第69話 最高の時
ゼフが部屋に入ると、そこには歩夢以外の勇者が全員床に倒れており、動く気配すら見せない。
奥には巨大な水晶のようなもがその存在感を示しており、その近くにレンが立っていた。
レンは不気味に笑いながら口を開く。
「来るとは思ったけど、少し遅かったね」
「遅いだと? そんなことはない。 まだ死んでる奴はいないからな」
「理由になってないな」
「すぐに分かる…… お前は少しやりすぎた。 次は俺達が相手になろう」
「たとえ強くても、召喚士である君がこの場所で戦えると思ってるの?」
ゼフはそれにため息をつく。
この世界に来て何回聞いたであろうセリフ。
職業によって優劣をつけるなど論外。
それをこいつらは分かっていないのだ。
「どいつもこいつも召喚士をバカにして…… 」
「そんなに嫌なら僕に分からせてよ。 召喚士の強さというものをさ」
「ああ、いいだろう。 だが、その前にこっち来い」
ゼフは振り返り手招きをする。
すると、歩夢とケインが姿を現す。
「みんな! 大丈夫!」
部屋の中を見た歩夢は驚き叫ぶ。
何故なら全員が倒れ動けない状態だったからだ。
「うそ…… どうして……」
そして、少し遅れて気づく。
何故ならそこにレンが立っていたからだ。
しかも無傷でだ。
それは仲間を傷つけたという怒りからか、悪を許さないという信念からか分からない。
だが、確実に今彼女は怒っていた。
「生きててよかったよ歩夢」
そんなことも知らずにレンは呑気に歩夢に話しかける。
「どうして…… 私は許さない。 あなたのような人を!」
「別にそう思って貰って構わないけど…… 案外悪い奴は近くにいるんじゃないかな」
レンはそれを言うとゼフの方へ視線をやる。
それを誤魔化すべくゼフは口を開く。
「歩夢、ケインを連れて翔太と真里亞を安全なところへ運べ」
「分かりました…… ケイン行くよ」
「お、おう」
そう言うと二人は倒れている勇者に駆け寄る。
そして、部屋の隅へと運び始める。
「それにしても…… よく歩夢達を守りながらここに来れたね」
「ククク、雑魚を配置しても意味ない。 それに歩夢達は連れてくるつもりはなかった。 一緒に来たのは偶々だ」
「偶々ね……」
レンとゼフは睨み合う。
「さて、お前の足元の圭太を返して貰おうか」
「それはできない相談だな。 返して欲しかったから力づくでやるといい」
「そうか、ならばこれ以上は言う事はない」
ゼフはそう言うとゆっくり歩みを進める。
手には何も持っていない。
レンはそれが不気味に感じた。
(どうして魔物を召喚しない? 召喚しないメリットはあるのか?)
今までゼフにいろんな者を当ててきたが、確定的な戦闘情報を手に入れることはできていなかった。
だから、レンは闘技場の情報を頼りに戦うことになっていた。
だが、それでもおかしい。
「どうした? かかってこないのか?」
(何がしたいんだこいつは……)
レンはゼフの言葉で更に困惑する。
罠かそれとも……。
「かかってこないなら、こちらから行かせて貰おう」
そう言ったゼフの足元に魔法陣が現れる。
それは一瞬で割れ人の手の半分くらいのゴキブリのような蟲が現れた。
「行け、レギニオン」
ゼフが命令すると、レギニオンはレンに飛びかかる。
だが、その動きはあまりにも遅い。
(遅い…… 一体何がしたいんだ)
レンは軽く剣を振るとレギニオンは真っ二つになり、絶命する。
「これで終わりかい?」
レンがそうゼフに問うと、不気味にも笑う。
「ああ、終わりだ」
その瞬間、レンは背後に何か気配を感じた。
すぐに前転し避ける。
そして、立ち上がり元いた場所を見ると、そこにはアイアンGが直立不動の姿勢で立っていた。
「なるほど…… 今までのやつらはこれにやられたってわけか。 それにさっきの召喚魔法を使うことでバレにくくするという事か」
「今までの奴らとは違うな。 だが、残念だったな。 これでお前は圭太から離れた」
「問題ないよ、君を倒せばね。 でも…… 僕が気づかなかったレベルだからこの魔物も相当強いをだろうね……」
レンはゼフを見据える。
そして次の瞬間、ゼフの目の前に一瞬で詰め寄る。
それは翔太と戦っていた時よりも倍速かった。
レンはゼフの横腹付近に狙いを定めて剣を振るう。
確実に殺した、そう思った。
所詮は召喚士。
避けれるはずなどない。
しかし、そんな考えとは裏腹にレンの想定していなかった事が起こる。
それは金属のような音。
キィンと鉄を叩いたような音が部屋中に鳴り響く。
「どういう事だ……」
レンの剣は弾かれその勢いで尻餅をつく。
何かの魔法か、それとも能力か。
全くそれが理解できなかった。
「…… 知らないのは罪だな」
ゼフがそう静かに呟く。
「…… 何を言ってるんだ?」
「お前はアイアンGの能力を知らないからそうなるんだ。 アイアンGの能力は一定範囲内にいるすべての攻撃を身代わりになるという能力だ。 その間はさっきのように俺への攻撃は効かない」
「へぇ、そうかよ」
レンはゆっくりと立ち上がる。
そして、アイアンG詰め寄り斬りかかる。
しかし、何度攻撃しようとも先程と同じ感触が伝わってくる。
「なるほど…… 僕は勝てないというわけか」
レンにとって全力を出して斬れなかったものは今までなかった。
剣だって最高峰の素材を使用している。
だが、アイアンGの身体には傷一つ付いていない。
「これで分かったか、お前は負けているんだよ。 お前が馬鹿にした召喚士によってな」
「ああ、そうか…… これはたしかに魔王が言っていた通り勝てないわ」
「…… やはりお前が通じていたか。 ならば何故…… 俺の事を学園長などに話さなかった」
「そんな事をすれば僕が魔族に通じている事がバレる。 そうなれば楽しい事もやりたい事もできなくなるじゃないか」
「そういう事か…… だが、結果は結果だ。 諦めろ」
「そうだな、僕は勝てないな」
レンがそう言葉を吐いた瞬間、部屋にある巨大な魔晶石のようなものが激しく光りだす。
レンはそれを見て不気味に微笑む。
「仕方ない、少し早いけど僕が全てを終わらせてやるよ」
こうしてレンにとって完全とまではいかないが計画が次の段階に進んだのだった。
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