第38話 違和感
ゼフは待合室に続く通路を歩きながら考える。
最初はただの疑惑に過ぎなかった。
だが、この試合でそれは確信に変わった
(間違いない…… この街は他の街と違い殺しに積極的だし、こんな狂った事を普通と思っている節がある)
ゼフは予選で試合を見ている子供や大人、老人など様々な人観察していたが、全員が全員殺されるのを見て喜んでいた。
そして、ヴァルムとの試合で皇帝が笑っているのを見て確信を得た。
自分が言うのもなんだが、この街は他の街とは違うと。
狂っていると。
勿論、自分の価値観がおかしいだけかもしれないが、それは今まで見てきた街からして無いだろう。
( ここは殺し合いをする場か。 いや、処刑場だな)
ゼフはそれに鼻で笑う。
現状は鉱石の事もあり、派手に動くことはできない。
更に付け加えるなら殺しを娯楽にしている何かがきっとあるはずだ。
それを探し出す必要がある。
ゼフは大変だなと、笑いながら通路を進む。
そして、待合室に着くとゆっくりと扉を開ける。
部屋にはゴンズと数名が待機しておりこちらに視線を移す。
「…… 生きてるってことはヴァルムに勝ったんだな?」
「当たり前だ」
「お前やるじゃねぇか」
ゴンズは立ち上がり肩に手を回し嬉しそうに言う。
そして、肩から手を離すと真剣な表情で話し始めた。
「それで…… ヴァルムは殺したのか?」
「こちらにも余裕がなかった。 殺らなければ殺られていた」
「そうか…… まぁこの闘技場で戦うということは奴も覚悟していた筈だ。 ここはそういう場所だからな」
「仲は良かったのか?」
「一応昔からのライバルではあったな」
「そうか…… そういえばお前はここの事を知ってる素振りだがどういうことだ」
ゴンズはゼフを見極めるかのようにこちらを見てくる。
数秒後、良いと判断したのかゆっくり口を開く。
「俺はゼフ…… お前を信じて話すが、ここにいる者達は望んでこの戦いに出てるわけではない」
「どういうことだ?」
ゼフにとってはそれが嘘か本当かなど、どうでも良かった。
何故なら例え嘘だとしてもこちらに被害はないからだ。
ゼフは詳しく聞くためにゴンズの声に集中する。
「俺達は皇帝の命令で無理矢理戦わさせられている。 そして、逆らったら場合は大事な人を殺される手筈になっている」
「そういうことか…… たが、殺さないように戦えばいいんじゃないか?」
「それは無理な話なんだ。 俺達は相手を殺して客を楽しませなければならないというルールに基づいて戦っている。 一昨年はヴァルムが優勝し、去年は俺が優勝した」
「さっきの楽しそうな雰囲気も演技だと?」
「そうだ、最初はお前は俺達を偵察しに来てる皇帝の使いだと思ったが、そうは思えなくてな」
「これで使いだとしたらどうするつもりだ?」
「…… この戦いに出る以上嫌でも優勝を決めなければならないからどっちみち一緒だ。 そして、ここにいる者達が同じ状況なら最後は一人になる」
「俺も躊躇なく殺すというのか?」
「最初は人を殺すことに抵抗があったが、今は大事なものを守るためなら悪魔にでもなるつもりだ」
「俺がお前の事情を聞いたところで加減はするつもりはない」
「ああ、だがそのセリフは決勝に上がってから言うべきだな」
「最後に聞きたいのだが、ここの市民も狂っているのか?」
「ああ、残念ながら殆どがそうだ」
最も有力なのは皇帝を筆頭にその考えが市民達にも伝染していき街自体が狂っていったというもの。
それが一番楽で効果的だろう。
いや、そもそもこの街の市民は元の世界のように魔法に対する対策はあるのか?
今までの経験からおそらく無いだろう。
だったら他の手段もあるかもしれない。
いや、今は情報が足りない。
「それにしても、ここにいる間は他の者達の戦いを見ることができないのは非常に残念だな」
「そういうルールだから仕方ない」
そこからは何気ない会話が進んでいく。
ゴンズの大事な人のこと、この街の状況、皇帝について知ってる限り教えてもらった。
そして、時間が進み二回戦、三回戦が終わりとうとう出場者も四人になってしまった。
ゼフの番が来ると同じように呼ばれ、同じ場所に待機する。
(未だに理解できないな。 殺しが普通の世界ならともかく、それが禁止されている世界だ。 こんな危険なことやる必要はないだろ)
それをやる意図が分からないが、ゼフはゴンズの話を聞いてるな中で一つ思い出したことがあった。
(そもそも…… そんな訳ありの奴らが集まる戦いに何故俺が出れたんだ?)
ゼフは考えを巡らせ、試行錯誤を繰り返し一つの考えが浮かんでくる。
(ギルドマスターは俺が邪魔だからこの戦いで排除しようとしてる? 一体何故だ?)
ゼフは考えるに連れて更なる疑問が浮かんでくる。
(だが、もしも皇帝に繋がったとしても俺がこの戦いに出ない可能性もあった。 それに、俺は街に来たばかりだ……)
ゼフはそこまで考え頭を振る。
おそらくこの事は単なる個人で出来ることではないのは明白である。
しかし、今は試合に集中することにする。
(俺の考えすぎの可能性もある。 結論は情報を集めた後でいい。 今はこの戦いを楽しむとするか)
勿論、ゼフは襲われても負ける気はしないし、周りには透明化した蟲の護衛を最低二体配置している。
だから、問題ないはずである。
そんな事を考えてるうちに扉が開きゼフは外に出る。
今回の対戦相手は口下を布で隠している。
そして、背には弓を背負っている事から弓士のようだ。
ゼフは弓士に向かって言葉を放つ。
「悔いなき戦いにしよう」
「貴方がさっきゴンズと話しているのを聞いてたわ。 よくそれを聞いてそんなことが言えるわね」
ゼフが男性だと思った弓士は女性だったことに驚くが、今は頭の中でいろいろ考えてるからか遊ぶ余裕ない。
勿論楽しむが。
「そうだな…… 確かに悔いなき戦いは厳しいな」
そう言うとゼフは悪魔のような笑みを弓士に向ける。
弓士はそれを見て少し後ずさる。
「では、後悔して死ね」
そう言った瞬間、弓士は距離を取りながら弓矢を放とうとする。
その動きは弓を扱うものの出だしとして完璧だった。
しかし、そんな行動を嘲笑うかのように操蟲が弓士の首を跳ね飛ばす。
弓士の身体は勢いよく倒れ、血溜まりができる。
「時間にして三秒か…… 思ったよりもかかったな」
観客はまさか腰から蟲が出るとは思わず静まり返る。
ゼフはその光景を見ながら待合室に帰って行った。
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