第39話 終幕
ゼフは待合室向かう途中にゴンズとすれ違った。
おそらく次の試合までの待機を命じられたのだろう。
特に言葉を交わすことなく部屋戻る。
中にはあれだけいた人は誰一人とおらず静寂に包まれていた。
ゼフは空いている椅子に座ると考える。
(次が最後の戦いか……)
特に思い入れはない戦いであったが、教師という立場でどのように過ごしていくべきかを考える。
誰もいない静かな待合室、その時間は今までのどの時間よりも苦痛に感じ、ゴンズが暇つぶしに役立っていたのを身にしみる。
(今までゴンズが休むことなく話していたから暇をせずに済んだが、今はいない。 暇だ……)
ゼフが退屈を凌ぐことを考えては実行するということを10分ほど繰り返したところで扉が開かれる。
そこに目をやると傷ついたゴンズが立っており、こちらを見つめていた。
「ゼフ…… これでお前と戦えるな」
「そんなボロボロで何を言ってる」
「気遣いは…… いらねぇぜ」
ゴンズはそのまま隣に座るが、いつものような会話はない。
ゼフは試合まで少しは退屈を凌げると思っていたが、暇な時間は終わらなかった。
隣のゴンズを見ると真剣な表情で何かを考えている。
恐らくさっきまで話していた相手であってもゴンズは何が何でも殺そうとして来るだろう。
ゼフは一回殺されたぐらいでは、この世界の魔法技術では完全に殺すことはできない事は実証済みである。
「俺は勝つぞ、例えそれがさっきまで話していた相手でもな」
ゴンズは真剣な表情でゼフに話しかける。
ゼフはそれを聞き少し笑いながら口を開く。
「俺もこの戦いを勝たなければならない理由がある」
それを言ったと瞬間、扉が開かれて名前を呼ばれる。
ゴンズとゼフは同時に立ち上がり待合室から出ると、そのまま二人は言葉を交わすことなくいつもの待機場所へと向かった。
(これが最後の戦いか…… 最後はどうやって殺そうか)
ゼフはワクワクしながら殺し方を考える。
今までも面白かったが、ここは少しアレンジを加えるべきだろう。
そんなことを考えていると待機場所に到着する。
最後の試合だからだろうか、ここからでも歓声が聞こえる。
この後の事を考えると少し憂鬱だが、自分が最強であるという証明と蟲達の平和の為だ。
その程度造作もない。
そして、いつものように扉が開くと、ゼフはゆっくりと外に出る。
観客達はうるさいほどの歓声が響かせている。
そして、視線を目の前にやるとゴンズがこちらを見据えていた。
「ゼフ、俺はさっきも言った通り大事なもののためにお前を殺す!」
「俺もそのつもりだ。 殺る前に一つ教えてほしい、お前の大切なものはなんだ?」
ゴンズは少し悩みながらも、おそらく最後になるだろうゼフのためにその問いに答えるべく口を開く。
「俺は将来を誓いあった女性がいた。 その女性と結婚して俺はSSランク冒険者になったんだが、これからって時にあいつらは……」
ゴンズは必死に感情を押さえ込む。
その表情からは怒りが感じられた。
「つまり、その女性がお前の守るべきものというわけか」
「ああ、そうだ。 俺からも問おう。 ゼフ、お前は何故戦う?」
「確かにに言ってなかったな。 まぁ、お前なら別に言っていいだろう。 俺は俺達が安全に暮らせる世界を望んでいる。 だから、そのために世界を征服する。 これは通過点だ」
「支配か…… そうか、どうせならお前に支配されたかったな」
ゴンズはそう言うと巨大な斧を構える。
どうやらゴンズはこの言葉をいいように捉えており善人だと勘違いしたらしい。
しかし、次の言葉を聞いた瞬間考えが変わる。
「安心しろ、この街を支配した暁にはお前の大切なものをお前の同じ場所に送ってやる」
この言葉の意味することはゴンズが大切にしているものを殺すという意味だった。
それをいち早く理解したゴンズは自分が今まで勘違いしていたことに気づき、殺意を露わにする。
「今の言葉は撤回だ。 俺はお前の事を勘違いしていたようだ。 ここでお前に勝って全てを守る」
そして次の瞬間、ゴンズは勢いよく飛び出す。
巨大な斧を持っているとは思えない速度。
ゼフに近付いたゴンズはその斧を大きく振りかぶる。
しかし、その攻撃はゼフには届く事は無く、腰から飛び出した操蟲によって弾かれる。
ゴンズはそれを見て一度後退し様子を伺う。
「弱いな…… 少し警戒していたがこの程度か」
ゼフは警戒する必要が無くなったのか、操蟲をゴンズのめがけて飛ばす。
ゴンズはそれを避けようとするが避けきれず膝を操蟲の牙が貫く
「ぐわぁ!」
ゴンズは膝に激痛が走ると同時にバランスを崩して倒れる。
すぐに起き上がろうとするが、ゼフはその隙を見逃さないように追撃をかける。
最初は右腕、次は左腕、そして右足と。
その間にゴンズの悲鳴が鳴り響き、血が散乱する。
「どうした? 守りたいものがあるんじゃないのか? 所詮はその程度ということか、ゴンズ」
ゴンズは痛みに耐えながらも最後の力を振り絞って口を開く。
「クソッタレが…… お前は人間じゃねぇ…… お前のような…… 奴に…… 支配されるようなら…… 死んだ方が……ましだ…… この化け物」
ゴンズの頬に涙がこぼれる。
これは大切なものをもう守ることができない自分の弱さ悔いた涙なのか?
それとも後悔の涙なのか?
それは分からない。
しかし、ゼフはそんなことは関係ないと言わんばかりに呟く。
「これで終わりだ」
ゼフは操蟲に命令した瞬間、ゴンズの首が宙に舞う。
そして、首から血が噴水のように飛散する。
やがて観客からは遅れて今までで一番と言っていい歓声が響く。
「やっと終わったか…… 意外と疲れたな」
ゼフは最後にそれだけを言い残すと戻っていく。
特にその後は何もなく、観客達は最後の戦いを見終わったことで少しずつ数を減らしていく。
ゼフはそのままレンとシルヴィアの元へ向かう。
今度は迷うことなく戻ることができ、レンは笑顔で語りかけてくる。
「いや〜お疲れ。 ゼフ、やっぱり強いね」
「俺もギリギリだった」
「謙遜しなくていいよ。 さて、とりあえず終わったということでここで解散するのもアリだけど、どうする?」
「そうさせてもらおう、今日は疲れた」
「了解、それじゃあ次は一週間後の九時に学園集合でいいかい?」
「ああ、それで構わない」
「それじゃあまた」
その後、レンの後ろ姿を見届けると、ゼフ達は宿屋を探しに行くのだった。
多くの謎を抱えて……
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