第48話 始動

 ゼフは学園長室の前に到着すると三回ノックをする。

 すると、中から入るように促す声が聞こえたので扉を開ける。

 そこには学園長が難しい顔をして座っていた。


「なんだゼフ君か。 今日は一体どうしたんだね?」

「すまないが挨拶をしている暇はない。 緊急事態だ」


 ゼフがそう言うと学園長の表情がより一層険しくなる。


「一体何があったんだね?」

「俺の生徒のアヴローラが亡くなった」

「それは本当か? 詳しく教えてくれないか?」


 ゼフは軽く頷くと話し始める。


「事の始まりは俺を監視していた者達を捕らえたんだが、そいつらをアヴローラが何の情が湧いたか分からんが連れて帰えったんだ。 奴らは動けないほど傷を負っていたから大丈夫だと思ったが……」

「それで殺されたというわけだね?」


 学園長はわずかに声が震えてるような気がしたが、特に気にすることなく答える。


「そうだ」

「この学園では強くなる上で切り捨てられる命もある。 生徒達はそれを承知の上で来ているはずだ」

「だが、実際に起こってしまうとそうは言ってられないだろう。 特に生徒達の精神面などが心配だ」


 そう言うと学園長はこちらを睨み話し始める。


「元はと言えば君の判断ミスではないのかね?」

「そうだ、俺の判断ミスであることは重々承知している」

「こちらの対応としては君を今すぐに辞めさすことも考えなければならない」


 ゼフは予測はしていたことを言われ、すぐに返答する。


「それは仕方ないことだ。 俺はそれほどのミスをしてしまったのだから」

「非常に残念だよ。 君はレンからも推薦されていた冒険者だったからね」


 学園長は引き出しから束になっている紙を取り出す。


「そうか…… レンがそんなことをしていたとはな。  それに俺も非常に残念だ。 あの事に絡んでいるのだからな」


 ゼフがそう言うと学園長の動きが止まる。

 この男は何を言っているのだと顔を上げると、ゼフは笑みを浮かべていた。


「 何を言っているか分からないな」


 学園長はとぼける態度を示す。

 これはゼフにとって賭けであったが、学園長の態度を見る限りほぼ間違いはないと確信を得る。

 こういう状況には慣れていないのだろう。


「奴らを送ったのはお前だろ?」

「…… 何を根拠にそんなことを言っている」

「奴らはお前に雇われ、そして俺を監視するように命令されたと言っていたぞ」

「もしかするとそれは嘘かもしれんぞ?」


 学園長にそう言われるとゼフはため息をつく。

「なるほど…… あくまでも知らないふりか。 それならこっちも考えがある」


 ゼフは収納魔法のポルックスを使いあるものを取り出す。

 それには布が覆いかぶさっており学園長には何か分からないようになっていた。


「これが何か分かるか?」

「分かるわけないだろ。 それよりもなんだその魔法は?」


 学園長はゼフが持っているものよりも、ゼフが使った自分が見たことがない魔法に興味が持っていかれる。

 ゼフはそれを無視して話を続ける。


「俺が質問してるんだ。 きちんと考えた方がお前のためだ」


 学園長はそれを言われると嫌な予感がし、少し考える。

 だが、それが何か分からない。


「ヒントをやろう。 お前が今一番大切にしてるものだ」


 学園長はそう言われ思いつくが分からない。

 何故なら彼の大切なものといえば思いつくだけでも二桁はあるからだ。


「一体それは何と言うのだ……」


 学園長は無意識に考えてしまう。

 今自分が最も失いたくないものを。

 そして、この男を排除する方法を。


「お前が思いついてるのは大方あってるいる。 それよりもあんな物がお前の中で命に代えても守りたいものとはな」


 ゼフは学園長に笑いかける。

 それは今の学園長からしたら悪魔の笑みにも聞こえた。


「まさか…… お前!」


 学園長はよろめきながら立ち上がりゼフに近づいてくる。


「そうか…… 残念だよ。 他人は簡単に殺すことができても大切な人は殺せないか。 人間を捨てきれてない。 だから、お前達はすぐにボロを出す」


 ゼフはそう言い布を取るとそこには顔があった。

 年齢は七、八歳程の男の子の生首であり、その表情は苦痛を訴えてるようにも見えた。


「そんな…… わしの…… この世で…… 最も大切な孫を…… なぜだ。 なぜだあああぁぁぁ!!!」


 学園長は泣き叫び地に膝をつく。

 まさかここまでの反応を示すとはと少し驚くがそれは最初だけである。

 そして、ゼフは学園長の耳元で囁く。


「守るものがあるというのは明確な弱点になる。 お前の敗因は大切な物を作ってしまった事だ」


 ゼフは満面の笑みを浮かべながら立ち上がる。

 学園長の孫の情報はゼフを監視していたものの中からパラサイトを寄生させ聞き出したのだ。

 それ程までに信頼していた者達だったのだろう。


「ロニー…… わしの…… 大切な…… ロニー」


 学園長はうつむきながらブツブツと喋っている。

 どうやら思った以上に精神的ショックがでかいようだ。


「来い、パラサイト」


 ゼフがそう言うと小さな魔法陣が出現して割れる。

 すると、そこには一体のパラサイトが出現する。


「寄生しろ」


 パラサイトは命令通りに学園長に寄生していく。

 数秒後、寄生された学園長は何事もなかったように立ち上がり待機する。


「念のために防音の魔法をかけておいて良かったな。 さて、ここまでやったんだ。 目的のものを聞かせてもらおうか」


 ゼフは当たりであることを願い、期待を込めて少し興奮気味で問う。


「お前はこの街にあるとされている鉱石の情報を持っているか? 」

「知っている、なんでも聞いてくれ」


 ゼフは自然と笑みがこぼれる。


「そうか、それでは鉱石の名前となぜ隠しているかを教えろ」

「名前は魔晶石、隠している理由としては様々な事に利用できるからだ」

「様々なことだと?」

「そうだ、例えば毎日少量ずつ食べれば飛躍的な魔力の上昇、武器や防具に使えば切れ味や硬度が増す。 そして、何よりその石を使うことで人を洗脳すらもできる」

「洗脳だと? そうか、闘技場であんなことをやれば市民が暴動を起こしてもおかしくないと思っていたが、それはこの街の思想ではなく洗脳によるものか」


 ゼフは洗脳系の魔法を持っていない。

 だから、それが欲しくなる。


「この石の事を知ってる者は他にはいるか?」

「それはわし以外にも10人ほどいる」

「そうか…… それはまたリストにまとめて後日渡してくれ」

「分かった」

「鉱石のことはまた聞きに来る。 それまでその事についてもまとめておけ」

「分かった」


 ゼフはそれを聞くと部屋から出て行く。

 そして、この街でやる事を考え始めるのだった。













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