第84話 愚か

ゼフは宿にシルヴィアとビートルウォリアを待機させ、コゾクメを使い魔の小屋に入れると早速冒険者組合に向かった。帝都の道は複雑で迷ったが、なんとか冒険者組合前に着くことができた。


(ここが帝都の冒険者組合か。 聖都や王国と外観は同じだな。 さて、中はどうなってるかな)


そう言って足を踏み入れる。そこには他と変わらず酒を飲んでいる荒くれ者の巣になっていた。うるさいほどの話し声で耳が壊れそうだ。何人かは入ってきたゼフを凝視し見下すような下衆の笑いを浮かべている。


(この感じ久しぶりだな。聖都ではそういう冒険者はいなかったが、勇者の影響か? やはりこういうところでその街がどういうものかわかるな)


「よう、兄ちゃん」


そんなことを考えているとスキンヘッドの大男がゆっくりと近づいてき、ゼフの前に立ちはだかる。その男はニンマリと笑っており、それを見て他の冒険者もゲラゲラ笑っている。


「兄ちゃんは新人か?」


「いや、俺はお前達と同じ冒険者だ」


「冒険者だと? ククク、お前みたいな奴がか! なあ、冗談はよしてくれよ兄ちゃんよ」


男はゼフの体を右手で掴み力を入れる。何もしていないゼフなら骨が砕けるほどの力だっただろう。しかし、アイアンGの能力のおかげでダメージは通らない。


「選べ、俺の純情な奴隷になるか、死ぬか」


「お前は今までこんな事してきたのか? あまり粋がらないほうがいい。 今日は見逃してやるから手を離せ」


「見逃すだと? それはこっちのセリフだ」


「2度はない。 やれ、アイアンG」


そう呟くと透明化をかけて近くに待機させていたアイアンGが男を羽交い締めにする。それと同時に魔法の効果が切れ姿が現れる。冒険者達は急に出てきた魔物に驚き、動けないようだ。


「なんだこいつ! 離せ!」


「滑稽だな、どっちが上かわからないやつほど見苦しいものはない」


男は体をジタバタさせるがアイアンGから抜け出すことはできない。


「そういやお前笑っていたようだが、お前もやるか?」


ゼフは近くにいた冒険者に問う。


「い…… いえ、す…… すいません……」


「そうか、なら許してやろう。 今は機嫌がいいからな、1度は許してやろう。 アイアンGその男を潰せ」


「な、何を言ってやが――」


男がそれを言い切る前にアイアンGは腕を一旦離すと、今度は胸に回す形で抱きしめる。そして、力を入れると鈍い骨が砕ける音が響く。


「ぎぃやああああ! 痛い! 痛い! すまなかった! すまなかった! 許してくれ!」


「そうだアイアンG、ゆっくりと潰していけ」


ゼフはまったくその言葉に耳を持たない。周りの冒険者はそれに異様に感じ後ずさってしまう。中には女性冒険者などが顔を手のひらで覆い隠していた。


「すまない…… すまない……」


「すまないか、俺は人間だ。 そんな悪魔じゃない。 許してやろう」


「あ、ありがとう……」


男から涙が溢れる。口からも血が吹き出しており、喋れるのが奇跡と思うぐらいだ。


「だが、残念なことにそこにいるアイアンGは許してないみたいだ」


「え……」


「やれ」


次の瞬間骨が勢いよく潰れる音が冒険者組合に響いた。男は叫ぶことも許されなかった。



✳︎✳︎✳︎



(悪魔め……)


(私も殺される……)


冒険者は各々が危険を感じ祈る者やゼフを悪魔と称するものなど多々である。そんなことを起こした張本人は掲示板を見て依頼を探していた。


「あまりいい依頼がないな」


基本的に冒険者同士のいざこざには組合は関与しない。それに驚くことにゼフはSSランク冒険者だった。あの後勇気を振り絞った冒険者の1人によって聞くことができた。その瞬間だけ、組員と冒険者は驚いたが、すぐに恐怖に塗り替えられた。既にあんなにいた冒険者も1桁になっている。


(奴隷って確か最低金貨1枚だったよな。 それよりもあの男がやっていた新人虐めは少し興味があるな )


ゼフは近くに座っている顔が悪い小柄な男に近づいていく。男はそれを見て慌てだす。


(やべぇよ、やべぇよ。 あんなことしたやつがこっち来てるよ。 何かやったか俺)


「おい、お前」


「は、はい!」


「ランクはいくつだ」


「ランクはBです!」


「そうか、丁度いいな。 明日から俺の命令に従えいいな?」


「は、はい!」


恐怖のあまり2つ返事で答えてしまう。


「いい選択だ。 明日も同じ時間にここに来るが、逃げたらわかっているな?」


「は、はい!」


そう言うとゼフと名乗る最高ランクを持つ冒険者は組合を後にする。


「災難だったな」


ゼフが出て行った後、仲のいい冒険者に声をかけられる。


「なんで俺なんだ……」


「そう、気負うことねえぞ。 第1死んだのは突っかかったあいつが悪いんだしよ。 確かに恐ろしかったが……」


「はあ、今日寝れるかな」


「まあ、なんかあったら助けてやるよ」


「どうして俺なんだ……」


ゼフに目を付けられた冒険者のレオはその日その言葉を何度も呟き続けた。

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