第16話 依頼

 昨日の話し合いの結果、依頼はアヴェイン達に任せることになった。

 集合は次の日の朝、場所は冒険者組合と決め解散した。

 更に新たな情報として彼らの職業を知ることができた。

 アヴェインは剣士、ガランは戦士、エリックは回復型の魔導士、シルヴィアは攻撃型の魔導士であり、ランクは全員Cだ。

 窓から眩しい光が差す朝、ゼフは目が覚める。


「そろそろ時間だな、行くか」


 ゼフは早めに起きて準備を始める。

 ローブを着て仮面を被り終えると、部屋の隅に直立不動で立っているビートルウォリアを見据える。


「行くぞ、ビートルウォリア」


 命令すると、ビートルウォリアはゼフの後に続いて歩き始める。

 ゼフは宿屋を出ると、特に寄るとこもないのでそのまま冒険者組合向かう。

 冒険者組合到着し、扉を開けるとそこにはすでにアヴェイン達が何やら話をしながら待っていた。

 どうやらゼフに気づいてない様子なので、近づき挨拶をすると、ようやく気づきこちらを顔を向ける。


「おはよう」

「おお、ゼフ。 おは……」


 挨拶を返そうとしたアヴェインだったが、後ろのビートルウォリアを見るや否や固まってしまう。

 分かりやすい反応だ。


「ゼフ……一応聞きたいのだけれどそれは何かしら?」


 そんなやり取りを見ていたシルヴィアが、後ろから顔を出しゼフに尋ねる

 ゼフはそれに自信ありげに答える。


「ビートルウォリアだ」

「何がビートルウォリアだ、よ!  昨日あれほど言ったでしょ! すぐに引っ込めて頂戴!」

「すまないが、それはできない」


 ゼフが返答すると、シルヴィアが固まる。

 そして、震えながら口を開く。


「え……もしかしてできないの?」

「ああ、そうだ」


 すると、シルヴィアは絶望からか床に膝をつく。

 よっぽどその言葉が効いたようだ。

 そこにアヴェイン街が駆け寄る。


「ゼフ、すまない。話は後で聞くとして、エリック! シルヴィアを少し休ませてほしい」

「わ……分かったよ」


 エリックはシルヴィアを連れてその場を離れる。


「それで言いたいことがあるんだろ? ゼフ」

「ああ、まずは黙っていたことを謝らせて貰おう。すまない」

「気にして無いよ。なぁ、ガラン」

「ああ、ゼフ殿にも理由があったのでしょうぞ」

「ありがとう……隠していたことなんだが、このビートルウォリアだ」

「みたいだね」

「そして、このビートルウォリアだが、戻すことはできない」

「それが隠していたことなんだね?」

「ああ、そうだ」

「俺は別に気にして無いよ」

「我も気にしていない」

「すまないな」

「それにしてもゼフは珍しいな。召喚士なのに召喚した魔物を戻すことができないなんて」

「我が思うにそれは呪いか何かか?」

「いや違う、強くなるための代償だ」

「そんなことができるんだね……俺は代償を払ってでも強くはなりたくは……ないな」

「それは人それぞれだ。それに職業によって向き不向きがある。だから、あまりこのことで態度を変えないでくれると助かる」

「分かりましたぞ、ところでゼフ殿は他には召喚してないのですか?」

「もちろん召喚してる」


 予想してた質問。

 ゼフは得意げに服の中から一体の探知蟲を出す。


「ほぅ、まだゼフ殿は召喚しておったのか。だがしかし、戦力的にはそのビートルウォリアという蟲だけですな」

「なぁ、ゼフ。ビートルウォリアって結構強い蟲なのかい?」

「そうだな、かなり強い」


 ビートルウォリアが召喚できる蟲の中でどれくらいの位置にいるかを敢えて隠す。

 もしもの時のためだ。


「やっぱりそうなんだ。このビートルウォリアからは強者の独特なオーラ? みたいなのが出ていたから、そうかと思ったんだよ」


 アヴェインは嬉しそうに話す。

 何がそんなに嬉しいのか分からないが、おそらく自分を超える強者と出会えたからだろう。

 全く共感はしないが。


「アヴェイン、依頼は何を受けるんだ?」

「オーガの討伐だよ」

「そうか、いつ頃出発するんだ?」

「もうそろそろ行くよ。 シルヴィア達に出発することを伝えてきて、ガラン」

「分かりましたぞ」


 指示を受けたガランは、シルヴィア達を呼びに行く。

 遠目からでも説得するのに苦戦しているようだ。

 そんな光景を同じように見ている隣のアヴェインが呟く。


「ゼフ、心配しなくてもいいよ。シルヴィア達には俺とガランで伝えとくからさ」

「そうか、すまない」


 そんな話をして、暫くするとガランが説得することができたのか、シルヴィア達を連れて来た。


✳︎✳︎✳︎


 森の中、ゼフ達は整備された道を綺麗な列を作り通っている。

 初めてのパーティでの依頼、非常に楽しみだ。

 だが、それを邪魔するかのように、未だ不機嫌な者にアヴェインが話しかける。


「まだ怒っているのかい?」

「もう怒ってないわ」

「いや、怒ってるだろ」


 ゼフはそんなアヴェインとシルヴィアの痴話喧嘩を見ながら考える。

 これからの行く末を。

 

(さて、ここには長居不要だ)


 ゼフはシルヴィアにしか興味がなかった。

 なんとしてもシルヴィアを手に入れたい。

 一番簡単なのは、パーティの解散である。

 

(ならば悟られずに殺すのが一番だな。さて、誰にしようか。おそらく人間関係的にあいつがいいな)


 今から行うのはシルヴィアの心を壊すことだ。

 それにより、とある蟲の使い勝手が良くなる。

 他には、ゼフ自身が仲間を殺された人間の絶望する姿を見てみたかったからだ。


「……アヴェイン」

「なんだい? ゼフ」

「オーガはどの辺にいるんだ? 三〇分近く歩いてるが影すら見えないぞ」

「大丈夫さ、今オーガの痕跡を探してるところだから」

「痕跡だと? すまないが、この依頼はどれくらい時間で終わるんだ?」

「最低でも六時間、多分この調子だと八時間くらいで終わるよ」

「なんだと!?」


 ゼフはその真実に驚愕する。

 いや、確かに受付嬢からは早いと言われた。

 だが、それでも所詮は誤差だと思っていた。

 まさか、これほどまでに時間に違いがあるとは。

 ゼフは改めてこの世界の魔法のレベルの低さを実感する。


「貴方、もしかして疲れたっていうの?」

「いや、そういうわけではない」

「ハハハ、ゼフ殿無理はしなくて良いからな。きつくなったらいつでも言うのだぞ」

「そ……そうですよ! 僕達はもう仲間なんですから」


 ゼフはそんな幻想的な言葉に、心の中で笑う。


(仲間か……残念だが俺はお前達を仲間と思っていない)


 誰であろうと、苦しくなれば裏切る、ゼフはそれを誰よりも知っていた。


「そうか、すまない。だが、俺が言いたいことは違う。俺なら今すぐオーガを見つけれる」

「それは本当なのか、ゼフ!」

「ああ、これを見てくれ」


 ローブの中から探知蟲を一体出す。

 出てくると、ゆらゆらとゼフの周りを飛ぶ。


「この蟲を使うことで場所の特定は容易になる」

「本当かい!?」

「それは助かりますぞ」

「ゼ……ゼフさん。すごいです!」

「そんなことが出来るのなら、さっさとやりなさいよ」


 褒められると思い自信ありげに言ったそれを、シルヴィアだけはきつい言葉で攻めてくる。

 ゼフは感情の高まりを心の中に留める。


「ああ、今からやる。行け、探知蟲」


 探知蟲は命令を受けると、森の奥へ消えていく。

 そして、三〇秒も経たないうちに場所を特定する。


「分かったぞ」


 ゼフがそう言うと、アヴェイン達はまさかここまで早いとは思っていなかったか、驚きの表情を浮かべる。


「ゼフ、早くないか?」

「嘘じゃないでしょうね?」

「本当だとしたら凄すぎますぞ」

「す……すごいです」

「普通だ」

「いや、凄過ぎるよ」

「それは、褒め言葉として受け止めよう。ビートルウォリア、案内頼む」


 ゼフの命令を受け、ビートルウォリアは森の奥の方へ歩き始めた。

 それにゼフ達が続く。

 そんな途中の道のりでアヴェインが口を開く。


「ゼフ、聞いていいか?」

「なんだ?」

「さっき分かったと言っていたが、ビートルウォリアに案内させるのかい?」

「ああ、探知蟲は蟲だけに位置情報を伝えることができるからな。だから、人間である俺には分からない」

「なるほど、そういうことか」


 アヴェイン達はそれで納得してくれる。

 ゼフは蟲達と話すことはできないが、なんとなくハイかイイエが分かるというものである。

 だから、探知蟲から情報を受け取ったビートルウォリアの、ハイという肯定の反応でゼフは分かったのである。

 ビートルウォリアが足を止めると、木の陰からオーガの姿が見えた。

 しかも三体である。


「見えたぞ」


 ゼフのその言葉で、パーティメンバー全員に緊張が走った。


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