第10話 悲劇の幕開け
フレアキャノンを受け、煙が周囲に立ち込める。
やがて煙が晴れ、何をされたのか理解すると、油断していた今まで自分を恨み、防御、隠蔽、阻害、探知、抑制魔法などを使えるだけ使う。
ビートルウォリアはあの魔法を受けても尚、傷一つ無く、何事もなかったように立っている。
「あんなことを言った矢先にこれか……クソっ!」
ゼフがそう反省をし、逃げる事も考慮に入れていると次の攻撃魔法が飛んでくる。
今度はガシガシに直撃し、黒い煙が周囲を包む。
ビートルウォリアとほぼ同じというわけにはいかなかったが、ガシガシもほぼ無傷であり、胸を撫で下ろす。
そして、ゼフは怒りを露わにするように呟く。
「俺の召喚する蟲達が通常よりも強化されているから良かったものの……」
ゼフが蟲達を見渡す。
完全にゼフの落ち度だが、ここには完璧な防御タイプの蟲がいない。
(丁度いい機会だ。この際召喚してしまって構わないだろう。もうこの街には用はないのだから)
ゼフは表情には出さないが、怒りに震えている。
探知魔法を使ったならおそらく人間である自分も探知したはずである。
なのに、攻撃してきた。
それは明らかな敵対行動である。
それならばやり返されても問題ないだろう。
ゼフはゆっくり口を開く。
「来い、アイアンG」
そう唱えると、大量の魔法陣が現れ割れる。
そこには二mはある大きなゴギブリが二足歩行で立っていた。
見た目は、かなり硬いであろうと思われる立派な甲殻を纏っており、腕や太ももの部分も丸太のように太く、黒い甲殻が煌めいていた。
そんな見るからに防御寄りの蟲が、計一五体召喚された。
「アイアンG、俺達を守れ」
そう命令すると、アイアンG達は横一列に並び、ゼフと他の蟲達を攻撃魔法から守る陣形を作る。
その直後、再び攻撃魔法が飛んでくる。
だが、その攻撃はアイアンGの方に吸い寄せられるようにして直撃し、何事もなかったようにその体勢を維持している。
そして、再び攻撃魔法が飛んでくるが、それも先程と同じように、アイアンGに吸い込まれ、炎が爆発する。
実はこの蟲、範囲は決まっているものの、全ての物理・魔法攻撃はこの蟲を倒さない限り他の味方に通すことができないというタンク寄りの能力を持っているのだ。更には高い物理・魔法攻撃の耐性を持っている。
だから、アイアンGを倒さない限り攻撃はゼフに届かない。
「さて、これからどうしようか……」
ゼフがゆっくりと次の行動について考えていると、何十発という魔法が連続で飛んでくる。
だが、そのすべての攻撃をアイアンGが受け止めて防ぐ。
(とにかく誰一人と逃さない為に殲滅力が必要だな。 なら、あの蟲でいいか)
ゼフは笑っていた。
これから召喚する蟲は殲滅力が高く、生き残れるものはいないと考えていたからである。
前の世界ならすぐに対処されるであろうが、この世界のレベルを考えるとそれも無いだろう。
強さで言えば、今召喚している蟲達とは比較にならないレベルだ。
街を一つ失うのは惜しいが、他の街があるのだから問題ないだろう。
「詠唱時間は二三秒か…… 元の世界だったらすぐに探知され、殺しにきているだろうな。改めて思うと、かなり嫌われていたな」
ゼフはそんな昔のことを思い出す。そして、足元に三〇mはあるであろう巨大な魔法陣が現れた。
✳︎✳︎✳︎
衛兵長のガリウスは魔導士達と合流する。
つい先程まで作戦の概要を聞いていた。
その内容が、魔物達が森から出てきたところに魔法を撃ち込み、先手を打つというものだ。
放つ魔法はフレアキャノン、少しやりすぎなようもするが、念には念をということらしい。
「ガリウスさん大丈夫ですか?」
魔導士は横で考えているガリウスに確認の意味を込めて声をかける。
「すみません、少し考え事をしてまして……」
「そうでしたか、もうじき魔物が森から出てきます。見えづらいと思いますが、始まったら魔法で明るくするので安心してください。そして、おそらくですが、撃ち漏らした魔物が流れてくるので、ここから弓で倒してください」
「分かりました、出てきた瞬間を狙って魔法を撃つのですね」
「はい、探知阻害をかけておりますので、魔物には場所が分からないでしょう」
「それは助かります」
探知阻害という高位の魔導士しか使えない魔法をさらっと言われて少し驚く。
そして、三〇分経ったので魔導士と別れ、先程別れた衛兵と再び落ち合う。
「ガリウスさん、魔導士の方に挨拶お疲れ様です。こちらは全て配置に着き準備オッケーです」
「分かった、そろそろ森から魔物が出てくるはずだ。面倒だが他の奴にいつでも矢を放てる準備をしとけと伝え、お前も配置につけ」
「はい、分かりました」
部下は命令に従い、足早に他の衛兵に伝えに行った。
ガリウスもそれを見届け、自分の配置である魔導士の隣に移動する。
「こうしてみると魔物達がかわいそうになってきますね」
ガリウスがそう呟くと、魔導士は頷き口を開く。
「確かにそうですね。こちらは安全な場所から高位の魔法で殲滅されるのですから、非常に可哀想ではあります。ですが、所詮魔物です。彼らは滅ぼされて当たり前なのです」
ガリウスは隣の魔導士が持つ人間が絶対的に正しいという思考に完全に同意できなかった。
確かに少し自分もそういう思考はあるが、魔物だって害がないものもいるのだと今までの経験で知っているからだ。
(最初から思っていたが、この魔導士とは合わないな。これ以降一緒に仕事したくないもんだ)
そう思っていると、魔法が放たれる。
急な攻撃魔法に驚くが、それよりも魔物がどうなっているかを目を凝らして確認しようとした。
どうやら一体も倒れていない。
隣の魔導士もそれを確認したのか声をあげる。
「魔力がある限り打ちなさい!」
それを皮切りに、次々と魔法が矢の如く飛んでいく。
だが、全くもって効いていない。
数も最初よりも増えているような気がし、少し焦りを覚え始める。
そもそも、あれ程の魔法をあれだけ当てているのにも関わらず、全く効いていないあの魔物は一体なんなのだろうか。
恐る恐るガリウスは口を開く。
「どうでしょうか?」
「……まずいです」
「え?」
「かなりまずい状況になってきました」
魔導士の額から大粒の汗が流れる。
どうやら本当にまずい状況らしい。
「では、作戦変更して私達の援護にまわる形でとりましょうか?」
「いえ、それは今から詠唱する魔法を撃ってからでお願いします」
「分かりました」
そう言うと隣にいた魔導士は他の魔導士を一つの場所に集めだした。
だが、その行動をするにはあまりにも遅すぎた。
突如、魔物がいる場所に三〇mをゆうに超えるであろう魔法陣が現れ、約二三秒後に割れた。
そこに現れたのは、体長が四〇mはあるであろうドラゴンのような魔物だった。
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