汗が溜まってくる。隣のサインズを見るとこちらの指示を再び待っている。


「どうする? 兄ちゃん」


「撤退だ、逃げるぞ」


ジンがそう言うと背を向けて逃げ出す。そんな姿を見てゼフは肩を落とす。


「残念だ…… アザメロウ、奴らにバインドだ」


ゼフがそう言うと2人は動きを止める。


「まずい! エムニア頼む!」


ジンがそう叫ぶが、魔法が解かれることはない。ゼフはこちらに近づいてきてゆっくりと口を開く。


「叫んでも無駄だ。 勘のいいお前なら気づいてるだろ? エムニアというやつは既にいないことを」


「何を……」


「それは仕方がない、なんたってここはデスGの狩場なのだから。 来いデスG」


ゼフがそう言うと全ての透明化を解いてこちらに近づいてくる。口から人間の腕が見え隠れしており血に濡れている。


「腕…… まさか……」


「兄ちゃん、あれは違うっしょ。 だって…… エムニアの腕はもっと……」


「まあ、そうだよな。 正直な話今すぐにでもお前達を殺して遊ぼうかと思ったが、神眼の持ち主がいるのは予定外だった。 どこにいるか吐いた方が封殺を持ったあの男みたいにはならないぞ」


「まさか……」


「言っただろ、ここはデスGの狩場だ。 無事な筈ないだろ。 この腕はおそらく迷い込んだ一般人だろうな」


「ご、ご主人様……」


後ろを向くと、サンが震えながら服の裾を引っ張っていた。


「なんだ?」


「いえ…… あの、やる事とはこのことでしょうか……」


「そうだ、幻滅したか?」


「いえ、そんなことはありません。 私はご主人様に従います。 ただ…… 情報を吐かせるなら蘇生蟲に頼めばいいかと……」


「確かにそれもあるが、もっと手取り早いことがある」


「一体それは……」


「まあ、見ていればわかる。 それにエムニアというやつがここから逃げたとしても探知蟲に追わせればいいからな」


ゼフがそう言っているの聞き、ジンは初めてエムニアの心情に気づく。


(そうか…… エムニアは俺の撤退にいち早く従ったんだな。 俺達2人は助からない。 できるだけ遠くへ逃げてくれ)


「さて、神眼持ちを探すためにこいつらに全て教えてもらおうか」


ゼフはそう言いながら召喚魔法を使い始めた。



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