第37話 戦い
ゼフの目の前には大きな柵の扉が佇んでいる。
これが開かれたと同時に戦いを始めていいが、大抵の出場者は最後かもしれないということで少し話をしてから始めるらしい。
つまり、俺はヴァルムと話すことになるだろう。
そんなことを考えていると、やがて扉開かれる。
それを確認したゼフはゆっくりと歩みを進める。
そして、ゼフが出たと同時に観客席から凄まじい程の歓声が押し寄せる。
あまりの迫力に少し驚くが、流石は各職業のトップ同士が戦う試合だろうと思う。
「人がかなり増えてるな……」
そんな事を呟き前を向く、とヴァルムがこちらに少しずつ詰めて来ていた。
ゼフも同じように距離を詰め近づくと両者足を止める。
「何故お前のような奴がこの戦いに参加しようとしたのか分からんが、俺はお前みたいな召喚士の弱さを認めずに場違いな場所にいる奴が嫌いだ」
「そうか、確かに召喚士は弱いかもな。 だが、俺はこの世界では例えどんな奴が来ようとも負けないだろうな」
「お前、何を言って……」
「剣を取れ、少しは足掻けよ」
「てめぇ…… あまり調子に乗るなよ」
ヴァルムは両手にそれぞれ剣を持ち構える。
ゼフはそれを見て笑う。
「さて、始めようか」
「ああ、だがお前には一分やる。 これはハンデだ、ありがたく思え」
「そうだったな…… だが、後悔しても知らんぞ?」
ゼフはそう言うと詠唱を始める。
しかし、そこに魔法陣は現れない。
「無詠唱か、少しはやるようだな」
「無詠唱か…… この世界の奴らの認識では魔法陣が現れないと無詠唱になるらしいな。 だが、残念ながら俺はできない。 そして、今から召喚する魔物の召喚に使う時間は丁度一分という事だけ伝えてやろう」
「そうかよ、せいぜい俺を失望させるなよ」
そんなことをしてるうちに一分が経ち、虫を召喚することに成功する。
歓声の中それを伝えるためにゆっくりと口を開く。
「さて、召喚既に終えた。 さぁ、やろうか」
「てめぇ…… なめてんのか? お前が召喚した魔物はどこにいやがる」
「安心しろ、もうすぐ来る」
「もうすぐ来るだと?」
ヴァルムがそう言った瞬間、闘技場は大きな影に包まれる。
観客は予想外の事態に静かになり空を見あげると、そこには巨大な生物が大きな羽音をたてて飛んでいた。
それを見た観客は驚愕し逃げ出したり、その場に固まっていたりと様々な反応を示す。
「エレファントビートル、大きさは50mでひときわ目立つ長い鼻のような角が特徴的な蟲だ」
ゼフはヴァルムにそう説明したが、こちらとエレファントビートルを警戒してるからか返事がない。
「せっかく教えてやったのに何も言わないとは失礼なやつだな」
「てめぇ…… 何者だ」
「やっと答えてくれたか」
「俺は今までいろんな召喚士を見てきたがここまでのやつは見たことねぇ。 一体お前は何者だ……」
「どうせお前は死ぬから教えてもいいだろう。 俺はお前達の敵だ。 いずれは召喚士として最強に上り詰める」
「俺達の敵だと? お前はふざけてんのか」
ゼフはため息を漏らす。
そして、ゆっくりと呟く。
「早く休みたい。 さっさとかかって来い」
「それがお望みか。 だったらすぐに終わらせてやる」
そう宣言するヴァルムだが、これは見栄を張っているわけでは無い。
何故なら彼は召喚士の弱点は知っているのだ。
召喚士は召喚した魔物に依存する傾向がある。
それに、あれほど強大な魔物を召喚したから魔力量の関係から他の魔物を召喚できないという推測を立て、召喚者であるゼフを一撃で殺すことができれば勝機はあると考えていた。
(なぁに、慌てるな。 奴は所詮召喚士だ。 俺の相手じゃねぇ)
ヴァルムはゼフの動きを窺う。
そして、隙ができるとヴァルムは踏み込み、音のような速さで近づき斬りかかる。
「剣技『双撃斬』!!!」
その攻撃は確実にゼフを捉え、回避や防御すら間に合っていない。
勝った、そう思った矢先、何か透明な壁のようなものに弾かれてしまう。
戸惑う中、ヴァルムは一旦距離をとり様子を伺う。
「どういうことだ…… なぜ弾かれた?」
ヴァルムにはその答えが分からなかったが、ゼフの前に透明化の魔法が少しずつ解けて現れるゴキブリのような蟲を見てすぐに理解する。
「透明化の魔法だと⁉︎ それにまだ召喚できたのか!」
ヴァルムはあり得ないことが目の前に起こり、叫ぶ。
「ククク、対策がなってないな。 こいつは来る前に呼び出した蟲だ。 それとお前は勘違いささているようだが、蟲はまだまだ召喚できるぞ」
「クソが!」
ヴァルムは叫びながら飛び出す。
そして、ゼフに斬りかかろうとする。
しかし、その全ての攻撃をアイアンGが防ぐ。
ヴァルムは苛立ちを抑えられず攻撃が雑になる。
勿論、それがゼフに届くことはない。
「残念だがそろそろ終わりにしよう目的の物も見ることはできた事だしな」
ゼフはそう言いながら一際豪華な席に目をやる。
そこにはこの世界に召喚されたとされる勇者達がこちらを見ていた。
「終わりにするだ? 何を言ってやがる! 俺は攻撃より防御の方が得意なんだよ!」
ヴァルムは下がって攻撃が来るのを待つ。
頭に血が上って少し考えれば分かることすら分からなくなっているようだ。
所詮は名前だけのSSランクである。
「そうか、なら見せてもらおう。 エレファントビートル、タイフーンだ」
そう命令するとエレファントビートルは魔法を発動する。
発動までの時間は感じられず、魔法が発動するとヴァルムの周りに10は超える巨大な竜巻が発生する。
それはヴァルムとて食らえばひとたまりもないほど荒れ狂い暴れていた。
「ククク、これをどう防ぐ? 特別だ、被害が出ないようにしてやろう 『ドーム』」
ゼフが魔法を唱えると大きなドーム状の透明な膜に観客を巻き込まないようにヴァルムとゼフだけを包みこむ。
その中にはタイフーンの魔法を入っており、ヴァルムに近づいていく。
「なんだ! くそ! 糞があああぁぁぁ!!!」
ヴァルムは叫びながら必死に抵抗するも、なす術なく大量の竜巻に巻き込まれる。
そして、声が聞こえなくなり、魔法が終わると空から彼だった肉塊が降ってくる。
「物理攻撃を期待していたようだが残念だったな」
そう言い残すとゼフは元の場所に戻って行く。
次の戦いに備えて。
✳︎✳︎✳︎
勇者達はゼフとヴァルムの戦いを見て体が固まっていた。
今までもすごい戦いと思っていたが、それはどうやら間違いだったようだ。
この戦いの召喚士は次元が違った。
最強の冒険者の一人と教えられていたヴァルムがあっさりとやられたのだから。
しばらく沈黙が続き、やがてそれを破るように一人の勇者が呟く。
「やっぱり…… 人が死ぬってのはどうも耐えれないな……」
「そうね……」
勇者達はある星からこの世界に召喚された者達なので人が目の前で死ぬというのに耐性がない。
だが、それでもこうやって勇者としているのは、皇帝に助けを求められたからである。
「それでも仕方ないよ。 これがこの世界の文化なんだから」
眼鏡の青年が真剣な表情で話す。
勇者達は男子二名、女子二名の計四人おり、名前は茶髪の青年が佐藤 翔太、眼鏡の青年が河野 圭太、ショートの女性は葛木 歩夢、そしてまだ喋っていない長髪の女性は山口 真里亞という。
「それにしても本当にすごい戦いね」
「真里亞はよく耐えれるね」
「私は特にどうってことないわよ」
「俺はちょっときついわ」
「男のくせにだらしないのよ」
勇者達がそんな談笑をしていると、隣に座っている皇帝が暗い表情を浮かべていたのを気づいた圭太が声をかける。
「皇帝様、どうしたんですか?」
「ああ、すまぬな。 お主達はこの世界に来て浅いから知らぬと思うがまさかあれほどの召喚士がいるとはの……」
「そんなすごいんすか?」
翔太が問うと、皇帝は頷く。
「すごいというレベルではない。 あれは化け物だな」
「化け物ですか……」
「僕も固有能力の魔力視で見たけどとんでもない量の魔力があの召喚士から出てたよ」
「へー、やっぱりすごいんだね」
「剣士の方も強かったのに本当に知らないことが多くて学びがいがあるわね」
皇帝を交えて話しているが圭太は暗い表情で考える。
(今はもう居ないけど、あの巨大なカブトムシから放たれてた魔力は今もそこにある…… つまり、ゴキブリの蟲に使っていた透明化の魔法を使ってるということだ、何故?)
圭太はそんな疑問を解消する為に皇帝に質問を投げかける。
「召喚士が召喚した魔物は戦いが終わったら引っ込むんですか?」
「そうだ、召喚士はその魔物を維持する限り維持費として魔力を使う。 だから、さっきあの召喚士がやったように帰還させないとすぐに魔力がなくなってしまうからな」
「なるほど…… 理解しました。 ありがとうございます」
「よい」
それを聞いた圭太はますます疑問が浮かぶ。
(つまり、帰還したかように演出しているってことか? 一体なぜ? それにあのカブトムシと召喚士と同じ魔力を空全体が覆ってるのは何故だ?)
圭太は考えるが分からない。
そんなことを考えているうちに次の試合が始まった。
圭太は少し引っかかるが今は試合に集中することにするのだった。
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