第15話 パーティ

 次の日、ゼフはいつものように冒険者組合に訪れていた。

 昨日の夜、王都の蟲達を転移魔法を使い、確認しに行ったが、今のところ問題はなかった。

 だが、油断はできない。

 これからはできるならば毎日確認しよう。

 そう心に決める。


「オススメの依頼を教えてくれるか?」

「はい、分かりました。少々お待ちください」


 受付嬢は手際良く、手元に積まれた沢山の依頼からいくつか取り出し、にっこりと笑顔を向けて話し始める。


「お待たせしました、ゼフ様。今日のDランクオススメの依頼は、昨日やってもらったウルフの討伐又はパーティを組んでもらってのオーガの討伐です」


 ゼフは見え見えのやり方に少し呆れながらも、それを顔に出さずに答える。


「それじゃあウ――」

「おい、あんた!」


 ウルフの依頼を受ようと言おうとした時、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえる。

 ちらっと受付嬢を見ると笑っている。


(まさか、嵌められたかのか。少々侮っていたな)


 ゼフはそんなことを考えながら、渋々声が聞こえた方を向くと三人の男が立っていた。

 一人は軽装の優男の印象が強い剣士、もう一人は大男だが大剣を持ち、重そうな装備をしている。

 最後の男は杖を持ちマントを羽織っており、小柄であった。


「俺のことか?」

「ああ、そうだ」

「何の用だ」

「実は話があるんだ。向こうに座って話をしないか?」


 見たところ、パーティの話で間違い無いだろう。

 ここで堂々と断れば、受付嬢も少しは諦めがつくはずだ。

 そう考え、ゼフは口を開く。


「話だけは聞こう」

「本当か!? ありがとう! それじゃあ、こっちに来てくれ!」


 ゼフは男達の後ろをついて行くと、そこにはすでに一人座っていた。

 仮面とマントで全身を隠すように羽織っている不気味な奴だ。

 自分が言えたことではないのだが。

 男達が座るのを見計らい、ゼフも座る。

 それを確認した優男が話し始める。


「まず自己紹介からだな。俺の名前はアヴェイン。 そして、この大男は――」

「ガランと申しますぞ」

「そして、こっちの杖を持っている小柄な奴は――」

「エ……エリックと言います」

「最後にここに座っている仮面の奴は――」

「シルヴィアよ」

「これが俺達のパーティメンバーだ。もし、よかったら名前を教えてもらってもいいだろうか?」

「名前はゼフだ」

「よろしく、ゼフ」

「ああ、よろしく」

「さて話なんだが、単刀直入に言う。ゼフ、俺達の仲間になってくれないか?」


 ゼフはそれを聞き、考えるふりをする。

 予想通りの展開、こいつらは俺のことをどう聞いてるか分からないが、はっきり言っていらない。

 ゼフはパーティの誘いを断るために口を開こうとすると、横からシルヴィアが口を挟む。


「アヴェイン、彼は断るつもりみたいよ」

「そうか……やっぱりダメか……」


 シルヴィアの放ったその言葉にゼフは驚く。


(何故、俺が断るとわかったんだ? この見た目だから、表情で見破ることもできないはずだぞ!? まさか心を呼んだのか?)


 ゼフには全くの未知の体験であり、自分の知らない能力としてシルヴィアという女を警戒する。

 そして、同時に今までのことがバレてるのではと恐怖する。

 

「何故、彼女は俺の考えていることが分かったんだ? 彼女は心を読むことができるのか?」

「ああ、それは彼女がこの街では珍しい予報士の職業についてるからさ」

「……予報士だと?」


 それは王都の滅びを知らせた厄介な職業である。

 少し調べたいと思っていたが、こんな所で出くわすとは思わなかった。


(もし、これが本当ならこのパーティに入るメリットはあるな。それに俺が知らないというのも頷ける)


 だが、簡単に頭を縦には振らない。

 何故なら、嘘の可能性もあるのだから。


「アヴェイン、嘘はいけないわ。正確に言えば私は魔道士の副職業として予報士があるだけで、本職ほどでは無いわ」

 

 強さを求めるならば普通は職業を一つに絞るのだが、この世界ではその常識はないようだ。

 確かに使うことができる能力が増えるというのは強力だが、それは逆に育てる選択肢を自ら増やしてしまうこととなっている。

 視線を上げると、なにやらアヴェインとシルヴィアが言い争っていた。


「返答をしたいんだが……」


 ゼフがそう言うと、気づいたらしく二人も申し訳なさそうにする。


「ああ、すまない。こちらから頼んでおいて……シルヴィアも謝って」

「……お詫びするわ」

「別に問題ない、答えだがお前達の仲間になろうと思う」


 すると、アヴェインが嬉しそうな顔をこちらに近づけてくる。


「本当か! ありがとう! これからよろしく、ゼフ!」

「ああ、よろしく。アヴェインとシルヴィアとガランとエリックだったかな」

「は……はい合ってます。 ゼフさん」

「これからよろしく頼みますぞ、ゼフ殿」

「よろしくね、ゼフ」

「よ……よろしくお願いします。ゼフさん」

「これからよろしくな! ゼフ!」


 ゼフは受付嬢をちらっと見ると、なにやら嬉しそうにこちらを覗き見ていた。

 結果としてあいつの策にまんまと嵌ってしまったわけだ。


( だが、予報士を連れてきたのは素直に褒めるところだ)


 軽く受付嬢に感謝し、顔を上げる。


「それじゃあ、ゼフ。これから戦闘の役割を話そう。だから、君の職業を教えてくれないかい?」


 ゼフは正直に話すか迷った。

 だが、嘘を言ったとしても、バレるのは目に見えているので正直に話すことにする。


「俺の職業は召喚士だ」


 そう答えた瞬間、先程までの楽しい空気が一変して固まる。

 酷く冷たい空気。

 まあ、それも仕方ないだろう。

 仲間に入れたのが不遇な召喚士なのだから。

 というか、受付嬢はなぜこの事を話していないんだと怒りを向ける。


「そうかそうか。でも、ウルフとか狩っていたてことは何か魔法を使えるんだろ?」

「ああ、使うことができる。ただし、攻撃魔法は事情があって使えなくなった。そして、サポートだがこれは自分自身と召喚する蟲にしか効かない」


 限りなく厳しい条件は、強くなる為に必要なことだ。

 それは言わなくても分かってくれるだろう。


「そうなのか……分かった。ちょっと待って、今どう戦えばいいか考えるから」

「ちょっと待って! 今、蟲って言ってたけど、もしかしてゼフが召喚するのって蟲なの?」

 

 シルヴィアが声を振るわせてゼフに聞く。


「そうだが、何か問題でも?」

「大問題よ! 私は蟲が嫌いなのよ! 他には召喚できないの?」

「残念だが諦めてくれ。蟲以外の生き物は召喚できないんだ」

「嘘……」


 シルヴィアはそのことに絶望し、床に膝をつく。


「ゼ……ゼフさん」

「どうした?」

「実は僕も蟲が苦手でして……生き物以外は何を召喚できるんですか?」

「そうだな……食糧とかかな?」

「えっ!? そ……それってすごいじゃないですか!」

「そうなのか、俺以外の召喚士にまだ会ったことなかったからな。知らなかった」


 その話を聞いていたのだろうか、シルヴィアは元気よく立ち上がりゼフに指さす。


「それよ! あなたは食糧を召喚してくれたらいいのよ!」

「シルヴィア、それはゼフさんに悪いよ」

「で……でも……」

「俺はそれでも構わん」

「えっ……いいのかゼフ?」

「ああ、シルヴィアが気の毒だからな。今から虫は召喚しない」

「決まりね、戦闘になってもゼフは蟲を召喚しないでね」

「ああ、もちろん召喚はしないよ」

「それじゃあ、依頼は明日受けるとして今日はしっかり話し合おう。みんなそれでいいか?」

「だ……大丈夫です」

「大丈夫よ」

「構わない」


 みんなが了承を示し、答えていないゼフを皆んなが見つめる。


「別に大丈夫だ」


 そう答えると、次の議題について話し始めたのだった。



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