第8話 組合

 時は遡り、新しく冒険者になったゼフが依頼を受けて冒険者組合を出て行った後のこと。

 冒険者達は安心したのか、項垂れる者や話し合う者等様々な反応を見せていた。


「いや〜、流石にあれはおっかねぇぜ」


 一人の冒険者が呟く。

 歳は三〇後半だろう。


「まさかビリーズ三兄弟が殺されるとはな……」

「ああ、俺はまたビリーズ三兄弟に絡まれて可愛そうと思っていたんだが、あんな恐ろしいやつとはな……」

「それにしてもあの時間は苦痛以外の何者でもなかった」

「それは俺も同感だ」

「俺は最初召喚士が召喚できる魔物だから大したことないと思っていた。実際、召喚士なんて簡単なクエストなら役にたつかもしれねぇが、魔力消費が多いくせに召喚できてもオーガぐらいだから侮っていたからな。なのに、奴はそれすらを上回る魔物をいとも容易く召喚していた」


 オーガはC級冒険者が狩ることができる魔物であるが、あの小さな体の蟲はその程度とは到底思えなかった。


「あれほど強いなら、あそこまで傲慢になるのも当たり前かもな」

「まぁ、ビリーズ三兄弟もいつかは自分達に返ってくると分かっていて、やっていたのだから同情はしねぇ。運がなかったのさ」

「そういや、あいつが召喚したビリーズ三兄弟を殺した魔物はなんて言うんだ? それに後から入ってきた魔物も何だろうな……」

「後者はわからねぇが、前者は奴が言う限りでは嘘だとは思うが、ガシガシという魔物みたいだな 」

「……何故嘘だと思うんだ?」

「俺が知る限りでは、ガシガシはデスワームと同じぐらい強いと言われている。普通だったら一体倒すのにも骨が折れるレベルだ。だが、奴は簡単に召喚していた。召喚するときの魔力の消費量から考えて、ガシガシはありえない。だから、あれはガシガシという名の別の魔物だ」

「なるほど、確かにそうかもしれんな。それが嘘だとしても、あれが簡単に召喚できると印象付けれるのか」

「ああ、実際ビリーズ三兄弟が手も足も出ない魔物だからな。俺達には手が負えないだろうな」

「そうだな、問題は奴の性格もだな」

「ああ、奴はビリーズ三兄弟を躊躇なく殺し、それを見て楽しんでいるように見えた。 はっきり言って異常だ」

「あれにはこちらから関わらない方がいい。何されるか分かったもんじゃない」

「そうだな、だけどよ流石に無知すぎやしなかったか? お金やゴブリンのことなんて村人でも知っていることだ。なぜあんなことを聞くんだと思ったぜ」

「それは俺も思った。もしかしたら俺達が知らない世界から来たのかもしれないな。ハハハ、まあ冗談だがな。正直な話としては分からねぇ、だが奴は恐ろしく強い」

「仕方がない、奴には召喚士としての才能があり選ばれた人間なんだから。俺達が敵うはずないんだよ」


 もし、この会話をゼフが聞いていたならこの者達の命は無かっただろう。

 ゼフは才能があるわけでも選ばれたわけでも無い。

 努力に努力を重ね圧倒的な強さを求め。

 だが、それでも周りの評価としては普通だった。

 男は立ち上がる。

 

「よし、俺はそろそろ行くかな」

「どこ行くんだ?」


 そう問うと、男は渋々答える。


「こんなことはあんま言いたく無いけどよ、俺はこの街を出る。あんな危険な奴がいる街は流石にごめんだぜ ここはいいとこだけどよ、すまねぇな。 悪いことは言わねぇから、あんたもこの街から出たほうがいいぜ」

「そうか、忠告ありがとな。だが、俺はここに残る」

「そうか、それじゃあな」

「ああ、生きていたらまた会おう。その時は酒をおごらしてもらうぜ」


 そう言うと男は笑みを浮かべ組合を出て行った。


(きっと、沢山の奴が街を出るだろうな……)


 そう思いながら、男は机に置かれた酒を一気に飲みほした。

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