第66話 間違い

 魔晶石と思われるものが置いてある部屋はとても広い。

 恐らくパーティを行った部屋よりも少し狭いぐらいだろう。

 そして、扉は鉄のようなものでできており、硬く閉じている。

 そんな閉じ切った部屋だが、唯一の逃げ道である階段の入り口をレンが閉めたことにより勇者達は逃げる事ができなくなっていた。

 そんな緊迫した状況の中、圭太がゆっくりと口を開く。


「 …… 何を言ってるんですか? レンさん」

「圭太、君はもう少し物分かりがいい男だと思っていたけど…… 違ったのかい?」


 もちろんそんな事は分かっている。

 レンは勇者達の敵であるということを。

 しかし、簡単には認める事はできない。


「 僕は間違っていたというのか? そんなはずは……」

「圭太、大丈夫?」

「ここは俺が相手する。 少し休んでろ」


 翔太がレンから目を離さないで警戒してる間、真里亞が混乱してる圭太を部屋の隅に連れて行く。

 仲間がいるというのはこういう時心強い。


「翔太だったかな? 何か聞きたいことがあるなら答えるけど?」

「何故…… 圭太はお前の本性に気づけなかった?」

「なんだそんなことか。 それは君達の元の世界が原因だね」

「元の世界だと?」


 翔太はその言葉に驚く。

 勇者達は誰一人としてレンに元の世界の話をしたことはない。

 しかし、レンの口ぶりからその世界の事を知っているようだった。


「そういえば君達が何人目の勇者か知ってるかい?」

「何人目だと……」


 翔太を含め勇者達は自分達が初めての召喚された勇者だと思い込んでいた。

 だから、それを聞くことはなかった。

 だが、それは彼の言動から違うものと初めて理解する。


「やっぱり知らないみたいだね。 翔太、君はね425回目の勇者召喚で1075人目の勇者なんだよ」

「1075人だと……」

「そうだよ、知らなかっただろう? 思い込んでただろう?」

「確かにに思い込んでいた…… だが、それが圭太がお前の本性を見分けなかったの理由にはならない」

「翔太、君は圭太が信用している人物だから悪い人物ではない。 信用できる仲間だ。 そう思い込んだんじゃないか?」

「確かにに思い込んだ……」


 翔太はそれを聞いて恐怖を覚える。

 元の世界では人を疑う事など滅多な事ではしない。

 だから、翔太は圭太の言葉を簡単に信じてしまったのだと。

 そして、一度信じてしまえばそこから再び疑うことは難しい事も。

 それがレンのような人物なら尚更だ。


「君達の世界は少し平和すぎなんだ。 人を疑うことを知らなさすぎる。 それに不安だっただろ? 訳も分からないまま転移してきた場所が狂ったように皇帝を肯定する人々たちに」

「まさか…… お前がすべての元凶なのか……」

「そうだよ、圭太もまさか自分と同じ意見言う安全と思われる人物が最も関わってはいけない人物とは思わないだろう?」


 レンがいつもどおりの優しい笑みを浮かべる。

 だが、その笑みは今の翔太にとっては悪魔の笑みにしか見えない。


「圭太が信用するのも分かっていたのか?」

「遅かれ早かれこの街の状態に気づく者が出ることは分かっていた。 そして、皇帝が元凶であると気づく事も。 後は不安なその心を癒すようにしていけば、信用は得られる」

「もし、気づかなかった場合はどうするつもりだったんだ?」

「この程度にも気づかない奴は別の方法を取るつもりだったさ。 有能で助かったよ」


 そんな会話をしている時、翔太は一つ重要なことを思い出す。

 それは地下に残っている者達とトイレに行ったまま帰ってこなかったグレイヴとアリア、そして歩夢のことである。

 翔太は恐る恐る口を開く。


「レン、まさか…… 地下で残ったダリ達やトイレに行ったまま帰ってこなかったグレイヴやアリア、そして集合できなかった歩夢達は……」

「…… 歩夢は知らないけど、他の者達は君が思っているとおりだよ」

「まさか…… 本当に……」

「殺したよ」


 その言葉は翔太にとって冷酷で残酷なものだった。

 そもそもダリがいつ居なくなったのか分からない。

 あの時にもっと疑えば良かったと自分を責める。


「どうして…… どうして…… 俺は気づかなかったんだ!」

「魔晶石」

「…… え?」

「魔晶石のせいだと言ったら?」

「なん…… だと……」

「疑っているのかい? 僕は君達に嘘は一回しかついてないから安心してよ」


 レンはその一回以外は真実を言っている。

 だから、誰も疑うことはない。

 それ故にタチが悪い。


「歩夢は…… 知らないと言ったな? あのメッセージはどういう意味だ?」

「ああ、あれか。 あれは単に仲間に襲撃の合図を送っただけだよ。 ダリへのメッセージもだいたい同じさ。 できれば僕がやりたかったけど…… 残念だよ」

「この…… クソ野郎が!」

「一つ気がかりなのは…… どうして結界維持施設に護衛する者がいなかったという事だけかな。 まぁ、これが成功すれば気にすることではないけどね」

「真里亞!」

「しょ、翔太……」

「圭太は頼む。 このクズ野郎は俺がやる」


 翔太は手に剣をとる。

 その目つきは今にも襲い掛かりそうなほど鋭いものである。


「…… 分かったわ。 こっちは任せなさい。 無理すんじゃないわよ……」

「ああ、任しとけ!」

「別れの挨拶は終わったかい? 聞くけど、僕に勝てると思ってるのかい?」


 レンも腰から剣を抜き構える。

 翔太はレンのその問いには答えない。


「無視か…… 悲しいな。 さっきまで話してたじゃないかい。 でも、一人で戦うのは賢明な判断だ。 もし全員が一緒に戦っていた場合君の戦闘力は落ちていただろうからね」


 その言葉を言った終わった直後、翔太は飛び出す。

 低い姿勢を保ちながらレンに近づくと、剣を下から上に流すように斬りかかる。

 それをレンは軽く避け、受け流す。

 それが絶望的な戦い始まる合図であった。





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