第45話 召喚士
葛木 歩夢はある日突然異世界に召喚された。
理由は人類を脅かしている魔王を倒して欲しいという事だった。
最初はは五人だったが、いつの間にか一人いなくなっており今に至る。
そして、歩夢は召喚士というだけでこの世界の人達からゴミを見るような目で向けられているのを現在まで耐え続けていた。
一般人ならともかく膨大な魔力を使ってわざわざ異世界から召喚した勇者な一人が召喚士というのは期待はずれもいいとこらしい。
他の人達はそれを気にすることなく召喚される前と同じように接してくれてるがこの世界の人達は違う。
特に皇帝は歩夢に対しても人当たりのいい老人に見えるが内心は何を考えてるか分からなかった。
だが、それでも今を乗り越えようと足掻いているのだ。
(どんな酷い扱いをされても…… 私は私のできる事をするだけ)
そう心に決意を固める。
「歩夢!」
そんなことを考えていると後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
振り向くとそこには一緒の職業である金髪が特徴的な女性が笑顔でこちらに手を振っていた。
「アヴローラ!」
「今向かうとこ?」
「そうよ」
「だったら一緒に行きましょ」
アヴローラはそう言うと歩夢の隣を歩き始める。
「そういえば歩夢、ゼフ先生が出した宿題はどうだった?」
「勿論やったよ、すごいか分からないけど…… 一応12分ぐらい持ったと思う」
アヴローラはその言葉に驚く。
「貴方やっぱり勇者ね。 私は七分よ」
「でも…… こんな事で本当に魔力が上がるのかな? それにゼフ先生の言ってた人間の殺し方ってどういうのかな? できればやりたくないけど、この世界じゃ仕方ないよね……」
歩夢は不安をつい口に出してしまう。
それにアヴローラは答える。
「それは分からないわ。 でもね…… 私は強くなるためならなんだってするわ。 歩夢、貴方すらも超えてね」
「そうだよね…… 今は気にしてちゃダメだよね。 それに、アヴローラが私より強くなるって言うなら私はもっと強くなるわ」
「見てなさい、すぐに追いついて見せるんだから」
歩夢とアヴローラはお互いを見つめて笑う。
この時から二人はお互いを高めるためのライバルだと認識する。
(召喚士には召喚士の強くなる方法がある。 そして、召喚士のすごさをいつかは世界中に広めたいな)
歩夢はこの世界でやりたいことを考える。
そして、昨夜勇者四人で集まって話し合った計画が頭の隅に浮かぶ。
(圭太はこの街を変えるには四人じゃ足りないから出来るだけ信頼できる仲間をあつめて欲しいって言ってたな…… でも、どうしてゼフ先生だけはダメなんだろう……)
勇者達四人はこの街の異常性に気づき、それの原因が誰かなのかを突き止めていた。
しかし、勇者達にはその者達に対抗する力も数もいない。
だから、力をつけると共に人数を集めようと考えていたのだ。
だが、歩夢がゼフを推薦したところ圭太に却下されてしまったのだ。
(圭太には却下されたけど…… もしもゼフ先生が仲間になったら心強いな。 仲間に誘うかどうかはこれから見極めていけばいいよね)
歩夢はそう判断する。
やがて戦闘場が見えてくる。
だが、何か様子がおかしい。
それは何故か。
理由は扉の前でデニーとカイモンが扉に耳を当てながら立っていたからである。
「貴方達…… 何してるのよ」
アヴローラがそう問うとカイモンが不意を突かれたのか慌てる。
そして、落ち着くと答え始める。
「中から人の呻き声のようなものが聞こえるんだ」
「…… どういうこと?」
「分からない…… けどもしもの時の為にアヴローラと歩夢を待っていたんだ」
カイモンはたとえ学園内の施設だとしても人の呻き声が聞こえる場所は危険と踏んで歩夢達を待つことにしたようだ。
おそらく大丈夫だろうが。
その判断は正しい。
「ここに居ても仕方ないわ。 さっさと入りましょう」
アヴローラのその言葉にみんな頷くが誰も動こうとしない。
「何してるのよ、はやく行きなさいよ」
「いや、すまないがここは誰がこの扉を開けるか決めないかい?」
「はぁ〜、貴方ね…… 男の癖にビビってるなんて情けないわね。 私が行くわ」
そう言うとアヴローラは勢いよく扉を開けて中に入る。
他の者達もそれに続いて入っていき、最後に歩夢が入る。
しかし、何故か他の者達が顔を青くしながら固まっている。
その視線の先を見るとなんとゼフがいた。
「やっと来たか。 次からはもっとはやく来い、時間は無限じゃないのだからな」
歩夢は話しているゼフの後ろのものに気づき皆んなと同様顔を青くする。
そこには10人あまりの人達が呻き声を上げながら丸太のような木に縛られていた。
「どうしたお前らそんなに顔を青くして。 何か恐ろしいものでも見たのか?」
ゼフは不敵に笑いながら問いかける。
(異世界から来た歩夢はともかく、他の者の反応を見る限り積極的に自らの手で人間を殺すことを嫌ってるようだな。 つまり、この街の住人は殺しあってるのを見るのが好きなだけで自ら殺すのは聖都や王都の者達と同じ感性のようだな)
ゼフは生徒達の反応を見てそう推測していると、アヴローラが前に出て口を開く。
「これはどういう事よ! ゼフ先生答えて!」
「勘違いするな、別に無実の人達を連れてきたわけではない。 こいつらは人を殺すことを平気でする悪人だ」
「それでも! 見るかにボロボロじゃない! そこまでする必要はあるの!」
縛られたもの達は見てわかるほど顔は腫れ、傷があらゆる所に見受けられた。
だが、ゼフにとってはそんな事関係ない。
死ななければいいのだから。
「当たり前だ、こいつらは授業で使うんだ。 ここで心を折っておかなくてはならないからな」
正直なところこれにはそんな意味はない。
これは生徒達に恐怖を植え付けることでこれからの行動をやりやすくするのと、生贄を決める判断材料にするためだった。
「たとえそうだとしても…… 貴方、おかしいわ!」
「そうだな…… だが、こんな奴の教えでも受けるんだろ?」
「そうよ! でも、この人達は殺させはしないわ!」
どうやらアヴローラはこの街の洗脳を受けてない側らしい。
という事は自ら殺すというのも当てはまらない。
意外に面倒な作業である。
とは言っても、こういう奴は非常に面倒である。
殺るならアヴローラだろう。
「とにかく! この人達の拘束を解いて!」
アヴローラは戦闘場に響くほど大きな声で叫ぶ。
今の彼女には自分の感覚を信じているのだ。
経験が浅いからこそ例え大悪党でも傷ついてる者は善人に見えるのだろう。
ゼフが全員分縛っていた者達の紐を解き終わると隅に運んで寝かせる。
「この人達は私の家に連れて行くわ、問題ないわね?」
「ああ、問題ない」
恐らくアヴローラはこの後何が起こるか分からない。
だが、後悔は無かった。
そして、その日は悪い空気のまま授業が始まり、その後何事もなく終わりを迎えたのだった。
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