思いと傲慢
第82話 歩み
ゼフは現在勇者達含む50人ほどで帝都に向かっている。勇者達はそれぞれ馬などに乗っているが、ゼフはコゾクメというバッタをサイぐらいの大きくした蟲に乗っており、後ろにはシルヴィアが黙って跨っている。
「ゼフさん、あんた変わった生き物に乗ってるね」
声をかけてきた顎髭が特徴の40手前であろう男は一応勇者である。勇者は全員で12人いるが、この男はその中でも最も歳を取っているだろう。
「そうだな、パラリオットも立派な馬に乗ってるな」
その馬は肌は紫で普通の馬より一回り大きかった。
「そりゃあこいつは魔物だからな」
「魔物なのか」
「ああ、そうだ。 トライホースという魔物でな、知性が高く筋力も普通の馬の7倍だ。 だが、その凶暴さ故にいろんな都市がこいつを魔物に指定してしまったわけだ」
「凶暴という割には大人しいな」
「こいつは大人しいぜ。 まあ、今日は大人しすぎるぐらいだがな。 そういうゼフのも大人しいじゃねぇか」
「こいつは俺が召喚したからな」
そう言いながらコゾクメの頭を優しく撫でる。
「思ったより優しいやつでよかったよ」
「そんなことはない」
「そうだ、その魔物は一体何を食べるんだ?」
「一応今は俺の魔力を喰わしているが、喰おうと思えばなんでも食べる」
「なんでもね……」
「そんなことより何故勇者が付いてくるんだ? 俺はただ帝都に向かうだけだぞ」
「俺達勇者も帝都に用事があるのさ。 だから強い召喚士であるゼフについてきてもらった方が最近のことを考えると安全だろ?」
「たしかにそうだな……」
言っていることに不思議なことはない。ただ、どうしてこの時期なのか疑問に思うが、特に必要ないと思い聞かなかった。
「そういやパラリオットは怪物について何か知ってるのか?」
「いや、噂ぐらいしか聞いたことねぇ。 会ったことあるやつはキールとインスぐらいだったからな」
「そうか」
「だが、これだけは言えるぜ。 最強の冒険者だとな。 全てを壊し、誰も勝てない。 実際にキールが戦ったらしいが手も足も出なかったらしいからな」
「それは楽しみだな」
(残る問題はこの怪物ぐらいだな。 冒険者ランクも最高ランクに到達したことだしもう我慢する必要はない。 どのような蟲を召喚してもいいし、誰を殺してもいい。 今後のことを考えてやりすぎないようにすれば自由だ)
目標を達成したゼフはもう縛られる必要はない。これからは王都、聖都、帝都の3つの街を拠点に活動すればいいと考えている。怪物に会うのだって暇を潰す一貫としか考えていない。
「ゼフ、そんな暗い顔するな。 もし何かあれば俺がなんとかできる範囲でしてやる。 一応俺勇者だしな」
「そんなに暗い顔をしていたか?」
「ああ」
「そうか、それは余計な心配をさせたな」
「いいってことよ」
そう言いながらゼフの服を見やると中からもぞもぞとダンゴムシのような蟲が出てくる。大きさは人の顔ほどある。ゼフはそれを抑え服の中に戻そうとする。
「なんだその魔物は?」
「こいつか? こいつは人喰い蟲という魔物だ」
「人喰い⁉︎」
「安心しろ、こいつはずっと共にしているペットだ。 襲ったりはしない」
「そうか…… それは良かったぜ。 それにしてもどうして服の中に入れてるんだ?」
「理由か? まあ、単純に手放したくないというのもあるが、1番の理由としては毒を分泌するからだな」
「毒⁉︎ お前大丈夫なのかよ」
「俺は大丈夫だ。 毒と言ってもこいつが恐怖を感じた時に分泌するという物だ。 今は安心してる大丈夫だ。 まあ、触れただけで即死するような毒だから気をつけた方がいい。因みに抗体はなく、場合によっちゃあ史上最強の毒とも言われてるからな」
「それは危ないな」
パラリオットが人喰い蟲を見る目がゴミを見るような目に変わる。それをいち早く察したゼフは呆れる。
(やはりどんな奴だろうと危険と分かればそのような目をするよな。 もうその目には慣れた。 だから、人前では見せたくなかったんだ。 もう少しクイが大人しければよかったんだがな……)
クイとは人喰い蟲の名前である。
「お、見えてきたぞ」
パラリオットがそう言うで見てみると城壁が見える。作りは王国や聖国と変わりはない。
(さて、怪物とはどれほどの強さか楽しみだな)
ゼフは嬉々として残りの時間を過ごし、やがて帝都に着いた。
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