第3話 死なない術

 それは知らない男だった。

 顔は中の下、ボロボロの茶色のローブを羽織っていた。

 そして、何故この男がタイミングよく出てきたのかを理解していた。

 だから、その男を思いっきり睨みつける。


「睨むのはやめてほしい。奪われるのは弱者の特権であり、奪うのは強者の特権だ」

「その言い方だと、このデスワームも貴方のものなのね」


 するどく尖った言い方だった。

 よほど家族が殺されたのを憎んでいるのだろう。

 だが、それは理不尽だろう。

 弱いのが悪いのだから。

 そして、ゼフは思い出したかのように口を開く。


「そうだ、お前を生かしたのは聞きたいことがあったからだ」

「貴方、あのようなことをして私が素直に答えると思ってるの? あなた王族を殺して……ただじゃ済まないわよ」

「そんなことを言える立場では無いはずだと思うのだが、もしかして貴様は馬鹿か?」


 女性はその言葉で大人しく黙る。

 そして、この先のことを考える。


(はやく王都に戻ってこのこと報告しなければならないと。今感情に任せていたらあのデスワームを使って王都が滅ぼされかねない。ここは慎重にならないと……)


「どうした? 何か考え事か?」

「いえ、なんでもないわ。ただ、貴方が聞きたいこと、場合によっては答えていいわよ」

 ゼフは少し考える。

 見たところ、頭は回るようだ。

 それに嫌なとこを突いてくる。

 自殺でもされたら折角一人残した意味が無くなる。ここは慎重に言葉を選ぶべきだろう。


「……俺は何をすればいい?」

「簡単よ、私と三つの約束をすること。貴方がそれを破った時点で、私は自殺をするわ」

「……いいだろう、言ってみろ」

「一つ目は私を殺さないこと」

「問題ない」

「二つ目は私を王都まで護衛すること」

「やはり……ああ、いいだろう」


 ゼフは今の言葉で元いた世界よりも、力で劣っている世界だと確信する。

 元いた世界では護衛は必要とされていない。何故なら、護衛など無くとも自分で対処できる奴しかいないからだ。


「それで、三つ目はなんだ?」

「……三つ目は王都と住んでる人達に危害を加えないこと。それが条件よ」

「分かった、守ろう。ただ、もし提供する情報が嘘だった場合、その約束は守ることができない。十分に発言は注意するんだな」

「それはこっちのセリフよ」


 お互い納得はしたが、口頭の約束であり、証人もここにいる二人だけど、かなり曖昧なものだ。

 だから、ゼフはどこで切り捨てるかに思考をシフトしていた。


「俺が聞きたいのはこの世界のことだ。それと名前と職業教えてくれ」


 目の前の女性は警戒しつつも、約束を守る為かおそるおそる口を開く。


「……私の名前はアリシア、職業は王族よ。貴方の聞きたいことってどんなことかしら?」

「とりあえず、この世界最強の攻撃魔法を教えてほしい。できれば詠唱時間と必要魔力もだ」

「そのようなことでいいなら容易い御用よ。最強の攻撃魔法はディザスター・キャノン、詠唱時間は短いと一分で発動可能であり、必要魔力は一流の魔導士なら五回は撃てるわ」


 大体は予測できていた答えだ。

 ディザスター・キャノンは、ゼフが元いる世界では攻撃魔法としては使えない魔法として有名だ。

 何故なら威力と必要魔力が釣り合っていないからである。

 

「そうか、他のことは……王都に向かいながら聞こう」

「ええ、分かったわ」


 ゼフはデスワーム達の方を見ながら命令する。


「デスワーム、俺たちに敵意を向ける生き物を全て排除しろ」


 そう命令すると、デスワームが地面に潜って動き始める。

 そして、ゼフは王都に向かって歩き始めた。


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