第76話 進行

闘技場は禍々しく光り、それは段々と強くなる。それは言葉にできないほど幻想的である。そして、光がだんだん薄くなると、闘技場の真ん中には2m程の魔物が立っていた。その見た目はカマキリのような見た目をしており、甲殻は紫色を放っている。手についている鎌は左右に2つずつ付いており、目はギョロギョロと周りを見定めている。


(ゼフ先生が渡してくれた物を割ったけど、こんな蟲が入っていたのか……)


デニーはそれを見て恐怖よりも嬉しく感じていた。これを使えば、目の前にいるライアを倒すことができることだけしか頭になかった。デニーはゆっくり立ち上がる。


「最後の悪あがきか? 何を召喚しても意味ないということがわからないのか?」


ライアはそう言うが、目の前にいる魔物は不気味でしかなく、軽く恐怖を覚えていた。


(所詮雑魚召喚士が召喚したものだ。 ビビる必要ねぇ)


ライアは手に持っている剣を再び構える。


「君は僕だけならいいものを仲間までも侮辱した」


「あ?」


「これは許されないことだ」


「何が許されないだ。 俺は俺のやりたいようにやる」


デニーはふと客席を見ると、ゼフが立ち上がっているのが僅かだが見えた。


(ここで勝つ。 もう、負けない!)


デニーは深く息を吸う。


「君みたいな人はこんなところにいるべきではない」


「だったらなんだ? 俺を倒すってのか? ゴミの分際で」


「大丈夫、僕ならやれる」


( 奴は油断してる。 今がチャンスだ!)


ライアはそう思うと動き始める。狙いは召喚した魔物である。近づくと、上から振り下ろすように斬撃を繰り出す。


「雑魚が! 俺に勝てると思うなよ!」


その斬撃は目の前の魔物を斬り裂くとライアは思い描いていた。だが、ライアが感じたのは鉄よりも硬い何かを斬り裂く感覚だった。剣は弾かれるが、すぐに態勢を立て直し距離をとる。


「どういうことだ? なんだ、あの硬度は……」


流石のライアも気づき始める。


「君がいくら謝っても、もう遅いよ。 まずは、奴の武器を破壊しろ!」


魔物はゆっくりと動き始める。そして鎌の1つを振り上げる。それを見たライアはすぐに防御の態勢をとる。


(俺があんなゴミが召喚した魔物を斬れない? どうして防御の態勢を取ってる? 俺はあんなゴミにゴミにゴミに)


ライアは圧倒的に格下の召喚士が召喚した魔物を倒せなかったことに苛立ちを覚え始めていた。魔物は鎌を振り下ろす。

それは、誰1人と視認することができない早さだった。ライアは視線を手の方にやると構えていたはずの剣の刃がないことに気づく。


「これで、君は戦えないね」


「俺がゴミなんかに、ゴミにゴミに」


デニーはこの行いを終始黙って見ていた観客席にいる生徒を見る。その者達はあまりのことで思考がついていけてなかった。目の前を見るとゼフが観客席でデニーと1番近くなるところまで歩夢とカイモンを連れて来ていた。


「デニー、よくやったな」


「ありがとうございます」


この魔物はゼフのものである。デニーそのことについて、非常に恩義を感じていた。次の言葉を聞くまでは……


「デニー、まだ終わってないぞ」


「え?」


「まだそいつは死んでないぞ」


「ですが…… そこまでしなくても……」


デニーは困惑しながら返答する。ゼフはため息をつく。


「仕方ない、お前がやらないなら俺がやる」


「え?」


「ジェノサイド・ダークネス、やれ」


それを言った瞬間ジェノサイド・ダークネスはその場から鎌を振るう。それはあまりにも早すぎる攻撃で見えることができたものは少ない。次の瞬間、会場全体に悲鳴が走る。


「どうして……」


「よかったじゃないか。殺せて」


ライアの首から上はなく、血飛沫をあげている。意思をなくした体はパタリとその場に倒れる。


「そうじゃなくって……」


歩夢とカイモンも困惑している。


「ああ、そうだ。 1つ言わなければならないことがある」


ゼフは笑顔を見せる。


「これでお別れだ」


ゼフはメッセージを発動させる。


「進軍開始だ」


生徒達はそれを聞いて意味がわからなかった。そして、徐々に理解していく。


「ゼフ先生何言ってるんですか?」


歩夢はゼフに問う。歩夢とカイモンはゼフに付いてくるように言われてついてきており、2人はてっきりデニーの応援だと思っていた。しかし、それは全く違うということを徐々に理解してくる。


「そうか、わからないから。 それじゃあこうしたらどうだ?」


ゼフがそう言うと腰から操蟲が勢いよく飛び出しカイモンを貫く。それを見て歩夢は理解する。裏切られたのだと。カイモンを見ると全く動いてなかった。おそらく即死だろう。


「まさか…… わたし……」


歩夢は膝から崩れる。ゼフはそんな歩夢を近くにいたビートルウォリアが透明化を解き、現れると羽交い締めにする。ゼフは客席から飛び出し、闘技場の真ん中に向かう。他の生徒達はさっきの行いを見てしまったからか、恐怖が伝染しここから逃げようとしている。しかし、透明の壁に阻まれ出ることができないようだった。


「バカなやつらだ。 ドームを使ってるから出られるわけないだろ」


ゼフは逃げ惑う生徒達を見て言葉を発する。ドームは耐久力が一定あり、それを超えなければ破壊することができない。

ドームの主な使い道は被害を最小限にすることと逃げられないようにするためである。


「ゼフ先生…… どうして……」


デニーは操蟲に貫かれた親友のカイモンを見て怒りが湧く。


「騙してたのか…… 僕たちを――」


デニーがそれを言い切る前にジェノサイド・ダークネスが首をはねる。


「お前の戯言に付き合ってる暇はない」


ゼフが真ん中に着くと後ろに気配を感じる。振り向くとそこには、翔太と真里亞がいた。


「圭太が言ってたのは正しかったな」


「遅かったな。 それじゃあ最後の遊びをしようじゃないか」


こうして災厄の戦いが幕を開けた。



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