第9話 引き金
空が薄暗くなって来た頃、王都は二つの事件に悩まされていた。
一つ目は突如姿を消した、本来正門にいるはずの二人の衛兵について。
そして、二つ目は探知魔法で調査したことで発覚した、魔物の大群が王都に進行していることである。
「こうも次から次へと事件が起こると対処しきれんぞ」
衛兵長のガリウスは頭を抱えながら、隣にいる部下に愚痴を漏らす。
「正門に立っていた、ケニーとサインの消息が分からないままだが、今は魔物の方を対処しないといけないな。数はどれくらいだ?」
ガリウスは部下にそれを聞くと、迷わず答える。
「はい、数は大体一〇〇だそうです」
「ずいぶんと少ないな。これなら冒険者に頼めば済むんじゃ無いか?」
ガリウスは階段を上りながら隣の衛兵に当たり前の疑問を言うが、部下は頭を横に振る。
「冒険者には既に頼んでいましたが、どうやら彼らは現在、森から逃げてきた魔物を倒しているようでして、そちらで手が離せないようなのです」
「それで俺達も呼ばれたんだな。魔物が逃げるということはその一〇〇体の魔物は相当な奴ということか」
「はい、そのようです。もし、森から魔物が大量に逃げて来たのは、もしかしたら運が良かったのかもしれないですね」
「そうか……言っちゃ悪いが、この戦い楽しみだな」
ガリウスは笑みを浮かべる。
彼は戦うことが好きである。特に強敵と戦うことが。
ガリウス達は階段を上りきり、街を守る壁の一番上の部分に到着する。
周りを見渡せば、その高さ故か絶景が広がっていた。
ふと、集まっている者達を見てみると珍しい顔ぶれが見受けられた。
「よほど警戒しているのか、城の魔導士達がこんなにいるとはな」
「なんでも王女様の命令だそうです。城よりも街を守れと言われたようなので……」
「なるほどな、いい判断だ。俺達の王女様はとても素晴らしい人のようだな」
ガリウスは王女様が両親を亡くして一人で生還したことを知っていた。
それで心身ともに傷ついてるはずなのにこの行動力は素直に称賛を感じる。
ガリウスの中の王女様に対する評価が一段階上がった。
「さて、俺は一応こんなんでも衛兵長だからな、戦地を共にする魔導士達にに挨拶をしてくる」
「わかりました、では三〇分後にここで落ち合いましょう」
そう言って、二人は別れた。
✳︎✳︎✳︎
森の中、ゼフは約一〇〇匹の蟲達を引き連れ、王都に着々と近づいていた。
その集団の強さを察知したのか、魔物の姿はない。
「時間をかけていないはずなのに、随分と遅くなってしまった」
だが、それも仕方ない。
何故なら森を調べていたからである。
ゼフは蟲達をどうするか考える。
通常、召喚士は召喚した魔物を戻すことができるが、ゼフはその能力を失うことで、自分自身の召喚士としての全能力と蟲達の全能力を向上させている。
なので、蟲を戻すことができないのだ。
だから、通常では魔物がいるとかかるとされる必要な維持魔力も必要ないし、蟲達の食料も魔力で賄える。
なので、特に文句はない。
ゼフはそんなことを考え、一緒に歩く蟲達を見つめる。
本当にいつ見ても癒される。
他の人間がどう思うかは知らないが、彼は蟲は好きである。
自分で召喚したなら尚更だ。
「安心しろ、俺がお前達を幸せにしてやる」
今まで召喚士と蟲達の能力を上げ、更なる高みへ目指し、強くなることしか考えてこなかった。
おそらくこの先もそうだろう。
だが、ほんの一瞬でもいい。
この時間が続けばいいと感じていた。
(俺は自分の蟲をバカにするような奴が許せなかったから、そういう奴らは全て殺してきた。だが、もしかすると我慢すべきだったのかもな。悔やんでも仕方ない……俺は目的を達成するために突き進む。まずは、SSランクの冒険者になることだな)
ゼフはこの世界での最初の目的を決める。
前はB級だったが、ここでは最高ランクになれる可能性がある。
それで満足かと言われたなら、逆にあのような世界に居たいという方がバカだと言い返してやる。
だから、幸運と言えるだろう。
Aランクの最弱の剣士にコテンパンにやられたおかげで転移し、この世界にやってこれたのだから。
「もうすぐ街だな」
蟲達はゼフのそれに反応したかのように体を動かす。
しかし、街への問題は未だ残っており頭を抱えながら悩む。
「この数は流石に宿屋は無理だな。おそらく衛兵がいなくなったことについても捜査してるだろう。もっと何かいい方法はないのか……」
この世界の街の重要性が分からないため、強硬手段は一度保留にする。
だから、気が緩んでしまっており、普通は常に使う阻害や隠蔽、そして探知の魔法を使っていなかった。
そして、森を出た直後にフレアキャノンという攻撃魔法を許してしまう。
それが隣にいるビートルウォリアに直撃し、彼の中にある良心は綺麗さっぱり無くなった。
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