第65話 潜入
皇都には長年使われていない地下通路が存在しており、それは既にレンから全ての勇者達に伝えられていた事であった。
入る場所は結界維持施設の近くであり、これを使い合流する予定であったが、歩夢達だけが未だにメッセージすら無い状況であった。
「…… 歩夢」
真里亞は合流できていない歩夢を心配するように呟く。
他の勇者も口には出さないが、表情がそれを物語っている。
それを見かねたレンが口を開く。
「なんらかのトラブルがあったんだろう。 もう少し待ってみよう」
そう言って落ち着かせようとするが、翔太の耳にはそれが届く事はなく、なんだか落ち着かない様子であった。
そして、翔太は皆んなの顔を伺いながら恐る恐る口を開く。
「レンにはメッセージで言ったんだが…… 皆んなが行った施設はどうだった?」
「…… 僕の所は生きてる人はいなかったよ」
「え? 圭太のところもなの?」
「…… どう言う事だ? 二人の所もなのか?7
三人はレンの方に視線を移す。
それを察したのか、レンはゆっくりと口を開く。
「そうだよ、僕が受けたのは大体同じ内容だったよ」
「…… どうして黙っていたんだ?」
翔太がそんな大事な事をと睨みつける。
「黙っていた訳じゃないよ。 歩夢達が来たら話そうと思っていたんだ」
三人はそれを聞いて納得すると黙る。
それもそうだ、情報は一度で共有した方が効率もリスクも低いのだから。
落ちついた翔太を含めた勇者達は施設の光景を思い出す。
切り裂かれた死体や原型を留めてない死体、あれは人間のやる事じゃない。
勇者達は一瞬顔色が悪くなるが、圭太が空気を変えようと口を開く。
「そういえば、ダリとガーナラスはどこにいるんだ?」
圭太の言うダリとガーナラスとは共に行動していた剣士と弓士の仲間である。
これにも再びレンが答える。
「二人には真里亞と一緒に行動したハームとナタレイの四人のチームでこの地下の見張りをしてもらってるよ」
圭太は四人がこの場所から移動した事も、そんな話をしていたという事も知らなかった。
いや、気づけなかったというのが正しい。
少し嫌な気分だ。
「そういえば、レンと一緒にいた二人の姿が見えないけど大丈夫なのか?」
「二人は怪我をしてるから、ここから少し先にある部屋で休ませているよ」
「見てきていいか?」
「いいよ」
圭太はそう言うと、一人でその部屋に向かう。
それはレンが言ったとおりすぐそこにあり、中には怪我をしてピクリとも動かない寝た状態の剣士と弓士の姿があった。
「息はあるみたいだな。 良かった……」
圭太は確認すると、すぐに部屋を出る。
そして、ゆっくりと勇者達とレンの元に戻る。
「確認したよ、怪我の方は見た限りだとそこまで深くなかった」
「それもあの二人が強かったお陰だよ」
レンは二人を庇いながら戦っていたが、それであの程度の怪我で済んだのは二人が予想以上強かったからだろう。
それは彼の紛れもない本心であった。
「だけど、レンを見る限りだと無傷みたいだな」
「そんな事ないよ。 ただ、潜ってきた修羅場の数が違うだけさ。 時間が経てば君達もできるようになるよ」
「そうなんですね、そういえば翔太と一緒に行動していた二人はどこ行ったんだい?」
「ああ、あいつらは用を足してくるって言ってた。 たぶんそろそろ戻ってくる筈だ」
「…… そうなんだ」
圭太は歩夢以外は今のところ無事なのを聞いて安心する。
今の所、まだ一人も欠けてない。
これがずっと続けばと思う。
「それにしても、この場所は何もないわね。 単独行動しても大丈夫なくらいだわ」
「ここは全く使われてないからね。 こんな警備だからこそ僕達は簡単に侵入できるんだから」
「そうなのね…… レンはどうやって皇城からここに来れたのかしら?」
「暴れた後、人が少なくなったところで皇城内の秘密の通路から入ってきたんだよ」
「ちょっと待ってくれ。 じゃあ、今皇城はどうなっているんだ?」
「混乱状態だろうね」
真里亞と翔太は素直に驚く。
こんな状態の城に潜入しなくてはならないのかと……
「二人とも心配しなくて大丈夫だよ。 皇帝の性格的に中の警備はほとんどいないと考えていい」
「…… どういう事?」
「それはね皇帝は城内に警備を配置することを極端に嫌っているからだよ。 だから、例えこんな騒ぎを起こしたとしても大丈夫というわけさ」
「そういう事なのね」
「だから、俺達が潜入しても大丈夫というわけか」
「そうだよ」
それを聞きみんなひと安心する。
だが、レンは何故か場違いな微笑みを浮かべる。
何かと勇者達が思っていると、レンが口を開く。
「みんな聞いてくれ。 今、歩夢からメッセージが入った」
「…… 良かった、これでひとまずは安心ね」
真里亞は胸を撫でおろす。
「レンさん、それでどんな内容だったんですか?」
「内容は簡単に纏めると警備が厳しいから、こちらに合流することはできないらしい」
「そうか……」
「うん、でも安全な場所に隠れてるみたいだから、自分達抜きで魔晶石を破壊してほしいという事らしい」
「仕方ないわね、でも安全と分かればこっちのものよ。 私達だけでやり遂げましょう」
「ああ、そうだな」
「そういえば、翔太。 まだ、あの二人は帰ってきてないのか?」
「そういえば…… トイレにしては少し遅いな……」
「そうか…… 時間も限られてるし、二人にはダリにメッセージを送って任せとくよ」
「すまない……」
レンは手のひらサイズの水晶を取り出し魔力を込めると、淡い光が漏れる。
「ダリ、レンだ。 少し頼みたいことがあって連絡させてもらった。 実は翔太と共に行動していたグレイヴとアリアがまだ帰ってきていないんだ。 僕達は魔晶石の破壊をしなければならないから探してくれないかい?」
レンは喋り終わると一息つく。
そして、すぐに返信が来たようで水晶が光る。
「これで大丈夫だよ。 さて、僕達もやることを早めに終わらしてダリ達と一緒に探そう」
「すまないな、レン。 ありがとう」
「これくらい普通だよ。 それじゃあ僕を含めた四人でこれから潜入する。 準備はいいね?」
三人とも頭を縦に振る。
「よし、じゃあついてきて」
勇者達はそれに従い、静かにについていく。
レンが言っていた秘密の通路というものは一分程歩いた道にあった。
それは上に続く階段であり、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。
「…… これが通路なの?」
「ああ、そうだよ」
「よくこんな状態だったのに見つからなかったな」
その階段は普通にそのままの状態で、ここを誰かが通ればすぐ見つかるようなものだった。
「ここには滅多に人が見たら来ないからね」
レンが階段を上がり始める。
勇者達はそれに続く。
「どうして、人が滅多に来ないのかしら?」
ふと疑問に思ったのか真里亞が呟く。
「それはある噂があるからだよ」
「噂ですか?」
「うん、この場所には幽霊が住み着いていて、来た人を攫っていくというね」
「待ってくれ! それヤバくないか!」
レンは驚いてる翔太に微笑みかける。
「大丈夫だよ、噂は噂だから。 現に僕は何回もここを訪れてるけど、何もなかったよ」
そんな話をしながら階段を上っていき、行き止まりにぶつかる。
レンはその行き止まりを押し上げる。
すると、少しずつ動き始めた。
「ここが秘密の通路なのね」
「そうさ…… ここが…… 秘密の通路…… さ!」
レンは最後まで押し上げ外に出る。
勇者達もそれに続いて出ると、その先には巨大な魔晶石が置いてあったあの場所だった。
「ここって……」
真里亞が驚くのも無理はない。
何故なら、レンからはこの部屋に続いてると聞かされてなかったからである。
勇者達が振り返るとレンが開けた蓋を閉めてるところだった。
「レンさん、別に閉めなくていいんじゃないですか?」
圭太がそう問うと、レンはゆっくりと口を開く。
「そうはいかないさ、ここから逃げられる可能性があるからね」
「…… え?」
圭太はその言葉に驚く。
一体何を言っているんだと。
他の二人も同じようであった。
レンはそんな勇者達を見つめながら口を開く。
「ここまで来ればバラしたとしても大丈夫だね。 さて、聞きたいことがあったら答えてあげるよ」
そうしてあっさりと最も信頼している者に裏切られたのであった。
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