第77話 勇者達

翔太と真里亞は下まで降りるとゼフを見据える。他の生徒や先生は恐怖に駆られ逃げ出そうとするが、透明な壁に阻まれて逃げ出すことはできない。


「圭太の読みは正しかったな」


翔太は静かに呟く。


「正しかった? 今それを言っても遅いだろ」


ゼフは馬鹿にしたように笑う。翔太は剣を構えてゼフを警戒する。


「まだ遅くない。 これ以上の被害が出ないようにここでお前を倒す」


「俺を倒すか、レンにも勝てなかったお前が俺に勝てるのか?」


「ああ、そうでなかったらここに来ない」


翔太はビートルウォリアに掴まれた歩夢を見る。幸いなことに目立った傷は無いようだった。


「歩夢が心配か?」


「当たり前だろ」


すると、真里亞が翔太の前に出る。


「歩夢を返しなさい!」


「返す…… か。 別にいいだろう、ビートルウォリア」


ゼフがそう命令するとビートルウォリアは歩夢を勇者達に向かって投げる。翔太は剣を放り出し受け止める。あまりに急なことだったのでバランスを崩してよろけてしまう。


「翔太、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。 それよりも剣を離してしまったな……」


ゼフは翔太が剣を手放しているにもかかわらずその場で

笑っているだけである。


「俺はここから動かないでいてやる。 さっさと剣をとれ」


(どういうことだ? 奴の狙いはなんだ……)


翔太は歩夢を真里亞に渡し、剣を取りに行く。


「歩夢大丈夫?」


「私、私は…… 私が独断でやったから…… こんなことに……」


「そんなことない、落ち着きなさい」


歩夢の精神はかなり不安定で今にも崩れそうだと真里亞は感じる。


「真里亞、歩夢をどこか安全なところで安静にしてやってくれ」


翔太は剣を取り呟く。


「翔太はどうするの?」


「俺がこいつの相手をする。 来れたらでいいから、後で援護に来てくれないか?」


「ええ、わかったわ」


真里亞は歩夢を背負いゆっくりとその場から離れていく。翔太はゼフを見据える。


「さあ、やろうか」


「なぜお前らは、どうしてそんな仲間のために戦うんだ?」


「なぜだと? そんなのに理由はいらない」


「わかった、聞き方が悪かったな。 仲間のためならどこまで命を張れる?」


「なんだと?」


そう言うと歩夢を背負って歩いている真里亞がバタンと音を立てて倒れる。


「真里亞!」


「動かない方がいい、あの2人がどうなってもいいのか?」


「くっ…… 一体お前はあの2人に何をしたんだ?」


「ドリップという罠魔法だ。 今の状態から察するに麻痺毒だな」


「麻痺毒だと? 一体いつ……」


「お前らは勘違いしてることがある。 魔法を使うのに詠唱やなにか動作を入れないといけないとな」


「どういうことだ?」


「つまり、俺は今この状態からでも魔法を使うことができるということだ」


「嘘だろ……」


翔太を含む勇者達は魔法を使うには詠唱などを絶対に用いらなければならないという思い込みをしていた。だから、ゼフは魔法を使うことはできないと思っていた。


「知らないというのはよくあることだ。 だが、それによって勝敗が分かれた戦いなんていくらでも見てきた。 お前達は俺に1つ負けているということだ」


「そうかよ、それでお前を倒せば2人は解放するのか?」


「そうだ、せいぜい足掻けよ人間」


「人間? まるでお前が人間じゃないような言い方だな」


「今は人間だ。 だが、いつかは神になり、この世の全ての生き物が誰も俺に勝てない程の力をつける。 それが、俺のやるべき事である」


「狂人が」


翔太は剣を構える。ゼフは棒立ちのまま動かない。


「邪魔が入っては楽しいものも楽しめない。 ビートルウォリア、近づいてきたものは殺せ」


ゼフがそう言うとビートルウォリアは動き出す。


「やめろ!」


翔太が止めようと動こうとする。


「動かない方がいい。 お前は2人を助けたいんだろ?」


「選べってことか?」


翔太は自分に圧倒的な力がないことを悔いる。


「いや、確実に助けられる方を選んだ方が賢明だと言いたいんだ」


「そうか、わかった」


翔太は近づこうとしている人がいないことを確認して、この戦いをすぐ終わらせようと動く。


(歩夢はソイックによって悪を倒すという使命を植え付けられた。 それによって俺という悪に協力したことによって精神が崩壊しかかっている。 真里亞は仲間が殺された時が1番絶望するとわかっている。 後は翔太をどうやって絶望の淵へ落とすかだな)


ゼフは楽しみで仕方がなかった。歩夢はゼフに裏切られたことで、真里亞は仲間を失うことで、そして翔太は最愛のものを守ることができなかった時絶望することを知っていた。翔太がゆっくり間合いを詰めてくる。


「どうした? ゆっくり詰めるじゃないか。 ビビってるのか?」


ゼフは翔太を挑発するが、返答はない。


(なるほど、かなり集中してるな。 だが、相手にはならない。 少しだけ遊ばしてもらうぞ)


次の瞬間、翔太から低い位置からの斬撃が繰り出される。ゼフの背中の操蟲はいとも容易くそれを弾く。


「なかなかやるな」


ゼフはそう呟く。次にフェイントを交えた横からの斬撃を繰り出されるが、これも弾いてしまう。


「いい剣筋だ、前よりは上達したようだな。 だが、これはどうだ?」


ゼフは操蟲に刺さっているカイモンの死体を翔太に向けて投げつける。これを、ゼフは避けると思っていた。しかし、翔太のとった行動はそれを2つに切り裂くことだった。


(こいつ…… なるほど仲間を守るために他のものを捨てたか。 これは少し苦戦するな)


ゼフは高らかに笑い始める。祥太はそのままの勢いでこちらに向かってくるのだった。









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