第35話 訪問
ゼフ達は一時間程前に準備を終えるとすぐに出発し、人間の街に到着することができていた。
しかし、そこでゼフ達に一つの大きな問題が目の前に立ち塞がっていた。
それは長蛇の列。
それもゼフが今まで味わったことのない程の人。
とは言ってもこの世界の人にとってはそこまで多いということはないが、ゼフにはそれが衝撃的であった。
仕方なくそれに並ぶが、15分もしない内に暇になる。
「シルヴィア暇だ。 何か面白い話はないか?」
「はい」
シルヴィアは即答するが、そこから話すことはない。
「こういう時不便だな……」
ゼフはシルヴィアと話すことを諦めると、蟲を召喚できない今の事を思う。
(こういう暇な時はいつも蟲達と戯れていたから他に何をすればいいか分からんな。 人間を一人連れてたほうがいいのか?)
そんなことを考えているうちに列は少しずつ進んでいく。
ゼフ達がこうして慎重になっているのには理由がある。
街を蟲達に支配させるのもいいが、どうやらこの街にはとても貴重な鉱石が沢山採掘されるらしいのだ。
その発生源さえ突き止めればいいのだが、魔王は知らなかった。
それに魔族達がこの街と戦争を行なっているらしく、その目的は人間を減らす事と鉱石の独占をすることらしい。
(なんにせよ情報はいるな。 ここは気長に待つとするか)
ゼフ達はイライラしながらも列が進んでいき、二時間経つかどうかというところで遂に自分の番に回ってきた。
正門前にいる衛兵はゼフ達に問いかける。
「証明できるものを持っているか?」
「冒険者カードでいいか?」
「構わん」
そう言うとゼフとシルヴィアは冒険者カードを渡す。
「ほう、そちらのお嬢さんは魔導士か」
シルヴィアは現在仮面やマントなどを全て取っており、私服姿である。
美人はこういう時に役に立つ。
「そして、そちらのお兄さんは召喚士か……」
明らかに蔑んでいるようだった。
それは理解していたことなので今更何も思わない。
「だが、二人ともAランクか。 若いのにすごいな」
そう言うと、衛兵は冒険者カードを返してくる。
「よし、大丈夫だ。 ようこそ皇都へ、楽しんでこい」
衛兵に笑顔でそう言われると、軽いお辞儀をして街に入っていく。
入るとそこは聖都や王都と変わりない風景が目に飛び込んでくる。
「さて、まずは冒険者組合に行くか」
「分かったわ」
「だが、道がわからんな。 衛兵に聞くべきだったな」
ゼフは少し後悔しながらも後ろを振り向くと、衛兵は既に次の人の相手をしている。
「まぁ、過ぎたことはもういい。 そこら辺をぶらぶらしながら探すぞ」
「ええ」
その後、ゼフとシルヴィアは街を探索するが魔族の街を歩いたせいで目が肥えてるのか、少し物足りない気がした。
貴重な鉱石があると聞いていたが、それはどうやら建造物には使わないものらしい。
「やはり技術が高いと言うのは重要だな」
そんなことを言いながらも、街を探索していると一時間程しないうちに冒険者組合の看板が見えた。
ゼフは看板の前に立ち止まると口を開く。
「これが皇都の冒険者組合か」
今まで王都と聖都の冒険者組合を見てきたがそれよりもかなり立派なものであった。
ゼフの中でそこだけは評価した。
「もしかすると、向こうよりもある程度は資源を独占できるから、装飾などを豪華にすることができるのかもな」
そう言いながらゼフは扉を開ける。
やはり、中も中々の広さを持っており、昼間なのに所々に冒険者の姿が見えた。
ゼフは冒険者の視線を無視して受付に向かう。
「ようこそ、本日はどのような用件でしょうか?」
ゼフは冒険者カードを見せて口を開く。
「ギルドマスターに会いたいのだが?」
そう言うと受付嬢は申し訳なさそうに答える。
「申し訳ありません。 当ギルドは例外を除いてギルドマスターに会うことができるのはSランク以上の冒険者だけと決まっております」
「そうか…… それは仕方ないな。 それで例外とはなんだ?」
「はい、例えば緊急の依頼をする場合とか、学園の教師になる方を面接するとかですかね」
「…… 学園とはなんだ?」
「学園とはそれぞれの分野の強いものを育てる施設でございます。 今年は異世界からの勇者も入学するみたいですね」
「勇者か…… それで教師にはどうやったらなれるんだ?」
「そうですね、時期的には三日後に開催される闘技大会でそれぞれの分野の職業で一位を決めます。 その方が教師になることができます。 ゼフ様は非常にタイミングが良かったですね」
他の街にはないシステム。
ゼフは非常に心が惹かれた。
それに異世界からの勇者が気になる。
「なるほど、ではエントリーしよう」
「ありがとうございます。 それでは、闘技大会についてギルドマスターから説明がありますので、呼ばれるまでそこに座っておいてください。 順番が来ましたら私が呼びに参ります」
「分かった」
そう言うとゼフとシルヴィアはすぐそこにある椅子に座る。
(また勇者か…… それに異世界か……)
ゼフはそんなことを考えると頬が緩む。
所詮は名前だけの奴だろう。
この世界に来てからそんな奴はたくさん見てきた。
だから、今は鉱石の情報だけでいいだろう。
(アイドリッヒには一ヶ月ぐらい経ってから報告してもそこまで疑われることはないだろう。 SSランクにはすぐになりたいがそこは我慢だな)
ゼフがそんなことを考えてると受付上が近づいてくる。
「ゼフ様、順番が来ました。 ギルドマスターの部屋へどうぞ」
ゼフはそれを聞いてギルドマスターの部屋に向かう。
着くや否や、扉をノックして開けるとそこには20代後半の若い男が椅子に座っていた。
ゼフが部屋に入るとギルドマスターは立ち上がり口を開く。
「はじめまして、ギルドマスターのレンというよろしく」
「俺はゼフ、こっちはシルヴィアだ」
そう挨拶をすると握手を交わす。
「さて、まずは座ってくれ」
ゼフ達は椅子に座ると、レンは話し始める。
「君達は学園の教師になってくれるみたいだね」
「ああ、そうだが。 なるのは俺だけだ」
「なるほど…… 了解した。 それで君はなんの職業かな?」
レンは笑顔で問いかけると、ゼフはゆっくりと口を開く。
「召喚士だ」
だが、ゼフがそう言うとレンの笑顔が消える。
「なるほど…… 召喚士か。 一応枠はあるにはあるんだが……」
「何かまずいのか?」
「いや、毎年召喚士になろうとするものは十人にも満たないからね。 教師はDランク冒険者になるんだけど…… 今年は勇者がいるらね」
「つまり、強さを示してほしいと?」
「そうなんだけど、まずそれぞれの職業の一位を決めた後、そこから全体の一位を決める必要があるんだけど……」
「力を見せつけるためには戦わなければならないが、俺ではそいつらと戦うのは危険ということか?」
「話が早くて助かる。 今年の召喚士で立候補するものは誰もいなかったから困ってたとこに君がきて助かったんだけど…… この話を聞いてやめてもいいんだよ?」
「いや、問題ない」
レンは少し驚くが、すぐに笑顔になる。
「ありがとう、一応これで今年も安泰だよ」
「ところでレンはつい最近まで冒険者だったか?」
「そうだよ、つい最近までは冒険者だったんだけどね。 強さを買われてギルドマスターに今年からなったんだ」
「そうだったのか…… どうりで若いし話し方が妙に砕けてると思った。 ところでランクはいくつだったんだ?」
「僕は一応SSランクを務めさしてもらってたよ」
「SSランクか…… それはすごいな」
「さて、この話はこれで終わりにしてルールだけ説明するよ」
「ああ、頼む」
「ルールとしては武器、魔法なんでもありで、相手を殺すのは出来るだけ避けてほしい」
「それだけか?」
「ああ、それだけだよ。 付け加えるとするなら今年は勇者がこの戦いを見てるよ」
「賞金とかはないのか?」
「冒険者最強の称号を得るだけじゃダメか?」
「どういうことだ?」
「この戦いにはねSランク以上の猛者しかいないと思うからね」
「ずいぶん人気だな」
「そりゃあ、そうさ。 ここで教師になるというだけで名声があらゆる所に広がり、お金も危険を冒さず今までと同じくらいもらえる。 ここは世界最高峰の学園さ」
「そう言うことか…… じゃあ俺は始まるまで準備しに帰ろう」
「助かるよ、三日後ここに12時に来てくれ」
レンはゼフにメモ用紙を渡す。
「了解した」
ゼフ達が出て行こうとした時、その歩みを扉の前で止めレンに問いかける。
「そういえば…… この街には特別な鉱石があるらしいが、知らないか?」
「いや、知らないよ。 なんだいそれは?」
「いや、知らないなら別にいい」
ゼフはそれだけを言い残すと、今度こそ出ていく。
部屋には一時の静寂が訪れる。
(彼強いね、後は他の職業の猛者達を見て怖気つかなければいいのだけど……)
その部屋に残ったレンは少しゼフのことを心配するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます