第44話 おもちゃ

 ゼフは学園から出ると街に向かい始める。

 何ら不思議ではない活気ある街並み。

 様々な露店を見ながら改めて勇者の事と鉱石についても考え始めてた。


(勇者はキール達より弱い。 何故それ程までしか力がない者を召喚した? いや、今は情報が足りないな。 特に鉱石についての)


 ゼフはグリンガムからその鉱石が魔族達からすると喉から手が出るほど欲しい代物という事をあらかじめ教えてもらっていた。

 しかし、結果はどうだ。

 全くと言っていいほど情報が出てこない。


(そもそも魔族はそのために戦争をしていたはずだ。  それなのに情報がない。 意味が分からん。 最初はそれほど貴重なものだから表立っていないと考えていたが、流石におかし過ぎる)


 何故魔族達は鉱石のことを知っていて、占領している人間側は全くと言っていいほど知らないのか。

 推察にはなるが理由を考える。


(人間側の誰かが魔族側の誰かに嘘の情報を流していたのかもな。 だが、そんなことをして人間側のメリットはなんだ? それにそれだけで戦争するか?)


 考えれば考えるほど分からなくなる。

 そして、大雑把だが一つの仮説を立てる。


(人間の誰かと魔族の誰かが繋がっており、おそらくこの戦争事態も終わらす気は無いんだな。 そうでなければ既に終わっているだろう。 それでメリットだが…… これに関しては調べなければな)


 自分の妄想の可能性が高い。

 だが、その無いよりはマシだろう。

 ここでゼフは自分が立てた仮説だった場合自分の情報が漏れていることに気づく。

 既にこの街に来ることも魔族側にバレているのだろう。


(そうか、アイドリッヒから魔族と人間は決して友好的な関係は築けないと聞いていたから今まで考えていなかったが、これなら説明がつく)


 ゼフは通りの横に細い道を見つけると、そこを通って狭い路地裏に向かい始める。


(後でグリンガムにそのことについてメッセージを送って魔族達の動向を探るか。 それにこいつらは何か関係ありそうだしな)


 ゼフは路地裏を奥まで進み誰もいないところまで来ると、誰かに話しかけるように振り向きながら語りかける。


「居るのは分かっている。 そろそろ出てきたらどうだ?」


 だが、その声に反応する者は誰もいない。


「なるほど…… 優秀な者達だな。 ここで出てきたら監視している意味はないからな。 それに、ブラフの可能性も考慮しているようだが、無理矢理でも出てきてもらおうか」


 そう言ってゼフは何者かが隠れているとこに向かって魔法を放つ。


「『フラッシュ』」


 それが放たれるや否やゼフを監視していた者の場所が激しく光りだす。

 観念したのかフードを被った男が出てくる。


「いや〜すまないね。 君を監視してるつもりはなかったんだよ。 もう少し行った先に監視対象がいるんだ。 だから、ここは通してくれないかい?」


 男は陽気な声で話すが、ゼフには全て分かっていた。


「そうか、つまりお前は10日前から監視しているのは何かの間違いだと言うのか?」


 そう言うと男は固まり、高らかに笑い始める。


「アハハハハ、そうかそうかバレてたか。 でも、それだから何?」


 男はさっきとは打って変わって冷徹な声で話を続ける。

 確かに男から見ればこの状況は召喚士であるゼフに不利である。

 

「召喚士の君は何ができると言うんだい?」

「そんなの簡単だ。 魔物を召喚すればいい」

「無理だよ」


 そう言うと男は形は球体である水晶のようなものを懐から取り出して見せつけてくる。


「これはね魔法を入れることができる魔道具なんだ。 因みにこれにはマジックバインドという一定範囲に存在する生物の魔法を縛ることができる魔法を入れてある。 今回は召喚魔法を縛らしてもらってるからね」

「そういうことか…… ならそれを壊せばいい話だ」

「ああ、そうだよ。 でも君じゃあ無理だね。 一応言っとくとこの魔道具の効果範囲は100mだから距離を取ろうとしても僕ならすぐに近づけるからね」


 男はゼフを見て笑う。

 確かにゼフは闘技場で圧倒的な力で勝った強者かもしれない。

 だが、それは召喚魔法があっての話だと男は思い込んでいた。

 だからこそこのような幼稚な戦法を使っているのだ。


(学園長には監視を続けて隙を見て殺せと言われていたが、別にいいだろう。 本当にこの男はバカだな〜何も対策せずに闘技場で優勝する化け物に挑むはずはないだろう)


 男は勝ちを確信していたが、ゼフは動こうともせずに妙に冷静である。

 そして、次の瞬間ゼフの口から思いもよらない言葉が飛び出した。


「11か…… 監視としては意外に多いな」

「なんだと?」


 男はそう言った瞬間、何かに身体をガッチリと掴まれる感覚に襲われる。

 気づいた時には既に遅く抜け出すことができない。

 そして、男は後ろに顔を向けそれが何かを認識した時驚愕する。


「どういうことだ! 何故召喚できる!」

「ククク、簡単な話だ。 お前が対策をしていたように俺も対策をしていたということだ。 透明化の魔法でずっと俺の側を待機させていた」

「なんだと⁉︎ 嘘をつくな! それだと魔力が持たないはずだ!」

「俺は他の召喚士とは違うんだよ。 召喚した魔物は俺の意思で戻すことができない代わりに維持魔力は0だからな」

「なんだと……」


 その言葉を聞き闘技場で召喚した巨大な魔物を思い出し恐怖する。

 そして、すぐに近くにいる仲間のことを考える。


(仲間がいることはバレてないはずだ…… 逃げてくれさえすればこのことを報告できる)


 だが、次の瞬間男の思いは虚しく砕かれる。

 暗闇からアイアンGが計10体、人間を掴んでこちらに近づいてきたのだ。


「これで明日の授業で使うおもちゃは手に入ったな。 お前らには感謝するぞ」


 そう言うとゼフはアイアンG達と人間達に透明化と防音の魔法をかけた後、それらを引き連れてシルヴィアの待つ宿屋へ帰るのだった。

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