第67話 最強の剣士

 時間にして三分程だろうか、いやもしかしたら一時間かもしれない。

 剣と剣がぶつかる音だけが響き渡るその部屋で翔太は息を切らしながらレンを見つめる。

 学園で習った事は最大限に生かしていた。

 しかし、その全てが無意味と言わんばかりに攻撃が当たる事は無かった。


(強い…… やっぱり一筋縄ではいかないか……)


 翔太は素直にレンの強さを認める。

 その間にも攻撃を仕掛けるが、簡単に避けられてしまう。


「やるね、翔太」


 レンはそんな事を話しかけてくるが、翔太にそんな余裕はない。


「ふんっ!」


 相手は油断している、その隙をついて攻撃する。

 しかし、簡単に受け止められてしまう。


「無視しないでよ。 それともそんな余裕もないくらいなのかい?」


 レンは微笑みを向ける。

 それがさらに翔太のイラつきを加速させる。


「黙れ!」


 もう一度振りかぶり叩きこむが、再び受け止められる。

 しかし、今度は違う。

 力を最小限にしたことで次の動きができるのだ。

 翔太は剣を自分の腹の部分に引き寄せ、勢いよく突く。


(これは避けれないだろ!)


 翔太は避けれないことを確信していた。

 だが、レンは避けずに剣の持ち方を変え受け流す。

 翔太はその力の勢いによって前にふらつく。

 だが、転ばないように踏ん張り後ろに振り返る。

 そして、再びレンを見据える。


(なんで…… あれが受け流せるんだ? 意味が分からない……)


 ここまで思うように攻撃できない事など無かった。

 翔太の剣を持つ手に力が入る。


「惜しかったね。 でも、残念」


 レンは馬鹿にしたように笑う。


「クソがっ! 」


 再び剣を振るいながら近づく。

 上からの攻撃、下からの攻撃、横からの攻撃などを計十数回の行うが、翔太の剣はレンに届かない。


「どうして、当たらないのか分かるかい?」


 そんな中、レンが口を開く。


「どういう事だ?」


 翔太は距離を取り、剣を構えレンを見据える。


「この際はっきり言うけど、力は君の方が強いよ。 でもね、技術が足りない。 だから、僕には勝てないよ。 永遠にね」

「そうかもな…… だが、何か勘違いしてねぇか?」

「勘違い?」

「俺はお前みたいに自分の為に戦ってない。 仲間の為に戦っているんだ」

「仲間の為に戦ったら強いと言うのかい?」


 その問いに翔太は笑う。

 そして、再び距離を詰める。

 一見無謀のように見えて違う。

 実は翔太はまだ本気を出していなかったのだ。

 翔太がさっきの攻防とは比較にならないぐらい速い斬撃をレンの脇腹に叩き込む。


(はやい……)


 レンは今までの攻防がこの攻撃のためのものだと知り、そして感心する。


(これは避けれないな……)


 だからこそレンは自らの剣を当てて防ぐ。

 レンはその斬撃を防ぐことに成功したが大きく吹き飛ばされる。


「ガハッ!」

 

 地面に背中を強く打ち、すぐに立ち上がる。

 その間にも翔太は詰めてきており、再び同じ攻撃を受け止める。


(やばい……)


 レンは再び吹き飛ばされるが、今度は体勢を維持したままに成功する。

 そして、もう一度と言わんばかりに翔太は詰め寄ってくる。


(何度もくらうと思うなよ……)


 レンは防御の構えを取る。

 翔太は今度は下へ潜り込み上へ斬り上げようとする。

 しかし、レンはそれを読んでいたのか近づき翔太の腹を蹴る。


「グハッ!」


 翔太はそのまま転がるが、受け身をとりすぐに立ち上がる。


(そう何度もやらしてくれないか)


 翔太は攻撃が成功したことにより、少し落ち着きを取り戻していた。


「まさかダメージをもらうとわね……」

「どうだ? 俺の攻撃は」

「ははは、いい攻撃だよ。 手加減してやるつもりだったけど、もういいや。 どうせ、二人もいれば十分だろうし」

「それで俺に勝てると思うのか?」


 レンは翔太からのその言葉を無視して口を開く。


「君達が召喚される前に召喚した勇者はどうなったと思う?」

「お前らが殺したんだろ?」

「それは間違いだ」

「…… なんだと?」

「勇者を殺したのは最果ての地と呼ばれる場所にいる者達だ」

「最果ての地?」


「最果ての地は皇都から魔族達の街の反対側に進んだところにある場所だよ。 あらゆる種族が争い、奪い、殺しあってる場所だ。 到底人間が生きていける場所ではない」

「もしかして…… お前ら、勇者達を……」

「ああ、そうだよ。 約100年ほど前から勇者を送り込んでいたんだけど、誰一人帰ってこなかった。 その度に勇者を召喚し、育てなければならなかった。 はっきり言って手間と時間がかかり無駄だと僕は思ったよ」

「何故そうまでして送り込むんだ?」


 翔太は出来るだけ怒りを抑える。

 だが、既に我慢の限界だった。

 だから、何を言われたとしても翔太はレンを殺すつもりでいた。


「最果ての地が欲しいからさ。 でも、行きたいと思う者はいないからね。 だから、勇者に行かせてたみたいだけど…… 本当に無駄だったよ」

「無駄だと……」

「ああ、そうさ。 どうせ何回最果ての地に行かせても元の世界が平和すぎるんじゃ、あそこに住んでる者達には勝てないよ。 だから、僕は勇者達を使って最強の化け物をが蘇らせる事にしたのさ」

「ふざけるなよ…… お前達のせいで…… どれだけの…… どれだけの人が死んだと思ってるんだ!」

「まぁ、そうだね。 残念だと思うよ。 でも、僕にとってはどうでもいい事なんだ」


 翔太はその言葉に絶句する。

 そして、目の前にいるのは人の皮を被った化け物であることを認識し、静かに見据える。


「そろそろ再開しようか。 こんな回りくどい事をしてようやくここまで連れてきたんだから。 楽しもうじゃないか」

「ああ、いいぜ。 すぐに終わらせてやる」


 翔太は剣を両手に持ち構える。

 レンは人が恐怖や不安など負の感情を抱く人間をのを見るのが好きだった。

 今回の場合は圭太はレンに裏切られることによって、翔太は自分では何も守れなかったという己の弱さによって、そして真里亞は仲間が死ぬことによって最大限の負の感情を与えることができる。


「終わらせるか…… ククク。 あんまりそういうのは口にしないほうがいいよ」


 翔太は集中する。

 レンが一歩でも進めば、奥の手で斬りかかるつもりだと考えていた。

 そして、レンが口を開く。


「さて、行くよ」


 レンはゆっくり歩みを進み始める。


(来い…… 俺がお前を終わらせてやる)


 レンは一歩踏み出し…… たと認識する前にそこにレンがいた。

 既に剣を横から薙ぎ払ったであろう体勢。

 翔太の背筋が凍りつく。

 見てみると、自分の持っていた剣の刃は折れ空中を舞っていた。

 翔太は改めて力の差を実感する。

 剣の間合いからすればかなり離れている距離だった。

 だが、次の瞬間には翔太が集中して見据えていたにもかかわらず、手が伸ばせば届く距離まで詰められていた。


「これで終わりだね」


 目の前のレンは小さく呟く。


「ば…… 化け物め……」


 翔太は圧倒的な力にそれしか言えなかった。

 折れた刃はようやく地面に落ち、それが静かに響き、戦いが幕を閉じた。











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