第83話 帝都

帝都に着くと中にすんなり通してもらえた。さすがは勇者といったところだろう。通る時コゾクメに対して顔を歪ませていたが、特に何も言われなかった。


「皆さまお待ちしておりました」


ゼフ達は中に入るや否や不意にそう声をかけられ、そちらを向くとピンクのロングヘアーが特徴のいかにも仕事ができそうな若い女性が立っていた。


「君が僕達の案内役かい?」


デープがそう問うとにっこりしながらか答える。


「いえ、勇者様方はあちらにおりますリーナという女性とキモンドという男性が案内役となっています」


手をかざす方向を見ると、少し離れたところに2人がいた。リーナとキモンドの両方とも黒髪の人間らしく、その容姿はすごく整っているように感じた。


「そうかい、ありがとう。 それじゃあみんな行こうか」


そう言って他の人をデープが引き連れて行く。


「ゼフ、また会おうぜ」


パラリオットもそう言うとデープ達についていく。


「さて、ということは俺の案内役は君かな?」


「ご察しの通りでございます、ゼフ様。 付け加えるとするならば、ゼフ様のスケジュールを管理する役目もございます」


「管理だと?」


「はい、ゼフ様は怪物という冒険者に会いに、ここ帝都に来られたことは知っております。 ただ…… こちらから招待したにもかかわらず、彼は多忙でして1週間後にしか会うことができないのです」


「1週間だと⁉︎ 聞いてないぞ」


「そこは私からも頭を下げさせていただきます」


「まあ、いい。 1週間後に会えるのだな?」


「はい、それと確認するようで悪いのですが、彼は戦闘を好みます。 会う場所は――」


「確か闘技場だな、その方が面倒がなくていいからな」


「ありがとうございます」


目の前の女性は深く頭を下げお礼を言う。その際心地よい香りが鼻の中に通っていく。そして、顔を上げるとゆっくりと口を開く。


「申し遅れました。 私の名前はネアと申します」


「知ってると思うが、俺はゼフ。 こっちがシルヴィアだ」


「これは丁寧にありがとうございます。 ゼフさんは今日は仮面を被らないのでしょうか?」


「よく知ってるな」


「それは知っております。 なんたって久々のSSランク冒険者なんですから」


「そうか、まああれだ。 仮面はもうつけるつもりはない。あの時はどうしてもつけなければならない理由があったからつけていたが、今はその必要はないから」


「そうでありましたか」


「それで、俺達は今日はどこに泊まればいい?」


「そのことを含めて歩きながら話しましょう。 もちろん後ろに控えている魔物も一緒で構いません」


「そうか、それは助かる」


そう言うとゼフ達はネアに先導される形で歩き始める。


「まず、スケジュールに関しましては特に決まりはないので好きに過ごしてもらって構わないです。 ただ、1週間後に迎えに上がるのでその時にはどこかに行くようなことがないようお願いします」


「自由にしていいんだな。 わかった」


「はい、それとゼフ様とシルヴィア様が泊まる宿は私達に用意させてもらいました。 もちろん宿代などはかかりません。 ですが、少々古いところなのですが大丈夫でしょうか? もし良かったらキャンセルして他のところを用意致します」


「そこを選んだ理由があるんだろ? まずは、それを聞こう」


「ありがとうございます。 まず、宿の方は非常に良識な方であり、泊まっている客も野蛮な方はお断りしているのでそういった争いはありません。 そして、食事が大変美味しいと評判です」


「ふむ、確かにそれだけでも十分に泊まるに値するな。 他にも理由はあるのか?」


「はい、実はこの宿は奴隷を部屋に連れ込むことが可能なのです」


「奴隷だと?」


「ゼフ様はお知りにならないのでしょうか?」


「そんな話は初めて聞いた」


「奴隷は帝都の名物であります。 唯一この街だけが奴隷を売買することを合法としており、大変若者に人気であります。 ゼフ様あちらをご覧ください」


ネアが指差す方を見ると20代後半の男性が10代後半であろう女性に付いている首輪の鎖を持って引き連れていた。見た目は汚れており、正直見る耐えない汚さだ。


「あんな扱いをしていいのか?」


「はい、奴隷は犯罪を行なった者、没落した貴族、お金がなく仕方なくなったものもいるでしょう。 ですが、奴隷になってしまえば殺さなければ何をしてもいいのです」


「なんでもだと⁉︎」


「はい、それが人間として最下層である奴隷という生き物であります」


(生きていれば何をしてもいいか…… いいおもちゃを見つけたな)


「ゼフ様は冒険者ですので、1度帝都の冒険者組合に顔を出してはいかがでしょうか? こちらのギルドマスターはとても素晴らしい方ですよ」


「そうだな、金も稼ぎたいし暇つぶしにもなるだろう。 今日にでも出てみる。 それよりも奴隷の相場は一体いくらぐらいだ?」


「もし、良ければそこに店があるので寄りましょうか?」


「いや、いい」


ゼフがそう断るとネアは先程の質問に答え始める。


「相場といっても様々ですが最低でも金貨1枚はかかりますね。 元貴族なんかだと50枚は下らないと思われます」


「そうか、少し高いな」


「無闇やたらに買われていては奴隷がいなくなってしまいますからね。 ですが、そんな破格の値段でも欲しいという人は山程いるのですよ」


(今は金がないから買えないが、帝都の依頼を全てこなせば1人と言わずにもっと買えるだろうな。 いや、確か皇都で手に入れた金があったな。 それを使うか)


そうこうしているうちに宿に着く。たしかに見た目は古く、オススメされなければ入らないだろう。しかし、冒険者らしき人が次々と入っていくのを見てかなりの人気があるのだろうと感じる。


「それでは私はこれで」


そう言ってネアと別れる。ゼフとシルヴィアはその宿、涙の丘に足を踏み入れた。


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