第75話 対抗戦

待機するデニーは静かに時間が来るのを待つ。気のせいか周りの音が良く聞こえる気がする。


(勝てるかな?…… いや、大丈夫だ。今までやってきたことを思い出せ)


デニーは自分に言い聞かせ緊張をほぐす。


「みんなの応援があるんだ。 きっと勝てる。 でも、負けるとしても悔いのない戦いにしよう」


デニーはそう言うが、この対抗戦は召喚士の枠と当たった場合敵として見るものは少ない。誰もが召喚士がやられるとこを見ようとしているのだ。それほど召喚士の学園での立場は低い。


「もしもの時はゼフ先生から貰ったこれもある。 大丈夫だ」


デニーは手に持つおぞましい色の鉱石を見つめる。

そんなことをしていると時間が来たのか目の前の柵の門が開く。デニーは鉱石を腰につけてる袋に入れると頬を叩く。


「よし、行くぞ」


デニーはそう言って歩き出す。そして、外に出るとそこは人がいっぱいになった客席とうるさいほどの召喚士への罵倒と相手の剣士の応援だった。


(覚悟はしてたけど、ここまで酷いなんて……)


デニーが聞き取れる範囲では負けろ、雑魚がよく来たな、死ねなど酷いものだった。ちなみにこの罵倒のことはゼフに聞いていたので精神を強く保つ。デニーが前を見ると剣士の代表が歩いてくる。


「どうも、召喚士のデニーです。 悔いなき戦いにしましょう」


「悔いなき? いや、嬉しいよ。 俺は少し試し斬りがしたかったからさ」


デニーは相手がこちらを下に見ていることを確認する。


「試し斬りか、僕も君みたいな人でよかったよ」


「ハハハ、なんだよそれ。 1ついいことを教えてやる」


相手の剣士はデニに近づき耳元に口を近づける。そして、ゆっくりと口を開く。


「ゴミが喋んじゃねぇ」


それは明らかに人に言っていい言葉ではなかった。デニーは恐怖すら覚える。視線を相手の剣士に移すと先ほどのことがなかったように馬鹿にした笑みを浮かべている。


(一部召喚士に対してかなり差別的な人がいるって言ってたけど、この人がそうなのか……)


「ライア、頑張って〜」


客席から1人の女生徒が手を振っている。


「おう、任しとけ」


ライアは笑顔を振り向ける。


(負けたくない、こんな奴に)


デニーは学園に来て初めて負けたくないと思う。


「さて、そろそろ始めるか。 俺はお前が魔物を召喚するのを待っといてやる。 召喚が終わった時が開始の合図だ」


「わかった」


デニーは規定通り真ん中から10歩大股で歩き距離を取る。ライアも準備ができたようで召喚するのを待っている。


「絶対に勝つ。 負けても後悔しない戦い? そんなのは僕の逃げだ。 ここで勝って召喚士の強さを示してやる」


デニーはそう言うと右手を出す。すると、7つの魔法陣が現れる。ライアと観客席の生徒は少し驚き静かになるが、すぐに元に戻る。


「来い、フレアスライム」


デニーがそう叫ぶと、魔法陣が割れ80cm程の赤く燃えてる液体状の魔物が現れる。ライアを見るとゆっくり腰の剣を抜いていた。


(まずは、様子見で2体あいつにぶつける)


2体のフレアスライムはゆっくりと動き出す。


(なるほどな、様子見か。 あいつもバカじゃないらしいな)


ライアはデニーの考えを読んでいた。7体同時召喚したのは驚いたが、フレアスライムはそこまでの脅威ではない。おそらくこの試合は楽勝だろう。


(所詮、ゴミはゴミだ。 大人しくしてればいいものを場違いなとこに出るから味わうことになるんだよ。 圧倒的な力というものを)


ライアは剣を構える。フレアスライムは勢いよく飛びかかるが軽く避けられ斬られる。続いて2体目のフレアスライムも飛びかかるが、正面から真っ二つにされてしまった。


「まずは、2体だ」


デニーはライアのあまりの強さに焦る。急いで次の魔物を召喚しようとする。しかし、ライアは次々とフレアスライムを両断していく。


(あいつ、正確にスライムの核を狙ってるのか⁉︎ そんなこと初見でできるのか?)


スライムは体のどこかにある核さえ壊されなければ再生することができる。しかし、ライアが斬ったスライム達は再生することはない。


「来い、フレアスライム」


新たに7体のフレアスライムが現れる。


「いくら雑魚を呼んでも意味ないんだよ」


ライアは再び呼ばれたスライム達をものすごい勢いで、次々と倒していく。


「来い、フレアスライム」


「意味ねぇと何度言えばその小さな脳みそに記憶されるんだ?」


ライアは喋っている間もフレアスライムを斬り刻んでいく。

デニーもその間も夢中で召喚していくが、どんどん数が減っていくのに気づき、焦りだす。


(ダメだ、どうして。 別に舐めていたわけじゃない。 でも……)


そこでデニーは気づいてしまう。どんな世界にも天才はいるが目の前の存在がそうなのだろうと。


(ああ…… そうか。 奴は天才で僕は凡人なんだ。 何を勘違いしていたんだ。 僕じゃ勝てない……)


デニーは召喚をやめ膝をつく。


「なんだ? もう終わりか。 大したことないな」


ライアはゆっくり近づいてくる。この対抗戦はルールとして殺さなければ何をしてもいいというものがある。しかし、だからといって戦意を喪失した相手に追撃などはしない。そう、召喚士以外には。


「ゴミのくせによく頑張ったな。 今年は俺が楽しましてもらう」


客席の生徒がヒートアップする。それはこの日最高潮のものである。召喚士をいたぶるのを見れるだけで人はここまでなれるというのに2割の生徒は恐怖をおぼえる。


「僕は負けた。 やるならやれよ」


「うーん、なんか面白くないな」


「え?」


「そういえばお前のとこに勇者っていただろ?」


「な…… 何を言って……」


「あの勇者をお前の前に引き連れてきて、ボコボコにしてやろうか?」


「え……」


「いい顔だ、それじゃあ連れてくるように頼むわ」


デニーは怒りは限界を超える。自分だけなら良かっただろう。しかし、仲間のこととなると我慢も限界だった。


「この…… この…… クズやろうが!」


デニーは怒りを露わにする。すると、腰の袋からゼフからもらった鉱石を取り出し手に取る。デニーは迷いなく魔力を込めると禍々しく光りだす。そして、それを勢いよく地面に投げつけると、禍々しいオーラが爆散し会場を包み込むのだった。




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