第11話 悲劇
「なんだあの魔物は! ドラゴンか! ドラゴンなのか!?」
ガリウスが隣の魔導士にそう叫ぶ。
彼がなぜドラゴンなのか疑問を持ったかというと、その見た目である。
顔には目のようなものが複数付いており、全身の至る所から蟲の脚のような触手が蠢いている。
さらに、大きな蟲の羽のようなものが光を反射して煌めいており、尻尾には針のようなものが生えているからだ。
「私にも分かりかねます…… それよりも王女様や町の住民に避難を!」
魔導士は答えると、慌てて叫ぶ。
あまりの状況にパニックを起こしているようだ。
ガリウスは一旦落ち着き、冷静を取り戻すと言葉を発する。
「ああ、だから俺達がいる」
魔導士はガリウスのその言葉を意味を察し、暗い表情を浮かべながら口を開く。
「まさか……戦うのですか?」
「そうだ」
「何を馬鹿なことを言ってるのですか! ドラゴンというのは災害級の生き物であり、もし人間が戦ったとしても勝つのは難しいんですよ!」
「俺は別に勝たなくてもいい。王女様と王都の住民達を逃がすことさえできればいい」
魔導士はたったそれだけの言葉で理解する。
彼の覚悟を。
「……あなた死ぬつもりですか」
「いや、そんなつもりはない。ただ、今回は流石に死ぬかもな」
言動から彼にそんなつもりは無いようだが、どこかで感じているのだろう。
この戦いは負け戦だと。
「そうですか、私が説得してもその覚悟が揺らぐことはないんでしょう。たがら、私達は止めません。ですが、私達魔導士には王女様を守る役目があります」
「ああ、分かっている。後は俺に任せとけ。だから、王女様はなんとしてでも守れ」
「当たり前です。生きていたらまた会いましょう、ご武運を」
そう言い残すし、魔導士は仲間を集め、魔力消費が大きい飛行魔法を使い、城の方へ飛んで行った。
ガリウスはそれを見届けていると、いつの間にか近づいてきていた部下が呟く。
「良かったんですか? ガリウス隊長」
「ああ、別に構わないさ。だが、お前達には悪いことしたな。本当にすまん」
ガリウスは申し訳なさそうに頭を下げる。
だが、他の衛兵達は特に何か言う事なく笑っていた。
「何言ってるんですか」
「そうですよ」
「ここにいる奴らは全員覚悟はできてますよ」
これから死ぬかもしれないというのに、文句も言わずに付いてきてくれる。
その光景にガリウスの目の前が滲んでくるが、すぐに拭き取る。
「そうか……お前達は本当に俺の自慢の部下だ」
ガリウスは自分に喝を入れ叫ぶ。
「よし! これから住民の避難に当たるものと降りて時間を稼ぐものに分けさせてもらう! 残った者は冒険者組合に連絡を頼む! いいな!」
✳︎✳︎✳︎
ゼフは久々に二〇秒も召喚時間が必要な蟲を召喚することができ、ご満悦だった。
もし、元の世界なら二〇秒というのは命に関わる。
何故なら、召喚魔法を使っている間は自分は何もできないからである。
そこが、召喚士の弱点であったのだが、この世界ではそのような心配はいらないらしい。
視線を城壁の方を移すと、何かしているようだ。
(今更何をしても無駄だ。そもそもデスワームやガシガシに全くといっていいほどダメージを与えられないのに、インセクト・ドラゴンに勝てるわけないだろ)
ゼフは城壁の方に指を指し、ゆっくりと口を開く。
「行け、インセクト・ドラゴン。一人残らず殺せ」
ゼフがそう命令すると、インセクト・ドラゴンは叫ぶ。
その咆哮は王都中に響く程、大きいものだ。
それが終わると、インセクト・ドラゴンはゆっくりと王都の方へ向かい始めた。
(念のためだ、この世界の衛兵という人間の戦い方を見てみるか)
ゼフはインセクトドラゴンよりも少し離れた位置からついていく。
城壁が近づくと、衛兵と思われる者達が大量に出てくる。
その者達は無謀にもインセクト・ドラゴンと戦い始めるが、攻撃は全くと言っていいほど効いていない。
「くそっ! なんだこの化け物は攻撃が通らねぇ! 回復頼む!」
「うおりゃあああぁぁぁ!!! 突撃だあああぁぁぁぁ!!!」
衛兵達のそんな叫ぶ声が聞こえてくる。
非常にいい連携だ。
だが、肝心の強さが伴っていないので、話にならない。
しばらくすると、増援として沢山の冒険者が姿を現す。
これ以上増えられても面倒なので再度命令を下す。
「蹴散らせ」
インセクト・ドラゴンは立ち止まり体を震わせる。
すると、インセクト・ドラゴンの体から紫色の煙を噴き出す。
非常に強力な致死性の毒ガスだ。
それは瞬く間に広がり、冒険者と衛兵、そしてゼフまでも包み込んでしまう。
しかし、召喚士の能力で自分が召喚した魔物の攻撃は喰らわない。
だから、毒ガスが晴れた時、立っている人間はゼフだけだった。
(状態異常系の対策は無しか)
ふと、王都に目をやると街から出て行く一つの馬車が視界に入った。
逃げるのが随分と早い。
だが、逃げ方が悪い。
「隠蔽魔法も使わずに逃げるとは、愚か者にも程があるぞ。デスワーム、あいつらを殺せ 」
命令すると、デスワームは地面に潜り、物凄いスピードで馬車に近づいていく。
そして、馬車に追いつくと勢いよく地面から飛び出して、悲鳴が聞こえる間も無く馬ごと飲み込んでしまった。
その光景を楽しんだ後、ゼフはデスワームを一〇〇体召喚し、逃げるものを殺すよう命令を下す。
そして、歩みを再び進め始めた。
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