第17話 壊れ始める歯車
ゼフ達は木陰からひっそりオーガ達の様子を観察する。どうやら沢山の木を運んできているようだ。
「オーガ達は何しているんだ?」
ゼフが小声でそう問うと、アヴェインが答える。
「多分、オーガ達は家を作ってるんじゃないかな。それよりも、あのオーガ達おかしいね……」
「おかしいって何がだ?」
「オーガは普通、住処を持っているはずなんだ。だけど、このオーガ達は家を作っている。それにこの辺じゃ見たことの無い種類だ」
「何かに追われた可能性があるってことね?」
「その可能性が高い。取り敢えずはオーガを討伐して、組合に報告しよう」
「御意」
「わ、分かりました」
「分かったわ、でもどうするの? 全く知らないタイプな上に三体。こっちが不利だわ」
メンバー達はシルヴィアのそれに答えることができず黙る。
普通のオーガでも一体相手するのがやっとというのに、全く知らない種類。
しかも三体となっては勝つことは難しい。
ゼフはそんな雰囲気を見兼ねて口を開く。
「俺に考えがある」
その言葉で、先程まで暗い表情だったアヴェイン達が、顔を上げてこちらを見つめる。
「ビートルウォリアが一体相手する。二体ならこの前に話した陣形が成り立つはずだ」
「確かに二体なら可能だが……」
「やるわよ」
「いいのか? 負担が想定の二倍になるぞ?」
「ええ、いいわよ。二人もそう思ってるでしょ?」
「いつでも準備万端ですぞ」
「は……はい、大丈夫です」
「だそうだ、ゼフ」
「そうか、では作戦を開始するぞ。ビートルウォリア、オーガを一体引き付けろ」
それを聞いたビートルウォリアは、勢いよく飛び出す。
すると、一番手前にいたオーガがそれに気づき、森の奥に逃げるビートルウォリアを追いかける。
それを確認したゼフ達は、同じように追いかけようとしていた二体のオーガの目の前に立ち塞がる。
そして、アヴェインが叫ぶ。
「行くぞ! ガラン!」
「御意!」
オーガは事態を飲み込めていないのか、慌てて拳を振るう。
しかし、アヴェインとガランはオーガのその攻撃を剣で受け止める。
今まで戦ってきた魔物とは比較にならない凄まじい力だ。
そして、オーガが拳を剣から離した時、シルヴィアによる攻撃魔法が叩き込まれ、断末魔が森に響き渡る。
その間にエリックが二人を回復魔法で回復する。
そんな卑怯と言われても仕方がない戦い方をひたすら繰り返す。
それを後ろから見守るゼフは思う。
(非常に理に適った作戦だ。これなら俺なしでも勝てるだろう)
正直なところゼフも戦いたいが、所詮は召喚士と思われている。
その勘違いを続けて欲しいが為に、敢えて手は出さない。
それが功を成してか、ゼフが召喚できる魔物はビートルウォリアと探知蟲で上限だと勘違いしている。
だから、それを悟られないためにも戦う以外のことでパーティに貢献する。
「『フレアランス』ッ!! エリック! 魔力の回復をお願い!」
「は、はい! 『クルーラー』ッ!!!」
「よし! 一度引くぞ! 下がれ! ガラン!」
「御意!」
アヴェインとガランはオーガから離れると、シルヴィアが魔法を唱える。
「『バインド』ッ!!!」
シルヴィアが放った魔法により、オーガ謎の光のようなものに縛られ、動きを止める。
だが、所詮は今の状態でも数秒しか持たない。
その間にアヴェインとガランを回復させる。
たった数分の攻防だったが、想像以上に疲弊している。
どうやら回復魔法の回復量が、ダメージより少ないらしい。
「今のうちにガランとアヴェインは回復してて! エリック! お願い!」
「わ、分かりました!」
バインドが解かれるまで、ひたすら回復して準備する。
おそらく、後一度続ければ勝てる。
そうパーティメンバーは確信する。
オーガ達が怒りを露わにしながら、バインドを力で引きちぎると、それを見ていたアヴェインとガランが飛び出す。
「これで終わりだあああぁぁあぁっ!!!」
「我の力をみるが良い!」
飛び出した二人にオーガ達は勢いよく拳を放つ。
それをアヴェイン達が最後の力を振り絞り見事に受け止めた。
「うおおおぉぉおぉっ!!!」
「『フレアランス』ッ!!!」
「もう一息だ!」
オーガ達はアヴェイン達の気迫に押され、流石に命の危険を感じたのか、背中を向け逃げ始める。
だが、それはシルヴィアによるフレアランスが阻止する。
ドスン、と倒れた二体の首にアヴェインとガランが剣を突き刺す。
オーガ達は特に抵抗することなく、そのまま静かに息を引き取った。
それを確認したアヴェインは叫ぶ。
「はあああぁぁあぁっ!!! 疲れたあああぁぁあぁっ!!!」
そのまま地面に寝転がる。
他の者達もアヴェイン程ではないが、地面に膝をついている。
「お疲れ、シルヴィア」
「アヴェインこそお疲れ。それにガランとエリックも」
「お……お疲れ様です」
「お疲れですぞ」
「よし、とりあえず解体するか。すまないがゼフ、頼んでいいか?」
「ああ、任せろ」
ゼフはアヴェインのお願いを聞き解体を始める。
収納魔法を使っても良かったが、アヴェイン達に見せると、また話が面倒になる気がしたので使わなかった。
解体途中にアヴェインが話しかけてくる。
「ところでゼフ。ビートルウォリアはどうなったんだ?」
「ついさっき反応が消えた」
「そうか……残念だ……」
勿論それは嘘である。
ビートルウォリアはそのまま王都に向かわせた。
オーガは瞬殺である。
「そ……それじゃあもう一体のオーガが向かってるかもしれないってことですか?」
「いや、それはない。いくらオーガが強くてもビートルウォリアと戦って無傷で済むはずがない。そんな状態でのこのこやってくるほど馬鹿ではないだろう」
「そ……それは良かったです」
剥ぎ取りが終わり、みんなにそのことを伝えようとした時ガランが跳ね上がる。
「うわあああぁぁあぁっ!!!」
「どうしたんだ! カラン!」
「いや、大したことではないですぞ。蟲を潰してしまって、ビックリしただけですぞ」
「そうか、それは良かった。それにしてもなんの蟲だそれは?」
「いや……分からないですぞ」
「ゼフ、この蟲が何か分かるか?」
近づき見てみると、それは芋虫のような見た目をしていた。色は紫に赤色の斑点模様がある。
大きさは手のひらのサイズで、そこまで大きくない。
こんなのが居たのだからガランが驚くのも当然だ。
「すまない、俺には分からん」
「そうか……ゼフにも分からないとなると、こいつも冒険者組合に報告するか。この蟲は手が空いているエリックが持ってくれ」
「わ……分かりました」
「じゃあ、行こう」
「そうだな」
「ええ、分かったわ」
「わ……分かりました」
ゼフ達は大量の剥ぎ取り素材を持って聖都へと歩みを進み始める。
帰路は特に険しい雰囲気はなく、全員がオーガを倒せたからか上機嫌だ。
それを見てゼフはなんてお気楽な奴らだと思う。
ゼフは別に蟲を自分の近くにしか召喚できないわけではない。
この世界ならどんな場所だろうと、現在の場所から召喚することができる。
だから、アヴェイン達に見えない場所で召喚魔法で魔法陣を展開してこの蟲、毒蟲を召喚したのだ。
「アヴェイン」
「どうした? ガラン」
しばらく歩くとガランがアヴェインに声をかける。
「気分が悪い、休ませてくれるか?」
「ああ、分かった。大丈夫か? ポーションが残っているが飲むか?」
「いや、いい。すまない……」
ガランにいつもの口調はなく、只々具合が悪そうだった。
この中にガランを背負える者はいない。
だから、ガランが回復するのを待つしかない。
そして、暫くガランが元気になるのを待っていると、シルヴィアが口を開く。
「ねぇ、アヴェイン」
「なんだい? シルヴィア」
「みんなでガラン背負って行きましょ」
「そうだな……確かに今のガラン状態は異常だ。早めに治してもらわないとな」
そう決め、エリックとゼフを呼び集め、運ぶことを提案する。
そして、ガランに近づいた。
だが、アヴェインは嫌な感じがした。
あまりにも静かすぎるのだ。
普通はいくら衰弱しきっていたとしても呼吸の音は僅かだが聞こえる。
だが、ガランからはそれすら聞こえない。
急いでガランに近づき確認するとアヴェインは驚き、重い口を開いた。
「し、死んでいる……」
それはエリックとシルヴィアの思考を停止させ、ゼフに喜びを与えた。
ガランはその瞬間、静かにその息を引き取ったのだ。
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