第70話 悪魔
魔晶石のようなものを中心にその光を強めていく。
それはこの場に相応しくないほど幻想的で、見る人を魅了する程であった。
また、それと同時にとんでもない何かが出てこようとしているのが直感ではあるが感じとる。
「封印石か……」
そんな中ゼフは呟く。
「へぇ、よく知ってるね」
「何度か見たことがあるだけだ。 それにしてもこの封印石……」
「知ってるなら分かるよね。 この中にどんな化け物が入っているのか」
「ああ、分かっている」
ゼフは口には出さないが、この部屋にある封印石はあまりにも小さい。
ゼフが今まで見た封印石は最小でも皇城ほどの大きさがあり、最大は太陽ほどの大きさを持っていた。
もちろんそんなものに入っている化け物に挑む覚悟はゼフにはなかったので挑まなかったが、少なくとも数百万の犠牲が出たと聞いている。
「そろそろだね」
まるでタイミングが分かっていたかのようにレンがそう口を開くと、封印石に少しずつひびが入りはじる。
そして、そのひびの隙間から白い光が漏れだす。
まるで何か聖なる存在が飛び出すかのように。
それで勝利を確信したかの如くレンは笑みを浮かべる。
「それにしても君がこの間に僕を殺そうとしないなんて意外だよ!」
「お前には生きて罪を償ってもらうつもりだからな。 こんなとこで殺してしまっては勿体ない」
レンはゼフの言い回しに少し違和感を覚えるが、それは自分の考えすぎだと思いすぐに忘れる。
何故なら封印石が放っていた聖なる光が漆黒に染められたからである。
「君は後悔するだろうね。 僕を殺さなかった事を。 そして、最強の怪物が現れるのを待ったことを」
「ククク、そっくりそのまま返してやる」
そして次の瞬間、封印石が割れる。
辺りに封印石の欠片が飛び散り、何か黒い物体だけが残る。
それはゆっくりと蠢き始め、何か生物の形を彩る。
いや、ただそう見えただけだ。
やがて姿を現したのは異形のものだった。
体長は三メートル程あり、頭の右と左にツノが付いている。
爪は鋭く、牙は鋭利である。
目つきはこちらを絶望に落とすほど混沌に染まっているが、何よりも極め付きはその筋肉である。
腕や足は丸太のように太く、これで殴られてしまえばひとたまりもないと思えるほどである。
そんな異形にゼフは心当たりがあった。
「悪魔か……」
「そうさ、それにただの悪魔じゃない。 数百人という勇者の聖なる魂を取り込んだ最強の悪魔さ!」
レンはそう叫ぶとその悪魔に近づく。
「頭が…… 頭が……」
悪魔は野太い声で苦痛を訴えているが、それを無視してレンは口を開く。
「やぁ、僕はレン。 早速で悪いけど契約してもらうよ」
「契約か…… 我の満足する生贄はどこにある」
「ここにあるよ」
「ふむ、たしかに普通の魂が二つ、聖なる魂が四つ、そして……」
悪魔はゼフを凝視する。
「我が見たところお前は人間のようだが、本当に人間か?」
「人間だ、悪魔共は口を揃えてそれを言う。 全く不愉快だ」
「ならば、人間という事にしといてやろう。 それで契約だが、現在を持って完了した。 レン、お前は我と一心同体になり、その力を得る」
「それは光栄だよ。 フフフ、これでもう僕に勝てるものはいない。 さぁ、どうする?」
「ククク、大した事はない。 お前は俺に勝てない。 その悪魔も含めてな」
「我が勝てない? ハハハ! たとえお前のような異様なものでも四二柱が一つ剛腕のデーモンであるこの我が負けるはずないだろ」
「大層なものだな…… ならばかかってこい」
「そうだな、お前を殺して…… ここにある聖なる魂は美味しくいただくとしよう」
デーモンはそう言い身体を震わせる。
それによってデーモンの身体は数倍に膨れ上がる。
「死ね、人間が」
デーモンが拳を振るう。
今まで出会ってきたどの魔物よりも鋭く速い。
しかし、その拳はゼフに届くが、彼に傷一つ付けることすら叶わなかった。
「なんだと……」
「デーモン、あそこの蟲を殺さないと奴にはダメージが遠らはないよ」
デーモンはアイアンGを見る。
「そういう事か」
デーモンは対象を変え、再び拳を強く握りしめる。
「お前如きがアイアンGの防御力を突破できると思うのか?」
「…… 残念だが、人間。 お前は少し勘違いしてる。 俺が突破するんじゃない。 この蟲がどれだけ耐えれるかだ!」
そう拳を振るった瞬間、大地を震わした。
そして、アイアンGはと言うと…… それに耐えきれずに潰れていた。
デーモンはそれを確認すると笑う。
「建物を壊すつもりで殴ったんだが…… まぁ、いい。 これで分かっただろ?」
それを見たゼフは笑って返す。
しかし、内心は焦っていた。
(こいつ化け物か…… 俺が咄嗟に城全体に防御魔法を何重にもかけなかったら、皇都がなくなってたぞ…… それにアイアンGが一撃でやられた。 つまり、俺の攻撃魔法は効かないに等しいなという事だ)
魔法には下位、上位、超位、絶位の順であり、下から十五段階、十段階、五段階、一段階に分かれている。
ゼフの攻撃魔法は下位のものまでしか使えない。
しかし、防御、隠蔽、阻害などサポート系や妨害系などの魔法は超位まで使えた。
しかし、今は使わない。
何故ならこいつは蟲達の実験台なのだから。
「さて、次はお前だ」
「なかなかやるな。 まさかアイアンGが一撃とは……」
「ふん、あの程度どうって事はない」
ゼフはその言葉で少し考える。
結果、こいつをあの蟲に当てるという結論に至る。
「我は慈悲深い。 最後の言葉ぐらい聞いてやらんでもないぞ」
ゼフはその場から動かない。
そして、ゆっくりと口を開く。
「お前は強い。 だからこそ、誰も勝てない圧倒的な化け物を持ってお前を排除しよう」
「恐怖で頭がおかしくなったのか? まぁ、いいだろう」
デーモンはゆっくりと近づき拳を構える。
ゼフは相変わらずその場から動かない。
しかし、とある蟲の名前を告げる。
「遊んでやれ、ジ・ザーズ」
デーモンはそれを聞いた瞬間、拳を先程と比べものにならない速度で放つ。
しかし、それは届かなかった。
「『テレポート』」
何故ならデーモンはゼフによってその場から飛ばされてしまったからである。
他の者はそれを見て呆気に取られる事しかできなかった。
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