第34話 支配
ゼフはアウスゴレアを殺した後、残った街の魔王達を数日かけて訪れた。
流石に逆らうということは無かったが、どの魔王もすぐに降伏したからか完全には心は折れていなかったのでかなり手を焼いていた。
今は最初に支配したセレロンの街を歩いている。
「それにしても…… 魔族の街は人間の街と比べると素早らしいところだな」
ゼフは壁を軽く撫でながら呟く。
それもそうだろう、人間よりも高度な技術と豊富な資源を有するのだから、作れないはずがないのである。
だから、人間にもやろうと思えばできるのだろう。
だが、ゼフにとってはそれを理解していても比較してしまう。
「さて、大きな街は全て制圧できた。 残りの小さな村などはインセクト・ドラゴンに処分させよう」
ゼフはそう言うと、インセクト・ドラゴンを召喚し命令を飛ばす。
その後、インセクト・ドラゴンは優雅に飛んでいくのを見届けると、ゼフは隣にいるシルヴィアに語りかける。
「俺達はこの先にある人間の街に行こうと思っている。 お前も来るか?」
「ええ」
素っ気ない返事が飛んでき、ゼフは再びパラサイトについての理解を深める。
「なるほど…… これは返事をすると。 何を答えるのかは規則性がないな。 これはパラサイトの性格で答える答えないがあるとしか言えないな。 そう思うだろ?」
「ええ」
シルヴィアに寄生したパラサイトは一種の不具合のようなものなのだろう。
どうしてそうなったかは分からないが、それは後々調べるとする。
そんなことよりも話し相手がいるという体験がこんな所で出来るとは思っていなかった。
なんというか…… 新鮮で楽しい。
いや、その感情も相手が人間の身体を操っている蟲だからだろうか。
そんな風にゼフが機嫌よく歩いていると、目の前に一人の子供が飛び出して来た。
「…… なんだ?」
ゼフがそう思った次の瞬間には、子供の母親らしい魔族も飛び出してすぐに謝るように土下座する。
「も、申し訳ありません! 私の不注意で!」
ゼフはそんな真剣に謝る母親を見て笑う。
「いや、心配いらない。 子供のした事だからな」
「有難うございます!」
「だから、お前ら二人の命で許してやる」
ゼフはこの上ない笑顔で優しく語りかける。
「え…… い、命ですか?」
「そうだ、もし死ななかった場合はこの街の魔族はいなくなることになる」
母親は再び土下座をして叫びだす。
「お願いします! 私の命なら好きにしてもらって大丈夫です! だから、子供の命だけはどうか!」
「そうか、自分では殺せないのか。 ならば心優しい俺がお前の代わりに殺してやる」
周囲の魔族が怒りによって体を震わせてる。
それを気づいていながらもゼフは続ける。
「お願いです! お願いです!」
ゼフはその叫びを無視して子供に近づく。
「お願いです! どうか! どうか……」
母親は諦めたのか声が小さくなる。
ゼフはそれを確認すると、魔族の子供を殺すように操蟲命令する。
子供は泣きそうな目をぐっと堪えこちらを見ているが、それに同情する気も起きず、次の瞬間子供の頭は吹き飛ぶ。
母親に大量の血が身体にかかり、絶望の表情を浮かべながら叫ぶ。
「どうして…… どうしてえええぇぇぇ!!!」
たったそれだけの事で壊れてしまう。
ゆっくりとそれを観察したかったが、その声があまりにも甲高くうるさかったので、操蟲をに命令をして殺す。
ゆっくりと倒れる魔族の母親を見て、少し後悔する。
「やってしまった…… まぁ仕方ないだろう。 次からはこの程度のことは我慢しないとな」
もう少し遊ぶつもりだったおもちゃを失ったが、そこまでショックは大きくない。
何故なら道の端には大量におもちゃが控えているからである。
「あのようなことで狂ったように叫ぶとはつくづく素晴らしい種族だな。 それに、一生おもちゃには困らないな」
ゼフはそう言うとその場を後にし、人間の街に行く準備をにしに行くのだった。
✳︎✳︎✳︎
ここはとある魔族の街オーシェル。
その街の中でも一際古い建物に三人の魔族が酒を飲みながら話していた。
「かなりまずいことになった」
「魔族はもう終わりかね」
「いえ、まだよ私は諦めないわ」
女の魔族はそう言うと一気に酒を飲み干す。
慣れてないせいか少し顔が赤くなる。
「だけど、実際危険」
子供のような魔族が返答すると、ほか二人の魔族は同意したかのように頷く。
「そうだね…… あの人間は土下座をしている魔族どもを平気で殺しておる」
中年ぽい魔族は怒りを露わにしながら拳を握りしめる。
「私はついさっき見たわ。 子供とその母親を何もしてないのに殺していたわ」
「私も見た。 奴は危険すぎる」
「でも…… 手をつけるどころか、その準備すらできない」
「そうよね…… そこが厄介よ」
街にはゼフが召喚した蟲達が徘徊しており、逆らったり、悪口を言ったものは即座に殺されている。
だから、彼らは目につかないこのような場所で話をしているのだが、それでもかなり危険なことなのは間違いない。
「だけど、魔族達の大半から怒りを買ってるわ。 それに奴はむやみやたらに滅ぼさないでしょ」
「たしかに、滅ぼすつもりならとっくに滅んでおるからな」
「一つ疑問。 あれは本当に人間?」
「見た目は人間、けど中身はどうなのかしらね?」
「奴は次に人間の街に行くみたいだがね」
「やっぱり異種族には容赦がないっていうタイプの人間ね。 ま、私達もそうだけど」
「違う、あの人間が話してるの聞いた。 人間の街も最後滅ぼす言ってた」
他の二人がその言葉に驚愕する。
「つまり…… あの人間は同種族も滅ぼすつもりってこと?」
女の魔族はそれを聞き震える。
例えどんな奴でも簡単に自分と同じ種族を滅ぼすとは言えない。
そんなことを言う奴は大抵生物として壊れてる。
そして、最も敵にしてはいけない相手だからだ。
「それを聞いたからって、奴から魔族を救うことをやめるわけはいかないのだがね……」
「それで、どれくらい協力者集まった?」
「今のところ100人ぐらいよ。 完全にびびってるわね。 たしかに、笑顔でお前達が死んだら許してやるって言われてるのを聞いたら私だってビビるわ」
「でも、だからこそやる」
「そうよ、もしこの状態が続くなら少しでも抗って滅んだ方がマシよ」
「当たり前だが、途中で逃げるのは無しだがね」
「分かってる」
「ええ、分かってるわ」
三人は示すように頷くと、ゆっくりと扉が開く音がする。
そのする方向に顔を向けると驚愕する。
何故なら、そこに立っていたのはこの街最強の剣士だったからである。
「集合場所はここであってるかね?」
最強の剣士がそう呟くと、跳ねるように三人は喜ぶ。
これで少しだが、魔族が勝つことができる確率が上がったからである。
そう、それが勝てない相手と知らないまま……
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