第39話 婚約者はやっぱりいろいろ面倒くさい 4
それから数日たち、ソフィアは答えを保留にしていた。
あまりの出来事にすぐには決めかねたことである。もし引き受けたら、領主としての仕事も引き受けることになる。
もちろん仕事を補佐してくれる、マーティン様もいるし、祖父もいる。
マーティン様の家には仕事を手伝ってくれる秘書官も何人かいるので、事務的な問題はない。
あとはソフィアの心持ち次第になったのだ。
「オスカー様……」
「ソフィア……」
カタリナの部屋に花をもって行こうとすると、オスカーが部屋から出てきた。カタリナを訪ねに来たのだろう。
まだ婚約に関してどうするか答えが出ていない。
「オスカー様、ちょっといいかしら?」
「わかった」
話し合おうと話したのに、やっぱり大切なことはオスカーが決めてしまう。それがソフィアには不満だった。ふたりで屋敷の外の芝生に近くのベンチに移動した。
「オスカー様……なんで何もいってくれないの?」
「今回のことか……」
「いいえ、いつもよ。わたしはいつも結果だけを知らされている。わたしってそんなに頼りないかしら?」
「……ごめん」
「オスカーがわたしを信じないのだったら、わたしも信じられない」
「違う、信じているから……君だったら俺の意見に関係なく進んでくれると」
「だって……わたしが決めるしかないじゃない!」
「ああ、だからソフィアが決めてくれ。婚約をなくすことはソフィアが決めてほしい」
「そんな……」
「婚約は俺たちが決めたことじゃなかった。だから最初から俺たちの意見なんてなかった。だから俺たちでそんな契約をなくしたい。それで、また機会があれば君と新しい道を探したい」
「いつまで一人でいるかわからないわよ。待っていられないのだから」
「いいと思う、ソフィアが選ぶ道なのだから。もしソフィアが選ぶ道に俺がいないとしたら、俺はそこまでの男だ。ソフィアに見合う男だったら、君を振り向かせるくらいにならないと」
「オスカー様は進む道を決めたのね」
「ああ。ソフィアには何から何まで世話になってしまう。どうか母上と、これからうまれるだろう俺の弟か妹を頼む」
「わかったわ、わたしに任せて。オスカーは王都でがんばって。応援しているから。わたしもオスカー様に負けないようがんばる」
「やっぱり、ソフィアは最高の女性(ひと)だよ」
オスカーは笑顔で笑った。
その顔は今までのオスカーとは違った。
18才のオスカー。これからどんどん男性っぽくなっていくだろう。まだ細い体も、もっとごつくなっていくかもしれない。
おじさんになって、白髪になって。年をとったらお腹だって出てくるかもしれない。このままこうやってずっと一緒に笑っていられる日は続くのだろうか。
それは、ソフィアにもオスカーにも分らなかった。
道は続いていく。
婚約者だった期間はそれなりに年月があった。そして幼なじみであった期間もあった。
これからは新しい関係ができるのかもしれない。同じ道に重なる時まで、お互い成長できたらいいと思う。
「オスカー様、婚約を解消しましょう」
ソフィアは少し涙がにじむ目頭をぬぐって、笑顔でオスカーに言った。
オスカーは無言で頷いた。
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