第47話 それぞれ

 次の日、ゼフは戦闘場に行く途中アヴローラの屋敷が消えて無くなっているのを確認した後、ご満悦な気分でやって来ていた。

 今は生徒達を待っている所である。


(ククク、これで余計な奴がいなくなってやりやすくなった)


 きっと生徒たちがこの事件をきっかけに彼女の事を考えることになるだろう。

 犯人探しが始まるかもしれない。

 だが、そうなる前にある蟲を使い考えを固定させる。

 それには昨日の印象が強烈に効く。

 もしかすると、生徒達が昨日の事で来ないという可能性もあったが、それをする事はないだろう。

 その理由としては召喚士という職業は学園を卒業しないと活かすことができない不遇な職業だからである。

 だから、授業には出なくてはならず、良い成績も維持なければならない。

 なので、どんなに嫌でも来なければならないというのが今の状況である。


(そろそろ鉱石の方も動けるようになるはずだ。 おそらく…… あいつが持ってるだろうな)


 ゼフはそんな事を考えていると、戦闘場の扉がゆっくりと開く。

 視線をそちらに向けると歩夢の姿が目に入り、とぼとぼと中に入ってくる。


「こんにちは…… ゼフ先生」

「やっと来たか…… 次からはもっと早く来い」


 歩夢はゼフに近き、そのまま無言でゼフを凝視する。

 昨日のことが原因なのは明白であった。


「やはり嫌か?」

「え?」

「人を痛めつけたり、殺したりする事だ」


 歩夢は質問の意味を理解すると少し考え答える。


「私は異世界から来たので価値観が違います。 ゼフ先生が言ってるようにもしかしたら正しいことなのかもしれません。 でも…… やっぱり今は無理としかお答えできないです……」


「そうか、たしかに最初は慣れないかもしれない。 だがな、最後には俺に感謝するぐらいには役立ってると思うぞ」

「…… どうですかね」


 歩夢のゼフを疑う目はより一層強くなる。

 そうこうしていると、デニーとカイモンも暗い顔をしながら入ってくる。

 

「どうしたの二人とも? 何かあったの?」


 歩夢が彼等に問うと、カイモンが口を開く。


「やぁ、歩夢…… 実はアヴローラの事で……」

「まだ来てないけどアヴローラがどうしたの?」

「彼女は亡くなったよ……」

「え?」


 歩夢はあまりのことに理解が追いつかない。

 そんな彼女を見ながら、続けてデニーが話し始める。


「僕達が聞いた話では、アヴローラの屋敷が爆発して亡くなったて聞きました」

「爆発か……」


 そこにゼフが考えるふりをしながら口を挟む。


「十中八九昨日の奴らだろな」


 その言葉に歩夢を含む三人は返す言葉もない。

 自分を含めアヴローラのやったことは正しい事だと思っていた。

 だが、結果としてはその優しさによって助けてはいけない者達を助け命を落としてしまったのだ。


「止めるべきだったんでしょうか……」


 カイモンはゼフにその行いが正しかったのかを問う。

 昨日までのカイモンであればゼフを悪と認識してそれ相応の対応をしただろう。

 しかし、こうなった以上誰が間違っており、誰が正しいのかは一目瞭然である。


「そうだ、止めるべきだった。 だが、前のお前達じゃ無理だったろうな。 それに、こうなる前に俺も止めるべきだった……」

「ク……クソッ! どうして彼女が亡くならなければならない! どうして!」


 カイモンが悲痛な思いを叫ぶ。

 他の人達も同じ気持ちだろう。


「僕はゼフ先生が悪いとは思いません。 あの状況じゃあ止めるのは無理だったと思います。 でも…… ゼフ先生はどうしてあんなことをしたんですか?」


 デニーは真剣な眼差しで問いかける。

 そして、歩夢は昨日まで隣にいた友達を殺した奴らを憎んでいた。


(何故悲しくないのだろう…… 何故こんなにも怒りがこみ上げてるのだろう…… 止めれなかった自分が腹立たしい。 どうして彼女が死ななくてはいけなかったの……)


 怒りが高まる歩夢の隣でゼフは口を開く。


「すまないが、俺は帝都から来た冒険者だ。 だから、悪人はああいう扱いをするものだと思っていた。 だけど、それによってこういう状況を作ってしまった。 本当に申し訳ない」


 ゼフは軽く頭を下げる。

 戸惑いながらもカイモンはそれを手で止めるように促す。

 そして、昨日ゼフがやっていたことは正しいかは分からないが今の彼の態度を見て、その言葉を信じてそれ以上何も追求しなかった。


「私は友達が死んだと言うのに悲しいと言う気持ちになりません。 今は怒りがこみ上げてきます。 これは間違っているのでしょうか?」


 唐突な歩夢の問いにゼフは笑いがこみ上げてくるのを抑えて答える。


「それは間違っていない。 大切なものを失った時感じる感情は人によって違うからな。 それにその感情を忘れないことだ」


 三人ともゼフの話を聞き入っているのを確認し、続けて話し始める。


「酷なことを言うかもしれないが、死んだ者は生き帰ってこない。 だが、死んだ者のためにできる事はある」

「できる事ですか?」

「ああ、そうだ。 この場合は悪を殺す事だ。 そのためには強くならなくてはいけない。 俺がその助けをしてやろう。 まずは12日後に控えてる新入生学園大会に勝つことが最低条件だ」

「…… 分かりました、僕はアヴローラのために必ず勝ちます。 そして、奴らを簡単に殺せるような最強の召喚士になって見せます」

「僕もなります!」

「わ、私も…… 少しずつ慣れていって悪を倒す召喚士になります」

「そうか、みんながやる気になってくれて良かった。 ひとまずアヴローラのことを学園長に報告してくる。 それまで自主練だ」


 三人ともそれに頷くと、魔物を召喚して自習練習に入る。

 ゼフは戦闘場を出ると、そのまま学園長室に向かって歩き始める。


(まさかここまで上手くいくとはな……)


 ゼフはそんな事を思いながら歩みを進める。

 この日カイモンは悔しさ、デニーは悲しみ、歩夢は怒りを持ちそれぞれの道を進み始めるのだった。






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