第43話 能力

 ゼフはまずこの世界のやり方に習って生徒達に今召喚できる一番強い魔物を召喚させた。

 しかし、召喚された魔物は予想以上に弱かった。

 ゼフはそれを見て呟く。


「なるほど…… カイモンはウルフ、デニーはハイスライム、アヴローラはフレアバード、歩夢はリトルドラゴンか……」


 ゼフは他の三人はともかく勇者はもう少しマシな魔物を召喚できると思っていた。

 改めて召喚士が不遇職である事とこの世界のレベルの低さを実感する。

 そして、生徒達はお互いの魔物を褒めあい、特に勇者の召喚した魔物にはより一層褒められていた。


「皆んなすごいな、僕なんかただのウルフなのに上位の魔物を召喚できるなんて」

「あら、カイモンのウルフも使い方によっては強くなるはずよ、私もウルフを召喚できるようになりたいわ」

「歩夢さんすごいね。 ドラゴンを召喚できるなんて」

「そうかな? みんなの魔物も強そうだよ」

「でも、歩夢のドラゴンがこの中では一番強いわね」

「ドラゴンを召喚できるなんてすごいよ、それにドラゴンを召喚できるんだから他の種族もきっと召喚できる筈だよ」

「えへへ、みんなありがとう」


 ゼフはその光景を見て虫唾が走る。

 不遇職、どうやらそれだけではないようだ。

 何事にも負けたくないという向上心、自分が最強という傲慢さ、そして自己分析力。

 全てが欠けている。

 もしかしたらこの世界の召喚士の認識によって引き起こされるのかもしれないが、それでもあまりにも酷すぎる。

 ゼフはそんな事を考えながら、生徒達の話の中の気になる点を見つけたので口を開く。


「残念だが、ドラゴンが強いというのは昔の話だ。 今は種族関係なしに一定の化け物はいる」

「そうなのですか? それよりもどうですか私達の魔物は」

「この際だからはっきり言うが、そんな雑魚じゃ話にならない」

「「「「えっ……」」」」


 生徒達はゼフにはっきりと言われ、ショックで固まる。

 確かにデスワームと比べれば弱いだろう。

 だが、十分戦える魔物の筈だ。

 ゼフはそんな事を考えを押し除けるように話を続ける。


「それに今の会話から何故召喚士が不遇な職になっているかだいたい見当がついた。 お前ら召喚できる魔物の種類はどれくらいだ?」


 その質問にショックを受けている生徒達を代表して自信満々にアヴローラが口を開く。


「私は計五種類の魔物を召喚できますわ」

「…… 他の奴もそうか?」


 デニーとカイモンはそれに頷く。

 歩夢だけは何が何だか分からないのか、その場で固まっている。

 それを聞いたゼフは頭を抱えながら重い口を開く。


「種類は一つに絞れ」


 ゼフから放たれたその言葉は生徒達にとって衝撃的なものだった。

 この世界では召喚士は魔物のの弱点を補うために複数の種類を持つことが一般となっている。

 だが、ゼフはそれを全て否定したのだ。

 アヴローラはその疑問を解消するべく質問する。


「ゼフ先生、 そんな事をすれば弱点を補えなくなるじゃないのですか?」

「それに関しては問題ない。 言っても分からないないだろう。 自分でやって実感した方が早い」


 そう言われアヴローラ達は渋々了承すと、ゼフに言われそれぞれどの種類にするのかを考え始めた。

 そして、全員が決めたと思ったところでゼフは口を開く。


「そろそろ決まったか?」


 全員が首を縦に振り頷く。

 ゼフはデニーを見据える。


「まずはデニーから教えてくれ」

「僕は種族を水精にしました」


 それに続いて他の生徒達も答え始める。


「僕は獣を選択させてもらったよ」

「私は一番使う鳥を選びましたわ」

「私は…… ドラゴンを選びました」

「なるほど…… とりあえずは最初の種族選択は合格というところだな。 ちなみに一種類に絞ったからって今すぐに効果は出ないから勘違いはするなよ?」

「ゼフ先生、合格というのはどのような基準で行ってるのですか?」


 カイモンがゼフに質問すると少し笑いながら答える。


「簡単な話だ、自分の今召喚できる最強の魔物の種類を選んだら合格、選ばなければ不合格というわけだ」

「理解しました…… ありがとうございます」


 カイモンはお礼を言うと下がる。


「他に質問がある奴はいないか?」


 誰も質問することがないと分かるとゼフは次のステップに進むため話を続ける。


「さて、次にお前らにやってもらうのは自分の限界まで魔物を召喚しそれを維持するだけでいい」

「それは一体何の特訓なのよ」

「これは基本魔力向上の訓練だ。 お前らを見る限りかなり魔力が少ないようだったからな」


 生徒達は召喚士にとっての魔力の大切さを理解している。

 だから、首を縦に振るだけだった。

 一人を除いては……。


「そんなに魔力って召喚士に重要なの?」


 ゼフは歩夢からの予想外の発言に少し戸惑うが落ち着き冷静に返答する。


「かなり重要だ、魔力は無くなれば召喚士は何もできないからな」

「そうなんですね、教えて下さりありがとうございます」


 歩夢が本当に理解しているか分からないので、少し言葉を添える。


「もし、わからないことがあればまた聞きに来たらいい。 俺は毎日この時間にここにいるからな」


 生徒達がそれを聞き頷くのを確認すると、再び話し始める。


「今日は少し早いがこれで終わりにする。 帰る時に魔物を最大限に召喚してどれくらい維持できたかを明日報告するのを宿題とする。 では、解散」


 そう言うと生徒達は立ち上がり魔物を召喚しお礼を言って戦闘場から出て行く。

 ゼフも生徒達が出て行ったのを確認した後、立ち上がり明日授業で使うものの準備に取り掛かり始めた。







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